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36arts|DANCE DRAMA「Breakthrough Journey」(東京芸術劇場)

国内外の振付家、プロのダンサー、障害のあるダンサーが協働する、障害者の文化芸術創造拠点形成プロジェクトDANCE DRAMA「Breakthrough Journey」を鑑賞しました。

本公演は、総合演出・長谷川達也(DAZZLE)のもと、日本の魅力とアジア諸国の特色を盛り込んだストーリーと振付により、ダンスカンパニーDAZZLE、先天性の障害をもつ俳優・ダンサーの森田かずよさん、障害のある7名のダンサーチームBOTANなど、日本とアジアのダンサー総勢70名でつくりあげるダンス公演です。

企画の立ち上げは2019年6月。2020年にワークショップやオーディション、作品制作を進め、2021年1月に初演を迎えました。

ストーリー

貧しい生活を余儀なくされるアジアの少年。彼を支えていたのは、カメラマンになりたいという夢と、スマートフォンの画面の向こうに広がるインターネットの世界。だが、かすかな希望も、日々の現実に押し流されてしまう。絶望と孤独。
ある日少年はダンサーを目指す少女の映像と出会う。それは夢を抱きつつ何も行動できない自分とは違い、夢に向かって一歩ずつ進んでいる姿だった。
そんな少女も自らの障害に悩みつつ、居場所を求めてもがきながら、その想いをダンスにぶつけていた。
海を越えて少女の魂に触れた少年は、旅立ちを決意する。
変わらない現実と、変われない自分を乗り越えるために。

Big-i 公演情報より

安心の鑑賞サポート


チラシ

障害者の文化芸術創造拠点形成プロジェクトということもあり、本公演にはさまざまな鑑賞サポートが用意されていました。
音声に加え、手話と字幕でアナウンスを行い、ブザーとともに光の点滅で開演を知らせます。車椅子席はもちろん、聴覚が過敏な方のためにイヤーマフが用意されるなど、さまざまな観客に対応できるように、きめ細やかな配慮がなされていました。
公演中は舞台奥のスクリーンに字幕が表示され、チラシの音声コード(赤で囲った部分)を読み取ると音声で情報を聞くことができました。

会場にも、手話で会話をしている方や車椅子の方、身体に障害のある方の姿がみられました。開演前から高揚している雰囲気で、幕間の休憩中も友人同士で笑顔でおしゃべりを交わすなど、心から楽しんでいるようでした。

イキイキとした感情や動きの表現

本公演は「ダンスドラマ」と銘打ち、カフェや学校、控え室といった情景を伝えるシーンにもダンスが組み込まれています。食事の仕草や勉強の様子、メイクといった細やかな動きは、腕や指先といった上半身を使ってオーバーに伝えていました。

主人公たちの感情は、彼らの演技に加え、複数の黒子が視覚的に表現します。
希望と不安が入り乱れる様子は、心の中の天使と悪魔の如し。時に敵となり希望を失わせ、人を疑い、時に友人のように寄り添い、励まし、時に家族のように身支度を手伝います。

複数のダンサーによる群衆表現、大きな動きによって表現が増幅され、聴覚に頼らずとも視覚だけで十分に心情を伝えることができるのです。

コミュニケーションしながらのダンス

各地域のメインとなるシーンでは、ダンサーグループが鮮やかなダンスを披露します。ブレイクダンスやコンテンポラリーダンス、日本各地の舞踊といった地域色豊かなバリエーションが展開されます。
ダイナミックな体の動きと次々に変わるフォーメーションは、見応え抜群! お互いの体を支えたり引っ張ったりと、お互いの体に触れる振り付けも多く見られます。

車椅子を使ったダンスも迫力があります。ホイールのスムーズでスピーディーな動きに加え、車椅子をお立ち台のように使ったり、車椅子ダンサーをリフトしたり、むしろ車椅子があるからこそ実現できる、立体的な空間の使い方が見事でした。

よくみると、指でカウントしてタイミングを教えたり、体を押したりと、障害のあるダンサーを補助するさりげない動きに気付きます。また、主人公の少女は役柄もダンサー自身も聴覚に障害があるのですが、彼女に対して話しかける場面では手話が使われていました。

けれども、本当に注意深くみていないとわからない程度で、純粋にエンターテインメントとしてクオリティの高いパフォーマンスでした。

入国制限により来日できなかった香港・台湾メンバーからのメッセージ

所変われば

カメラマンへの夢を捨てきれない少年と聴覚障害があることで自分に自信が持てないでいる少女。家庭や学校といった狭い世界で、スマートフォンを通して世界をみていたふたりは、香港でのダンスフェスをきっかけに外に出ます。
そして、アジアを巡る旅を通して、がんじがらめになった心を解き放っていきます。

シンガポールやマレーシアでは道ゆく人に助けられ、台湾では亡くなった娘を想う遺族と出会い、沖縄では「なんくるないさ」と励まされ、高知のよさこいに元気をもらい、大阪のおっちゃんに「同じアホなら踊らにゃ損やで」と背中を押され。
旅の道中で各地の風習や考え方を知り、人の優しさと暖かさに触れながら、光を見つけていきます。

特に、マインドスタイルとでも言いましょうか。「所変われば品変わる」という言葉通り、外の世界に出て、異なる考え方や感じ方、つまり多様性に触れることで、現状を打開する糸口が掴める。
そういったメッセージを強く感じました。

プログラムにはメンバー紹介とコメントが掲載されている

多様な人々が集まり、ひとつになる

公演の最後には、ワークショップや練習風景とともにクレジットが流れました。
ダンサーの特性に合わせて振り付けや合図が考えられていながら、観客にそれと気付かせない動き。1年以上もの間、スタッフやダンサーたちの試行錯誤、練習を通して積み重ねてきた信頼関係がうかがえます。

大勢のダンサーによる一糸乱れぬパフォーマンスは圧巻で、生きる喜びが全身から溢れ出ているようでした。途中、涙ぐんでしまうくらいに感動しました。
ここまで配慮が行き届いて、エンターテインメントとして完成されたステージは、一朝一夕には実現しないのではないでしょうか。

素晴らしい公演との出会いに感謝です。

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