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45arts|極付印度伝 マハーバーラタ戦記

「極付印度伝 マハーバーラタ戦記」が素晴らしかったので、もう千秋楽を迎えてしまったのですが、感想を書かせてください!
※本記事では登場人物の名称は読みやすくカタカナ表記にしました

(後日、有料オンライン配信するので、よかったらご覧ください)

古代インドの神話的叙事詩「マハーバーラタ」は、2014年に宮城聰さんが演出した舞台『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』を鑑賞して、これは歌舞伎にできると直感した菊之助さんが発起人となり、実現しました。2017年の初演から6年を経ての再演となります。

豪華な音響と舞台美術

今回は歌舞伎で音楽やナレーションなどの役目を果たす竹本や長唄に加え、普段は現代演劇のフィールドで活躍している音響・舞台美術が参加しています。

ガムラン風の音響

スティール・パンや鈴、鉄琴? 太鼓? など、多彩な楽器を使ったガムラン風の生演奏が入ることで、異国風の音楽になっています。登場人物の心情や場の空気も、いつもより伝わりやすい感じがしました。
このチャカポコが癖になって、サントラが欲しくなります。

ダイナミックな舞台美術

マンダラやクジャクといった優雅なデザイン、ピンクや緑などの鮮やかな色彩がインドの雰囲気です。神々のいる場所も寺院というか仏壇というか、見得(決めポーズ)も十二神将や仁王像のようにみえました。
マハーバーラタに登場するのはヒンドゥー教の神々ですが、「〇〇天」という名前で仏教の仏に加えられています。仏教美術を連想してしまうのも不思議ではありません。

戦いのシーンでは、戦士たちが絵巻物風に描かれた巨大な可動壁、矢が飛び交う様子を表現した巨大なフラッグなど、迫力のある大道具使いが観客を作品世界に引き込みます。

ほかにも、セリ(舞台中央にある上昇・下降する床)や両花道を使った演出もふんだんに使われ、舞台・客席を含めた空間全体を演出されている印象でした。

煌びやかすぎる衣装

神々や姫様の衣装もキラッキラです。神様はインドの伝統舞踊カタカリを参考に、頭から爪先まで金色のドレスのような衣装を着ています。男神もパニエで広げたような釣鐘型のスカートでワシワシ歩きます。
人間たちは着物ですが、よく見るとヒンドゥー教の信徒を示す額(もしくは眉間)の点がついていました。

さらには虫や馬やゾウも出てきます。ゾウは一瞬しか出てこないのですが、ダイカット・クッションとか、かわいいと思います。

整えきれない人物相関図

華麗なダンスシーン

二幕目は大戦に至るまでの経緯と個々のエピソードを描いています。

婿選びと婚礼の踊り

まずはパンチャーラ国ドルハタビ姫のお婿さん選び。姫が舞の名手であることから、ダンスバトルで最後まで踊り続けたものを婿にするというのです。
持久戦なんだ……。

このダンスシーンはインド映画『RRR』を参考にしたそうで、足を前後に大きく振る動き、足首をタッチする振りなどは、今回の演目ならではの動きです。
主人公カルナを演じる菊之助さんとライバルのアルジュラを演じる中村隼人さんが競り合うのですが、和風なシナが抜けきれていない菊之助さんと体幹のしっかりした隼人さん、ほかの婿候補の踊りを見比べるのも楽しいところ。

婿選びが終わり、ドルハタビ姫とアルジュラのイチャイチャダンスも見所です。ディズニー映画のプリンセスよろしく、花びらが舞うなか、クルクルとまわり手を取って見つめ合います。社交ダンスのよう。

運命の出会いを邪魔するな!

ビーマとシキンビのカップルは、しっとりと和様の踊りをみせます。
シキンビが一目惚れしたビーマに熱烈にアプローチした後、恋路の邪魔をするシキンビの兄シキンバをふたりで退治します。ここでは、立ち回りやブッ返りという瞬間変身演出といった歌舞伎らしいシーンが楽しめました。

全体的に運命に翻弄されるドラマチックな展開が多いのですが、ここは腰を落ち着けてゆったりとした気持ちで鑑賞できます。

「マハーバーラタ戦記弁当」はターメリックライスとタンドリー風チキン入り

ドラマチックな一大叙事詩

道は見失いやすいもの

太陽神の子カルナは慈愛によって争いを収めよ、帝釈天の子アルジュラは力によって国を統べよと、それぞれ使命を負いました。

ですが、カルナは自分を引き上げてくれたヅルヨウダへの恩義に囚われ、帝釈天から強力なシャクティを授かったことで、戦いへと身を投じます。振り返ると、相手の言葉をオウム返しにするシーンが繰り返しあって、周囲の言葉に流されやすい人物にも思えました。
一方アルジュラは、カルナの言動や母の静止、仙人クリシュナの教えを受け、何のために戦うのか、自分の役割を自覚します。

おのれの役目とは何か

このアルジュラとクリシュナの問答は「バガヴァッド・ギーター」と呼ばれる教えで、「我は世界と一体の存在(一粒)なので始まりも終わりもない、役と役者の関係のように、現世はその時の役割を演じているのだ」とクリシュナは諭します。
その思想は、恵比寿映像祭でみたルー・ヤンの作品のようでした。

後半のドゥフシャサナと双子のナクラ・サハデバの戦いにも注目です。「自分は取り柄がなくて姉を支えるしかない、お前たちもそうだろう」と吐露するドゥフシャサナに対し、「あるかないかは、おのれが決めるんだ!」と刃を突き立てる双子。
(心に)刺さる……。

カルナのように能力や導きがあっても、心が決まっていなければ活かせはしない。双子のように(双子も神の子でマントラという特殊能力もあるのですが)兄王子たちに比べてパッとしない実力であっても、強い決意や志を持てば力が備わってくる。胸が痛いですね。

魅力的なキャラクター

風神の子ビーマ

いつもは好きにならない金太郎ポジション(顔が赤い怪力自慢)のビーマが魅力的でした。

敵役の計略にはまって我慢できず殴りかかったときの「手を出しおったな!」「出したわ!」のやり取りも潔く、魔物の熱烈なアプローチを受け入れて謹慎が解けたら森で暮らすと言うくらい偏見もなくて。
周囲が天命について思い悩んでいる人物ばかりなので、ビーマの真っ直ぐさが眩しく、長兄のユリシュラをはじめ兄弟たちが理性的な分、ただの暴れん坊にはならなかったのかもしれません。

でも武器はモーニングスターでクリティカルヒットはいつも素手。

思わぬ伏兵ガトウキチャ

そのビーマの息子ガトウキチャ役で尾上丑之助くん(9歳)が出演しています。歌舞伎特有の声の出し方や立ち廻りが大人のそれで、歌舞伎役者としての自覚や覚悟をもってやっているのだなと尊敬してしまいますね。

せっかく父に会えたのに……この戦いの後、ビーマは森でシキンバ暮らしたのかなとwikiを見たら、人物相関図がさらにややこしく展開もバイオレンスだったので、ちょっと後悔しました。別物と考えよう。

稀代の悪役美女ヅルヨウダ

中村芝のぶさん演じるヅルヨウダは、先王の兄である王族の長男の子孫です。
王位継承を主張し、事あるごとに計略を巡らせて、アルジュラたちを苦しめます。が、確かに彼女の言い分ももっともで、カルナという光に触れ、折に触れて自省する場面もありました。

その表情や声の出し方など、悪役ぶりが堂に入っていて、甲冑姿も妖艶で素敵なのです。歌舞伎以外の舞台でもみてみたい。

よく考えるとツッコミどころが無限に湧いてきてしまいそうなのですが、とても完成度の高い舞台だと思います。

序幕・二幕目・大詰と3時間あるので「インド映画かよ」ってなりますよね。けれど、場面転換が多いので飽きることなく、幕間の休憩が2回あるので安心です。
私はインド映画を観たことがないのですが、ハマる気持ちがわかりました。

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