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1book|小倉ヒラク『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』(木楽舎、2017年)

最近読んでとても学ぶことが多かった本を紹介します。
発酵デザイナーという唯一無二の肩書を持つ小倉ヒラクさんの『発酵文化人類学 微生物から見た社会のカタチ』です。
発酵食品、腸活、酵素……単なる食文化だけではなく、美容や健康の観点でも注目されている「発酵」、その目に見えないめくるめく世界をあの手この手でのぞいていきます。

文体の読みやすさ

本全体が話し言葉で――「~だぜ」「~なのであるよ」とヒラクさんが講義してるかのように書かれています。所々に読者を想定した投げかけや呼びかけのようなセリフが挟まれ、「何をヒラク君はエラそうに。その根拠は?」「『すんきの味噌汁』とだいたい一緒じゃねーか!」とツッコミが入るので、リズムよく飽きずに読み進められます。
この「飽きずに読み進められる」という点は大事です。難解な用語が頻発すると著者に置いていかれている感じがしますし、だらだらと簡潔でない文章だったりすると何が言いたいのかが伝わらず、読むモチベーションが失われていきます。私も気を付けたい点です……。

本の構成の分かりやすさ

各章の扉には、テーマ設定とメイントピックスが載っています。不慣れなジャンルの文章では、重要なポイントがわからず読み流してしまいそうになります。ですが、読み進めていく際の指針にもなりましたし、あとで読み返す時にも便利でした。
本文中も、化学反応式や微生物のカテゴリーなど基礎となる概念はイラスト化され、こちらも読み進めていて「これは何のことだったかな?」と振り返る際にページが探しやすい。文章もそうで、「詳しくは●章で後述するよ」「●章の〇〇みたいに」と前後の文脈へのフィードバックが丁寧にされているので、大事なエピソードを反芻しながら読むことで脳に定着させていけるのです。
さらに、各章の最後には「ネタばらし」と称して、参考文献が解説とともに紹介されています。通常では参考文献は、著者名、署名、出版社、発行年が記載されるのみです。ところが、この本では読者の興味のベクトルに合わせて文献が複数挙げられているというアフターケアの良さ。

一粒で二度三度おいしい

本書は発酵の歴史や仕組みとその需要について語られるなかで、文化人類学や美術、科学や経営などの分野にも話題が及びます。日本神話のヤマタノオロチ、文化人類学のブリコラージュという概念や「クラ」という交換文化の話、美の普遍性について……。こうした他分野の知識・考え方を応用して、目に見えない発酵の世界を立体的に見せてくれるのです。
それらは単なる例え話や余談ではなく、何度も登場して理解の助けとなってくれます。話の広がりは、無駄が多いようで決して無駄ではないのです。

発酵についてわかりやすく豊かに、時にディープに語りながらも、読者に対してきめ細やかなケアが行き届いている。内容面でも本の構成としても勉強になる一冊でした。

おまけ
本書に紹介されている高知県の発酵茶「碁石茶」。飲み込んだ時に喉の奥がちょっと刺激される程度の酸味で、思ったよりは飲みやすかったです。

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