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レビュー・ガストロノミー・Noeud.TOKYO・「サステナブル」なフランス料理とその先へ

本稿では、フランス料理レストラン・Noeud.TOKYOについて、レビューを行う。
始めに訪問概要を示し、次にコース料理の詳細を記し、最後に考察を行う。
結論としては、Noeudは更なる「サステナビリティ」の追求が期待される、最先端かつ洗練されたフランス料理を廉価で味わうことのできるレストランであった

1. 訪問概要

  • 所在地:東京都千代田区平河町2-5-7 ヒルクレスト平河町 B1F

  • コンセプト:カラダと環境に優しい「サステナブルフレンチ」

  • URL:https://noeud.tagaya.co.jp/#top 

  • 訪問日:2022年3月中旬

  • 予約日:約1ヶ月前

  • コース名:金・土曜日スペシャルランチ☆「Noeud.TOKYO ヌー.トウキョウ」特別ランチ(https://tabelog.com/tokyo/A1308/A130803/13247929/party/154332152、以下当時)

  • 値段:4,235円(税込)+飲み物代(1杯1,000円前後から)+サービス料(10%)

  • コース内容:一口アミューズ1品、オードブル2品、メイン2品、デザート1品、コーヒーまたは紅茶とお茶菓子

2. コース料理

一品ずつ、詳細を示す。

一口アミューズ

一口アミューズは、マッシュしたひよこ豆をキューブ状にして軽く焼いたものに、自家製マヨネーズとタイムの葉を載せたもの。
外側はさくさく、中はホクホクとした食感で、ひよこ豆の自然な香りと味、質感が感じられた。
また味の観点では、豆の甘さ、マヨネーズの酸味と脂肪感、タイムの爽やかさのバランスが取れていた。

オードブル1品目

オードブル1品目は白アスパラガスのスープと紫キャベツ・タピオカのチップスであった。
スープについては、白アスパラガスの味に加えて、ほのかに生クリームの香りが感じられ、三者のバランスが良いように感じられた。
チップスの味はあまり強くはないが、紫キャベツの微かな苦味により味の奥行きが感じられた。

オードブル2品目

オードブル2品目は、イワシのマリネに、菜の花とじゃがいものピューレ、ハーブのムース、雲丹のソースが乗ったもの。
じゃがいものピューレは、じゃがいもそのものの香りと味が引き出されており、またたっぷりと載せられた菜の花は、噛みごたえのある食感と素材自体の軽い苦味があり、それらの組み合わせが印象に残った。
また、酢と白ワインでしめられたイワシは、脂感とさっぱり感のバランスが取れており、じゃがいものピューレとの味のコントラストが絶妙であった。

メイン1品目

メイン1品目は、人参の燻製の人参ソース添え(オール人参プレート)。人参の燻製は本店の看板メニューとのことで、ソーセージと同様の方法で調理されており、人参とは思えないほどジューシーで、素材そのものの味が凝縮され、肉のような存在感であった。
燻製の下には、香辛料の入ったサブレを砕いて土のような見た目にしたものが敷き詰められており、香辛料の複雑な味が感じられる一方で、食感は本物の土のようで驚かされた。
人参をベースにした3種類のソースも全て風味が異なり、これまで食べてきたさまざまな人参の記憶が呼び起こされるような体験であった。

メイン2品目

メイン2品目の肉料理は、放牧豚のコンフィ、白インゲンのスープ、キャベツに黒ビールソースをかけたもの。
豚肉は脂に漬けたコンフィだったが、脂っこさが感じられずまろやかで、塩胡椒も最低限であり、下に敷かれたキャベツや白インゲンのスープの旨味を邪魔しない味付けとなっていた。
また、肉の上にはキャベツの葉を焼いて少し焦がしたものが乗っており、焦げによる苦味がほんの少し感じられる絶妙な香ばしさであった。
そして、黒ビールソースは酸味と苦味が効いており、皿全体に爽やかさを加えていた。
豚肉とインゲン豆の組み合わせはカスレ(フランス南西部の豆を用いた郷土料理)から、豚肉とキャベツと黒ビールの組み合わせはシュークルート(フランス東部のキャベツを用いた郷土料理)から着想し、それらをかけ合わせて本料理は発想されたそうである。

パン

メイン等の付け合わせで供されるパンは、外側のクラスト(パンの外側の固い皮)はバリっと焼かれて厚みがあり、香ばしい味がパン全体のアクセントになっていた。中のクラム(パンの内側の柔らかい部分)は軽くふわふわで塩分が少なく、ソースをよく吸い込む生地であった。
付け合わせのホイップバターも塩分控えめで脂肪感や乳製品特有の臭みが少なく、メイン2品のにんじんやキャベツ、白インゲンといった野菜の旨味を邪魔しないものとなっていた。

デザート

デザートは抹茶の牛皮を紅茶のブランマンジェ(フランス発祥の冷菓)と紅茶のアイスに載せたもの。
ブランマンジェやアイスは、紅茶の香りや旨味が感じられるが重すぎない質感と味付けであった。
また、ブランマンジェの中に散りばめられた松の実は、アーモンドのようなカリッとした食感と、クッキーのようなサクッとした食感が両立したような珍しい食感であり、全体のアクセントとなっていた。

食後の飲み物と茶菓子

食後のコーヒー/紅茶にはカヌレ(フランスのボルドー地方の伝統的なお菓子)がついており、外側がガリっと焼けていて、凝縮された卵とバターの香ばしく深みのある味わいが感じられた。

3. 考察

前項のコース料理の体験に基づき、Noeudを「野菜の位置付け」「料理のアイデア」「サステナビリティ」の三つの観点から考察する。

野菜が主役級であること

一連の料理を通して感じられたのは、常に野菜が主役級であるということである。
具体的には、野菜によるアミューズに始まり、マリネされた鰯や雲丹よりも存在が感じられたオードブルの菜の花、全て人参からできているメイン1品目、そして豚肉と同等に味わえるメイン2品目における白インゲンのスープなどである。

近年のフランス料理においては、野菜を主役にするということが最先端の潮流の一つのようである。
例えば東京では、有名なフランス料理人アラン・デュカス氏(*1)の運営するレストランの一つである「ベージュ アラン・デュカス 東京」においては、ブイヨンやソースを全て野菜からつくったベジタリアンコースが提供されている(*2)。
またフランスでは2021年に、全て植物性の素材を使用するヴィーガンレストランが初めてグルメガイド・ミシュランの星を獲得した(*3)。
そのため、野菜を主役にするというNoeudの料理の特徴自体は、フランス料理の最先端の潮流の一つに位置付けられると考えられる。

豊富な料理のアイデア

一方で、Noeudにおける各皿での野菜の活かし方の多様なアイデアには驚かされた。
オードブル1品目の紫キャベツとタピオカのチップスや、オードブル2品目の上に載っているハーブのムース、メイン2品目の豚肉の上に載った焦がしキャベツなど、各品の上に置かれた要素は、見た目や素材、食感が珍しく感じられた。
またメイン1品目における人参の燻製や、焦がし人参のソース、人参のエキスでつくった飾り膜等からは、人参という一つの素材から展開される多様な料理法を楽しめた。

これらのアイデアは、当日担当されていた中塚シェフによると、ヨーロッパに滞在していた頃に接した料理のイメージや、その時々に生産者から送られてくる食材、そして通常は捨てるような野菜の皮やヘタといった食材の残った部分から、着想するという。
イメージや目の前の食材から料理法を発想することは、ともすると表層的なアイデアになり、一皿ごとの味のバランスを損ないかねないようにも思えるが、Noeudの各皿は新たなアイデアを加えながらも完結した一皿としてまとまっており、そこに本店の実力が感じられた。

本店の予約はやや取りづらいようであるが、フランス料理の最先端かつアイデアにあふれたコース料理を約4,500円という廉価で食べることができる(当時)レストランは貴重なのではないかと思われた。

更なる「オール・サステナブル・フレンチ」として

Noeudは「オール・サステナブル・フレンチ」をコンセプトとして掲げている。
訪問して感じられたのは、本店が確かに生産者との持続的な関係を重視していることであった。
それは例えば、その日のメニューに原材料の生産地を表示していることや、使われなくなった土や木を再利用した壁や机の内装に見られた(下画像)。

(共にPR TIMES. “オープンから1年の「Nœud. TOKYO(ヌー. トウキョウ)」『ミシュランガイド東京2022』で一つ星・グリーンスターを初獲得”. 2021/12/6. https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000091446.html, (2022/6/12閲覧)より引用)

一方で、「サステナブル」という言葉にはより多くの意味が含まれうる。
例えば、店で使用している電気は再生可能エネルギーによるものか、店舗全体から排出される温室効果ガスの概算量がモニタリングされているか、働いているスタッフはそれぞれの生き方に合わせて持続可能に働けているかなど、他にも様々な側面が考えられる。
それらは本店で既に意識されているのかもしれないが、そのような取り組みが行われていることは少なくとも今回の訪問では分からなかった。
「オール・サステナブル」を掲げるのであれば、更なる取り組みの実施や公表により、コンセプトの説得力がより増すように思われた。

Noeudは、更なる「サステナビリティ」の追求が期待される、最先端かつ洗練されたフランス料理を廉価で味わうことのできるレストランであった。


脚注
*1
”アラン・デュカス”. Wikipedia. 2022/3/10. https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%87%E3%83%A5%E3%82%AB%E3%82%B9, (2022/6/12閲覧)

*2
料理通信. “食のバリアフリープロジェクト:FREEなレシピ 8野菜で味を作る技。「ベージュ アラン・デュカス 東京」小島 景シェフ×ベジタリアン”. 2018/4/19. https://r-tsushin.com/feature/movement/food_barrierfree_project_9/, (2022/6/12閲覧)

*3
The New York Times. “Vegan Restaurant Gets Michelin Star in France, a First”. 2021/1/19. https://www.nytimes.com/2021/01/19/world/europe/ona-michelin-star-france.html, (2022/6/12閲覧)

執筆・写真:あゆみ+しょうへい
コメント:久我圭子さん

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