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ショートシナリオ「えくぼ」

昔書いたシナリオの一つ。ヒューマンドラマにチャレンジしてみた。ストーリーじゃなくてシーンを描け、としつこく言われてそれを意識して書いた作品。結構初期の頃の方だと思うが、ノート見直すとミステリ系やら色んなアイデアを出しては行き詰まり…を何度も繰り返しててこのシナリオに至るまでに相当悶絶している様子が伝わる。昔は書いててしっくりこなかったけど、今改めて読むとぐっとくるものがあってびっくり。結局ストーリー書いてるけど。でもまあ過去の自分頑張ってたんだなって少し思った(笑)。

■タイトル「えくぼ」

■登場人物
上野美佳(11) 小学生
上野杏奈(11) 美佳の双子の妹
上野邦彦(42) 美佳の実父
上野玲子(33) 美佳の継母


■本文

○上野家・全景(夕)
   普通の一軒家。
   桜の枝が寒々しい。

○同・二階・子供部屋(夕)
   勉強机とベッドが二つずつ。
   上野美佳(11)と上野杏奈(11)がそれぞれのベッドに寝転んでいる。
   二人とも同じ顔、髪型、背格好である。
   美佳は頬杖をつきながら雑誌をめくり、
   杏奈は手に持った開閉式のコンパクトミラーをかざして
   顔を輝かせている。
   表面には蝶のレリーフにラインストーンがちりばめられている。
   鏡面には小さな蝶のデザインと「anna」の文字。
杏奈「ほんと、きれい!
 ママ、離れ離れになっても私たちの誕生日、
 ちゃんと覚えててくれたんだね」
   杏奈、嬉しそうに鏡を覗き込む。
美佳「2月22日生まれの双子の娘の誕生日を忘れる方がどうかしてるって」
   美佳、そっけない返事。
杏奈「ね、見て、お姉ちゃん」
   杏奈、鏡を持って美佳の横に寝転び、美佳を見てにっこり微笑む。
美佳「(怪訝な表情で)ん?」
杏奈「(笑いながら)お姉ちゃんも笑ってみて」
美佳「こう?」
   美佳、杏奈に促され、にっと笑う。
杏奈「(美佳の顔をじっと見つめて)やっぱり!」
   杏奈、満足げな表情。
美佳「何ー? 気持ち悪いなあ」
杏奈「ほら、笑うとできるえくぼの位置!
 私は右側だけど、お姉ちゃんは左側」
美佳「えっ? ……ほんと?」
   美佳、鏡を取り出し自分の顔を覗き込む。
   鏡は杏奈と同じデザイン。
   鏡面に彫られた名前は「mika」。
美佳「私は、左側……」
   美佳、鏡に映った自分の笑顔を見て、
   頬のえくぼを指差し、つぶやく。
杏奈「私は、右側!
 だから、鏡に映る私の笑顔はお姉ちゃんの笑顔なの!
 お姉ちゃんが鏡を見て笑ったら、それは杏奈の笑顔!」
   杏奈、自分のえくぼを指差して、楽しそうに美佳に説明する。

○同・一階・リビング(夜)
   上野玲子(33)がミシンで縫い物をしている。
   ミシンを止め、ピンクの水玉柄の布を広げてみる。
   赤ちゃん用のスタイである。
   ふっと息を吐き、膨らんだお腹を大切そうにさする。
   電話が鳴る。
玲子「はい、上野でございます。
 あ、邦彦さん。えっ? そう……はい、分かりました。
 あなたもあまり無理しないでね」
   玲子、受話器を置くと、ペンを取る。
   壁にかかったカレンダー。
   経過した日に×印がつけてある。
   玲子、ため息をつきながら、
   ペンで「出張」の文字の横に書いた矢印線を横に延ばす。

○同・二階・子供部屋(夜)
   ベッドで就寝前の美佳と杏奈。
杏奈「ねえ、お姉ちゃん。最近の玲子さん、ちょっと変だよね?」
美佳「……」
   美佳、黙っている。
杏奈「こないだ夕飯でエビ出たでしょ?
 私たちアレルギーだって知ってるはずなのに。
 今日もね、ママからのプレゼント、
 間違えてゴミ箱に捨てそうになったんだよ」
美佳「……杏奈は鈍いね。私ら、迫害されてるんだよ」
   美佳、少しイライラしながら返事。

○同・一階(夜)
   リビングにはベビーベッド、赤ちゃん用の玩具。
   ベビーウェアやおむつの詰まった収納ボックス。
   食器棚には哺乳瓶、ベビー用食器。
   玄関にはベビーカー。
   ところ狭しと並ぶベビー用品。

○同・二階・子供部屋(夜)
   引き続き美佳と杏奈が話している。
美佳「玲子さんにしてみれば私も杏奈も邪魔なだけ。
 誰だって自分と血のつながった子供の方がかわいいもんでしょ?」
杏奈「そりゃあそうかもしれないけど……
 でも、私たちにはパパがいるじゃん?」
美佳「パパなんか頼りにならないよ。
 仕事でほとんど家に帰ってこないんだから。
 大体、子連れを承知で結婚してくれた玲子さんには
 頭上がんないって」
杏奈「……ふうん」
美佳「私も杏奈も、呑気に暮らしてられるのは
 赤ちゃんが産まれる日までだよ」
杏奈「そっかあ……あーあ、
 早くママと暮らせるようにならないかな」
   杏奈は手元の鏡を見つめてため息。

○同・一階・リビング(朝)
   壁にかかったカレンダー。
   「出張」の矢印線の先端と×印が重なっている。

○同・一階・玄関(夜)
   上野邦彦(42)を迎える美佳と杏奈。
美佳「(杏奈のフリをして)パパ、おかえりなさい!
 杏奈、淋しかったよぅ」
   美佳、甘え声で上野に抱きつく。
上野「おお、杏奈ー。留守にしててごめんな」
杏奈「(困惑して)パパ、杏奈は私だってー。
 お姉ちゃん、嘘つかないでよ」
美佳「どうして? 私が杏奈なのに。
 お姉ちゃん、なんでそんなこというの?」
   美佳、杏奈のフリを続ける。
上野「おいおい、本当はどっちなんだ?」
   上野、戸惑いながら二人の娘を見比べる。
美佳「(素に戻って)娘の顔も見分けられないなんて、父親失格」
   美佳、不機嫌そうに上野を蹴飛ばす。

○同・一階・リビング(夜)
   テーブルを挟んで上野が美佳・杏奈と向かい合っている。
   玲子は少し離れたキッチンで洗い物をしている。
上野「美佳、杏奈、よく聞いて」
   上野、深刻そうに眉を寄せる。
上野「……お母さん、どうしてもお前たちと一緒に暮らしたいって」
   身を乗り出す杏奈。表情がぱっと輝く。
上野「でも、お父さんもお前たちを失うわけにはいかない。
 それで、ずっとお母さんと話し合ってきたんだけど……」
   上野の言葉を待つ美佳と杏奈。
上野「(美佳の方を見て)美佳、お母さんと一緒に暮らす気はないか?」
美佳・杏奈「!」
美佳「杏奈はどうなるの?」
   美佳、すかさず上野に聞き返す。
上野「杏奈は……杏奈はお父さんと一緒だ」
   強張った表情で苦しそうに答える上野。
美佳「そんなの勝手だよ!」
   美佳が立ち上がって叫ぶ。
   キッチンの玲子が驚いて振り向く。
美佳「お父さん、杏奈の気持ち考えたことあるの?」
上野「わかってる。でも……」
美佳「全然わかってない!」
   食ってかかる美佳。
杏奈「それでいいよ」
   杏奈の言葉が美佳をさえぎる。
   上野と美佳が驚いて杏奈を見る。
杏奈「私、このままお父さんと暮らしたい」
   杏奈、にっこり笑う。が、目から涙がポロポロとこぼれる。

○同・玄関
   家のそばの桜が開花している。

○同・二階・子供部屋(夜)
   就寝前。美佳と杏奈の話し声。
杏奈「(不安げに)今の感じどうだった?」
美佳「うん、かなりよくなった。その調子」
杏奈「でも……お姉ちゃん、本当にいいの?」
美佳「そのことはもう十分話し合ったじゃん。
 じゃあ私寝るね。お休み」
   美佳、ベッドに入って杏奈に背を向ける。
   手には母からの鏡。
   閉じられた美佳の目蓋にうっすらと涙がにじむ。

○同・玄関(朝)
   満開の桜。
   車の運転席には上野。
   後部座席には美佳と杏奈。同じ服装である。
上野「じゃあ、行ってくる」
   玄関先の玲子に声をかける上野。
玲子「(涙ぐんで)美佳ちゃん、元気でね」
   車が発進し遠ざかっていく。

○緑が丘公園・駐車場
   桜並木。上野の車が止まっている。
   公園の入口に向かう上野と美佳、杏奈。
   桜の花びらが舞っている。
美佳「(上野を見て)お父さん、悪いけど少し杏奈と二人になりたいの」
上野「え? ああ、分かった。
 じゃあ、ママが着いたら戻ってくるから」
   上野、気を使いながら慌てて立ち去る。
美佳「杏奈、ママからもらった鏡出して」
   美佳は自分の鏡を取り出し、杏奈の鏡と交換する。
美佳「今日からは私が杏奈、杏奈が私だよ。
 ママにも絶対話しちゃダメ。分かった?」
杏奈「(うなづきながら)でも……」
美佳「杏奈、ママと一緒に暮らしたいんでしょ?
 だったらやるしかないの。
 そのために私の口癖練習してきたんでしょ?
 大人の世界は杏奈が考えてるほど甘くないんだから」
杏奈「私……お姉ちゃんと離れたくない」
   杏奈の目から涙がこぼれる。
美佳「お姉ちゃんに会いたくなったら?」
   美佳、鏡を開いて杏奈に問いかける。
杏奈「……鏡を開いて、にっこり笑う」
美佳「鏡に映る私の笑顔は杏奈の笑顔。
 杏奈が鏡を見て笑ったら、それは私の笑顔だよ」
   美佳、杏奈のえくぼを指差しにっこり微笑む。
   杏奈もにっこりと微笑むが、すぐに泣き顔になる。


■まとめ
「鏡」を小道具としていかに効果的に使えるか?という課題でした。
双子トリックは世に溢れているけど、一度使ってみたかった。
プロの現場では双子を登場させるのはNGだとのこと。確かにキャスティング難しいよね。
「セリフは嘘をつく」を意図して使った。
前半で出したセリフを後半でも使うんだけど、人物の心情が反映されてその意味合いが深まるところが個人的に気に入ってる。
季節感、時間経過の表現を工夫しているが、イマイチ。
当時は「なんかスケール感なくてこぢんまりしてるな〜。枠組み狭いな〜」と物足りなさを感じていた作品でした。


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