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【#14】材料力学の強化書 〜塑性変形の概要(2)〜

今回のトップ画像は、スペインの世界遺産「歴史的城塞都市クエンカ」のサンパブロ橋から撮った写真です。城塞都市とか、ゲームの世界だけでしか見たことがありません。こうして眺めると歴史を感じるほどの壮大な雰囲気ですね。

さて、材料力学の話に戻りましょう。

前回は可逆的な変形(除荷すると元に戻る変形)を表す弾性変形から一歩飛び出して、不可逆的な変形(除荷しても元に戻らない変形)を表す塑性変形について説明しました。また、一般的な応力ーひずみ線図と照らしながら、どのような挙動をするのかを見ていきました。

今回は塑性変形という現象をよりミクロ(微視的)な領域から見ていこうと思います。塑性変形がどのようにして始まり、どのように進んでいくのか。塑性変形の素過程について注目します。

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原子レベルで変形を観察する

物体(材料)の最も小さい構成要素は「原子」と考えられます。その原子は一定の配列を周期的に繰り返す結晶構造を成していて、その結晶構造に応じた変形特性を持ちます。

材料力学_#14_01

微小な変形に対しては、その変形抵抗を表す弾性係数が物体(材料)の特性値になります。弾性領域では原子が少しすべるだけで、除荷すれば元の配列に戻ります。

一方で大きな変形に対しては、特定の原子面が非可逆的にすべります。つまり、下記の図のように規則的に並んでいた原子配列が、すべり面の上でずれることになります。これは線欠陥のひとつで「転位」と言います。

スクリーンショット 2022-02-11 21.39.03

この転位が増殖して運動することで、塑性変形が進行します。その初期段階が応力ーひずみ線図における降伏点の近傍に相当します。

また、塑性変形の進行過程で物体(材料)が加工硬化を起こすことは前回で説明していますが、この原因のひとつとして、増殖した転位が複雑に絡み合うことで変形抵抗が増加することが挙げられます。

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降伏条件と内力の関係

前回で2通りの降伏条件(トレスカの降伏条件・ミーゼスの降伏条件)について説明しました。せん断応力(せん断エネルギー)がある値に到達すると降伏するというのがポイントでした。

塑性変形はある特定された結晶面の相対的なずれ(すべり)によって生じます。これはせん断力と密接な関係があります。復習ですが、せん断力は物体内部の仮想的な断面と平行な方向に生じる内力によるものでした。

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一方で、金属の内部をミクロ(微視的)に観察すると多結晶構造であることが分かります。ここで、結晶とは原子の並び方(方向)が同じ状態の集合体のことを指します。その境目になるのは結晶粒界ですが、転位の運動を阻害する役割も果たします。

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つまり、せん断力によって転位は運動する訳ですが、結晶粒界が運動の障害となるため、徐々に転位が堆積していきます。特に軟鋼で見られる降伏は、結晶粒界に堆積した転位が一気に解放されることで発生することが知られています。

結晶の大きさと降伏応力の間には「ホールーペッチの関係」が成り立つことが知られています。これは結晶が小さいと転位の堆積による材料強化が相対的に強くなることを示していて、結晶の大きさと降伏応力の間に反比例の関係にあることを意味します。

転位については詳しく書かれている書籍もあるので、専門的な話題はそちらにお任せしたいと思います。

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おわりに

今回は塑性変形をミクロ(微視的)な領域の現象論から見ていきました。塑性変形は線欠陥である転位が発生して、その増殖や堆積を繰り返すことで非線形な変形挙動が生まれることが分かりました。

この性質を利用した物体(材料)の強化方法も考案されていて、個人的にはなかなか面白い分野であると実感しています。気になる方はぜひ専門書に当たってみてください。

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最後まで読んでいただき、ありがとうございました。実際は非定期ですが、毎日更新する気持ちで取り組んでいます。あなたの人生の新たな1ページに添えるように頑張ります。何卒よろしくお願いいたします。

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