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60sポップアート由来のエネルギーと欲望の渦に心地よく飲み込まれる😃「田名網敬一 記憶の冒険」に出かけよう!官能的な女性像にも注目👀

88歳となった今も旺盛な創作活動を続ける田名網敬一(たなあみけいいち)さんは、近年、急速に国内外で再評価が進む日本人アーティストです。1960年代よりグラフィックデザイナーとして活躍し続けてきた田名網さんの作風は、「誘惑あふれる過剰」!展覧会に一歩足を踏み入れると、古今東西のあらゆるビジュアルが、目も覚めるような強烈なカラーとともに襲いかかってきます(笑)。

展示風景より

絵画、コラージュ、立体作品、アニメーション、実験映像、インスタレーションなど、ジャンルレスで縦横無尽。特に強烈に感じたのは、田名網さんが20代だった60年代のポップアート由来のエネルギーと欲望です。
そして、1975年から日本版月刊『PLAYBOY』の初代アートディレクターを務められた田名網さんのセンスで、思いっきり官能的な女性たちがたくさん登場するところも魅力。
2024年8月7日からスタートの「田名網敬一 記憶の冒険」@国立新美術館からのレポートです。

レトロだけど新鮮なエロチックポップ


マリリン・モンローらしき女性の横顔のクローズアップが、流し目でこちらを見て赤い口を大きく開けていたり、唇に噛まれたヌードの女性が挑発的なポーズでこちらを見ていたり。。。。。。あからさまにエロいのだけど、ポップな色彩と軽やかな線描がキュートで惹かれてしまう!
これらは、田名網さんが日本テレビ系列の深夜帯生放送番組『11PM』(1965-1990年)から依頼を受けて、1971年に制作したアニメーション作品です。

『11PM』「Good-byMarilyn」展示風景より

ジェンダー的な表現による炎上に日々センシティブにならざるをえない現代から見て、「だって好きなんだもん!」みたいなおおらかさを感じるエロチックポップが新鮮。マリリン・モンローの色気がムンムンの作品もあります。自由の女神の体だけが生身のマリリンになっていたりして艶めかしかったり。

『11PM』「Good-byMarilyn」展示風景より

こちらのチークを踊る男女も、紙を重ねて立体感と動きを出し、女性の顔が男性の頭に隠れたりまたそこから出てきたりする様子が色っぽい!

「優しい金曜日」展示風景より

これらの60年代から70年代の作品が並ぶ壁も激しい。様々なモチーフと女性のヌードが組み合わされて、クリエイティブなエロティシズムが炸裂しています。

展示風景より

おりしも「性革命」の時代であったアメリカを訪れた田名網さんは、キオスクでもヌードを扱うタブロイド紙が多く並んでいるのを目の当たりにしたそうです。それらはただのポルノグラフィーではなく、ヒッピーなどの対抗文化と結びついたラディカルな表現だったとのこと。大いに触発された田名網さんは、ポルノ雑誌や大衆雑誌とともに、日本では当時入手困難だったタブロイド紙やアンダーグラウンド・コミックを大量に買い付けて東京に送り、それらを素材としてコラージュやシルクスクリーンを制作するようになったそうです。(本展公式図録P.85参照)。
時代のエネルギーと欲望が若い作家のそれとシンクロしてダイレクトに作品に繋がっているところが魅力です。現代はNGであっても、当時だからこそできてしまった表現だと思うとそれはそれで貴重。

記憶の大海から顔を覗かせる魅惑的な女性たち


幼少期に体験した戦争や生死を彷徨った大病の経験を大きなきっかけとし、「人間は自らの記憶を無意識のうちに作り変えながら生きている」という考えを持つようになった田名網さん。そんな彼が、自身の過去の記憶や夢を主題とした作品を数多く制作しているのですが、よくこれだけ具体的なイメージがこんなに頭の中に詰まっているものだ!と思うほど膨大なのです。中でも、古典的な西洋名画をモチーフにした作品の数々は、田名網さんの頭の中で再編集されたアートヒストリーとして興味深く思いました。そして、もれなく官能的な女性たちも登場します。パリのルーヴル美術館所蔵の《ガブリエル・デストレとその妹》も、田名網さんの手にかかるとこのような感じ。その中の1枚には、松の木が絡んだバベルの塔を背景に艶然と微笑む彼女たちが、意味ありげな視線を私たちに投げかけているものもあります。これらは90年代の作品で、アメリカンポップのようなダイレクトさは感じませんが、ヨーロピアンな女性たちがミステリアスに誘惑してきます。

Think Have Fun 考える愉しみ 1991

橋から美女?


また、映画のワンシーンや空襲の夜に見た死者と太鼓橋の記憶から、太鼓橋の絵やインスタレーションも多数制作している田名網さん。橋の下には「とにかく違った世界がある」という通説を意識しつつ生み出された作品の数々には、橋のもつ造形的な美しさと同時に、不思議な逸話や伝説もちりばめられていています。この立体的太鼓橋の下からは、アメリカンな女性もヨーロピアンな女性も私たちを見上げてきます。

展示風景より

橋つながりでご紹介すると、北斎のく諸国名橋一覧>を制作のヒントに立体化した新作「百橋図」には度肝を抜かれました。幾重にも積み重ねられた太鼓橋の集積は、美しい噴水のような姿をしながら、ミシミシという不可思議な音を発しています。蠢く妖怪か?見れば見るほど奥の方にも無限に橋が詰まっていて、時には滝になり、時には無数の生き物を渡らせる!
田名網さんは、「『ある秋の日、壁にこんな幻影を見た」という北斎のシュールな脳内を覗いてみたい』」(本展公式図録P.12より)と述べています。「渡りたい!撮影したい!」という私たちの欲望も大いにかきたててくれる作品です。

「百橋図」2024 展示風景より
「百橋図」2024 展示風景より

ピカソも田名網式ポップアートに!


「ピカソの悦楽」と題したコーナーでは、田名網さんの色彩感覚と味付けで模写されたピカソシリーズが壁の床から天井までをぎっしりと埋め尽くしていました。2020年から始めたというこの模写シリーズは、すでに700点以上に及んでいるとのこと。田名網さんにかかるとキュビスムまでポップアートの様相を呈するのですね。まずは、怒涛のように迫り来る作品の数と、迷うことなく描いたのであろうスピード感から膨大なエネルギーを感じました。そして圧倒的に多い女性モチーフ!キュビスム的デフォルメを経ているので、ダイレクトに官能的ではないのですが、女性が芸術にもたらす絶大なパワーを感じました。

「ピカソの悦楽」展示風景より

キュビスムを文字通り立体化した作品もあり、初めてピカソが描いたキュビスムの女性の横や後ろを見ることができました。これはなかなかできない体験なのでぜひぐるりと回ってみてください。

「ピカソの悦楽」展示風景より
「ピカソの悦楽」展示風景より

ご紹介したのはほんの一部ですが、田名網芸術のエネルギーを感じていただけましたでしょうか?会場に行くとこの100倍以上のエネルギーを感じることでしょう。60年代からずっとこのテンションで2024年まで制作し続けた田名網さんってすごい!「私たち、ちょっと省エネしすぎじゃない?」なんて感じながら、「もっと思い切り活動していいんだ!」と元気をチャージできる展覧会です。

※冒頭のアイキャッチ画像は展示風景より撮影
【展覧会基本情報】
タイトル:田名網敬一 記憶の冒険
会期:2024年8月7日~11月11日
会場:国立新美術館
住所:東京都港区六本木7-22-2
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:10:00~18:00(金・土〜20:00) ※入場は閉館の30分前まで
休館日:火
料金:一般2000円/大学生1400円/高校生1000円/中学生以下無料

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