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平塚市美術館「こどもたちのセレクション」エピソード⑥

 近藤弘明さん『幻光ー御感の藤ー』(1987年 164.9×300.1cm 彩色、金・紙)は屏風の作品です。平塚市美術館さんの「所蔵作品データベース」で画像を見ることができます。

https://jmapps.ne.jp/hiratukabi/

 小田原城址公園にある藤棚が描かれているとのこと。大正天皇がご覧になって感動された藤棚だそうで、それが「御感の藤」という副タイトルに込められているようです。

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●園児・年長さんとの鑑賞ツアー

 この作品が展示されていた期間は、保育園児さんの鑑賞ツアーが何回かあった時期でした。年長さんたちが美術館に遠足のように来館して鑑賞する、1時間のプログラムです。

 バスに乗ったり歩いたり、お出かけのソワソワ、ドキドキ。
 事前に「美術館クイズ」を入れたビデオレターを園で見てもらってからお会いします。子どもたちに「馴染みの人がいる」と安心してもらいたい、そんな気持ちでビデオレターを思いつきました。こんなに一般の人が動画を投稿するなんてことのない10年くらい前のことです。

 保育園児さんのツアーでは、この他にも「輪っか式」と名付けた鑑賞方法を編み出しました。それはまたの機会に。

 園児さんツアーでの記録は、美術館の職員さんが録音してテープ起こしをしたり、その場で書き留めてくださったりしています。(私も自分がどんな投げかけをしているか、聞いてみたいような気もしますが!)
 園児さんのときの記録はクラス単位。通常の鑑賞ツアーでの1人1人の「記録用紙」とは前提が異なるので、今回の調査の記録枚数には含めず、別立てで考察しています。
 
 年長さんたちが「幻光」を前にすると、言葉がたくさん飛び出します。

まず「きれい~」と思うことが、たくさん挙がります。
・上にきれいに花が咲いている
・月がきれい
・ちょうちょがきれい
・下の花がきれい
・お花の色(紫)がきれい
・赤くきれい
・ちょうちょが虹みたいな色

「なんで?」「どうして?」も、どんどん出ます。
・なんで空が赤いの?
・どうして木がくねくねしてるの
・なんで花が逆さから咲いてるの?
・月がウサギの絵とか何で描いていないの
・なんでチョウチョ虹色なの
・蔓がふしぎ
・空が赤い→夕方だから
・太陽がなくなるところ?

同じく「見たまま、見えたまま」を語ることも多いです。
・花がぶら下がってる
・お花が逆さま
・花が葡萄みたい
・保育園にもある(藤の花)
・木がクネクネ

絵の中に入っていったような感想も。
・ぐにゃぐにゃ木に登れそう
・木が蛇みたい

ちょっと怖い気持ちも!!
・下の方が暗くてこわい
・幽霊が出てきそう
・お化け
・目がある

 4~6歳の頃は、空想的な、独自の感性で言葉が出てくる、とってもおもしろい時期。ごっこ遊びが広がるように、アート作品をみて、空想の羽を広げて、いろんな景色を見るように気持ちを広げていける、楽しい鑑賞ができる時期です!今まさにその年齢のお子さんを育てていらっしゃる方、ぜひ鑑賞してみてください ^ ^

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●いつも描いている子どもだから気づくこと
   
 0歳から小学6年生まで通える(最近は高校生や大人も参加中!)ワークショップ「アートケアひろば」の会員さんとおたのしみ鑑賞会をしました。とっても恥ずかしがり屋さんな2年生の子が「藤の花びらがチョウチョに見える」と伝えてくれました。

 その子は1年生の時、毎年夏の恒例のTシャツワークでチョウチョを描いていました。この藤の花のような白や薄い紫です。とても丁寧に、1つを描くのに20~30分かけていました。(この投稿についている写真がその時のちょうちょの絵の一部分です)

 鑑賞では、その人の経験から見えることや出てくる言葉にハッとすることが多々あります。この子のように、自分で描いてきたからこそ、引き合って見えてくるものがある。

 この子の「藤の花びらがチョウチョに見える」という言葉をきっかけに、「もしかしたら藤の周りに飛んでいるチョウチョたちは、花から変化したものなのかも」なんて想像を膨らませました。
 誰かの気づきが、みんなの発想の広がりをもたらす。素敵なものだなぁと、あらためて感じました。

(本稿は美術館ご担当者様に確認いただき掲載しております)


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