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卒業制作で爆死する前に知っておきたい、UXとUIの違いについて

ミスりました…。
以前デザイン思考の思想について書きましたが、思えばその前にUXの話をするべきでした。

というのも、前回はすでにデザイン思考に興味を持ってる人向けに書いた記事なのですが、そもそも人がデザイン思考に触れる瞬間ってUXに興味があるからではないかと思ったからです。
というわけで今日はUXの話。

あと補足として、「UIを作った」と「UXを作った」の違いについても書きます。特に卒論を書いてる人とかに知ってほしい。

UXとは、何か。

UXとUI

UXは近年よく聞くワードですね。

【ユーザーエクスペリエンス(User Experience)】
「ユーザーが、ひとつの製品・サービスを通じて得られる体験」を意味する。UXデザインとは、このユーザーの体験を改善することで、利用者にとって製品・サービスの質を向上させることを目的としている。

UXとは、User Experienceの略で、例えばアプリの使いやすさを考える人、みたいな感じです。

よく、UXというと、UIがセットについてきます。

【ユーザーインターフェース(User Interface】
Interfaceは「接点」を意味し、ユーザーインターフェース(UI)はユーザーと製品・サービスの接点である「ユーザーに見えて触れるすべての場所」を指す。例えば画面上のボタンとか。

つまるところ、UIを作るために、UXの体験を考えなければいけないよね!ということで、UIUXデザイナーなどといわれています。

【UIUXデザイナー】
UXを考えて、それに紐づいたUIを作る人。真に利用者にとって質の高い製品・サービスを作るためには不可欠。

なお、私はUXUIデザイナーという言い方をします。
これは、UXはUIより大事だと考えているからです。

UXとUIは可分の概念

良く誤解されていますがUXとUIはセットでなければいけないわけではありません。

なぜなら、ユーザーの体験はアプリ以外にも存在するからです。

あなたが何かの製品を買ったとき、あなたが何かのサービスに触れた時、そのすべてに体験が生じます。
であれば、当然、そのすべてをデザインすることが、UXデザイナーには可能です。

UXデザインはiPhoneの箱を作ること

私は、UXデザインとは「iPhoneの箱を作ること」だと考えています。

みなさんiPhoneの箱について知っていますでしょうか。
あの、白くて綺麗で、ラグジュアリーな箱のことです。
開けるの楽しいですよね。ゴージャスな体験です。

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iPhoneの箱って、単価にすると600円ぐらいするらしいですね。
他のスマホの箱の値段はわからなかったんですが、まぁ相場の10倍以上はするんじゃないかと考えています。

要するに、非常に高度な技術で作られた変態的で高単価な箱なんです。

ここでiPhoneの箱を理解するために事実を二つ書きます。

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コスト面だけで言えばiPhoneの箱って無駄なんですよね。
ではなぜAppleはあれだけiPhoneの箱にコストをかけるか。
(細かいことは知らないので仮説ですが)

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つまるところ、iPhoneの箱開けるときの独特の高揚感があることで「何かすごく良いものを手に入れたんだな」という感覚を持ってもらうために、Appleは箱にコストをかけているのです。

これがUXデザインです。
私たちUXの民は、iPhoneを作る上であの高い化粧箱が必要なんですと、提案するために存在しています。

どこまでがUXで、どこからがUIか。

さっきUXとUIの違いについて説明したのに何でそこに戻るんだろうとなるでしょうけれど、これには理由があるんです。

急に話を変えます。

院生の頃、私はアプリの設計とかしていました。
(修論のテーマは「美術館に行った人同士が体験を共有するためのSNS」でした)
その時に、アプリの遷移図を Adobe XD とかで作って実験するんですよ。
(AdobeXDはアプリのプロトタイプを作るのに向いているソフトです)

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実験としてこれを触ってもらって、どうですかーって聞きます。
その結果、自分のデザインは良かったかどうかを確認します。

ところで、私はUXを作ったのでしょうか、それともUIを作ったのでしょうか

これは修論、あるいは卒論、卒業制作といわれるものの特長なのですが(あるいはプロトタイプと検証の本質)、それらは基本的に仮説-提案-検証を行っています。(ただし、日本のデザイン学科では仮説-提案で終わってしまい、検証していないことも多くあります)
本来はデザインしたら検証までして然るべきです。これは、検証されないデザインは、既存のデザインに比べて優位かわからないためです。

話を戻すと、私はさっきのアプリの遷移図を、自分の仮説を検証するための提案として作成したのであって、これを作ることが目的ではありませんでした

では、これが提案だとするなら、私は何を検証したのでしょうか。

「UIを作る」とは何を意味するか

結論から言うと、私は「UX」を検証しました。
もっと言えば、一切の「UI」を作りませんでした。
えぇ!遷移図作ってるのに!?

User Interfaceの解説に立ち返りましょう。

【ユーザーインターフェース(User Interface】
Interfaceは「接点」を意味し、ユーザーインターフェース(UI)はユーザーと製品・サービスの接点である「ユーザーに見えて触れるすべての場所」を指す。例えば画面上のボタンとか。

つまり、User Interfaceって、インタラクションの設計のことなんですよね。

画面のこの位置にボタンを配置するとユーザーのクリック数が増えるとか、ボタンを押して〇秒以内に反応するとストレスがないとか、文章の色は何色にすると誤読率が〇%下がるとか、アプリの各ボタンを間違えて押さないようデザインや配置を考えるとか。
UIを作りましたとは、このようなことを新たに設計したことを意味します
程度の違いはあったとして、今までより気持ちいいボタンを作ったとか、表現の質を損なわない障碍者向けカラー配色を考案しましたとか、あるいは、新しい読みやすいフォントを作りましたとかそういうことです。

私は、そういうことを一切提案-検証しませんでした。

先ほど述べた修論テーマである、「『美術館に行った人同士が体験を共有するためのSNS』という目標を達成できているか」の一点のみが検証の対象であり、つまりは体験を提案し、UXを検証したのです。

きちっと理解してる人(教授とか?)に「UIを作りました」というと、インタラクションをデザインしたのだなと捉えられます。
UXを提案した人が「UIを作りました」というと、革新的なUXがあったとしてもUIが設計されてないだけに評価されません。
私はそうやって焼けてる修論の公表会をいくつか見ました。

というか今ならわかります。私もそういわれたらUIについて聞きます。
学生が「ここ(UI)を論点にしてください!」といっていてUXの話をされても、お前の論点はUIじゃなかったのか?となるだけなので

なお、「ユーザービリティ」はUXとUIの両方を内包する言葉です。
なぜなら、実際にユーザーが使うときはそのどちらの影響も受けるからです。
うっかりユーザビリティとかいうと、普段優しい先生も手のひらを返したように焼きにくるかもしれません。

UXデザインが介在できない場所は(あまり)存在しない

先ほどもちらっと書きましたが、ありとあらゆるところにUXは存在します。なぜなら、ユーザーの体験はアプリ以外にも、あなたが何かの製品を買ったとき、あなたが何かのサービスに触れた時など、無数に存在するからです。
であれば、UXデザインが介在できる場所も多く存在します。

UXデザインが介在できない場所とは何かというと、機能性や廉価性を重視し、体験を重視しないときです。(もちろん、それら自体が体験重視の場合も存在しています)
iPhoneの箱がiPhoneの体験を高めているからといって、格安スマホが同じ戦略を取る必要はないということです(それこそ無駄なコストです)。

私は、UXデザインが介在できる場所で生きていきたいですね…。

UXをデザインすると売上は上がるのか

これ、めちゃくちゃ嫌な質問なんですよね。
デザインやってる人は言われがちだと思うんですが、
例えば「ロゴ」や「サイトの刷新」や「店舗の改修」や「UXデザイン」を提案した時に、「じゃぁ、それで売り上げが伸びるんですか?」と聞かれる時があります。

知らんよ。

少なくとも、私たちデザイナーは売り上げが伸びると信じています。
私たちはそれがコストを回収しうると思っています。
私たちはそれがあなたたちがユーザーに好かれる理由になると考えています。
でも、それを実行する前に証明する方法はありません
なので、可能な限りミスマッチを少なくするために行うのが、検証です。

終わりに

私はこれを理解したのが修論書いてる途中で良かったです。
公表会の時にわかってなかったら、みんなの前でぼこぼこにされた可能性があります。というか、私が先生ならそんな学生はぼこぼこにします。

今、この記事を1か月半ぐらい前に書くべきだったな…と後悔しています。
もう卒論各時期は終わってるもんね…

補足1:ただの画面屋さんなら、UIデザイナーはいらない

わたし、世の中で言われるUIデザイナーという仕事をこの世から滅ぼしたいんですよね。

世にいうUIデザイナーって、インタラクション屋さんじゃなくて、ただの画面屋さんじゃないですか(偏見?)、であればそれってあんまり意味がないですよね。

UXのないUIって、そこに正しさはあるんでしょうか。
もちろんある程度マニュアル化できることは認めますが、「ユーザーの行動を考えると、この画面ってこうあるべきだよな…」というようなプロセスなしに、全ての画面を作るのは不可能…というかやってはいけないと思います。
あるいは、UX屋さんと連携してください。

補足2:User Interfaceはデジタルだけじゃない

ところで、UIデザインって、デジタルに限った話だと思っていませんか?

【ユーザーインターフェース(User Interface】
Interfaceは「接点」を意味し、ユーザーインターフェース(UI)はユーザーと製品・サービスの接点である「ユーザーに見えて触れるすべての場所」を指す。例えば画面上のボタンとか。

えぇ、デジタルとは書いてないですね。
概念的には、製品やサービスがユーザーに触れるそのすべてがUIです。

例えば、お菓子のパッケージはインターフェースです。
ユーザーが製品に触れるインターフェースとしては、美味しさが想起されること、情報が提示されていることが求められているのだと思います。また、箱の質感などもお菓子のUXに影響を与えるかもしれません。

あるいは、銀行の対応にあたる職員は”銀行”というサービスのインターフェースです。
今や、銀行の業務の大半は機械化できると思うんですが、何故だかいまだに職員が窓口で対応してくれますよね。あれは恐らく信頼感の問題だと考えています。
例えばあの対応が全てロボットで行われていたら不安じゃないですか?自分のお金はちゃんと預金されているだろうか、とか。
その点、人間は安心感がある。
多くのサービスの窓口から人間がいなくならないのは、人間は非常によくできて安価なインターフェースだからです。

ただし、一般的にはUIデザイナーとはデジタル上の設計する人を示すので気をつけましょう。


いただいたお気持ちは、お茶代や、本題、美術館代など、今後の記事の糧にします!