【ルーツ旅 #6】なめとこ山の熊と鉛の湯
二日間の充実した釜石旅に続いて、花巻へ向かいます。
釜石から車で1時間間ほどで花巻市街地に、そこからさらに20分ほど西へ向かうと、この日の宿、花巻温泉郷です。
今回花巻温泉を二日目の宿に選んだ理由は、母方の曽祖父(母ー祖母ー曽祖父)のルーツが「岩手県稗貫郡湯口村」であり、それが現在の花巻温泉であることがわかったからです。
花巻温泉 鉛の湯
この日の宿は花巻温泉郷鉛温泉「藤三旅館」
長期滞在用の湯治部と、今回私が宿泊する旅館部があり、客室は違えどどちらも同じ湯を楽しむことができます。
赤い絨毯とレトロな売店の看板から漂う哀愁、鄙びた宿という枕詞が温泉への期待を加速させます。
今回はとことん「湯」を堪能することに主軸を置いての滞在です。
4つある湯はそれぞれ時間帯によって男女入れ替わるため、計画的に時間を使わないと全てに浸かることができません。
この宿の名物湯である白猿の湯はほとんどの時間んが混浴とされていますが、実質男湯時間であるため、この日の到着時間が少し遅かったこともあり、女性専用時間となる翌日の早朝までお預けです。
客室は昭和16年建築との事もあり、歴史を感じる佇まいで、昔ながらの旅館の風情を感じることができます。
部屋に通され、ふと目が止まった窓には張り紙が。
その貼り紙を背に、既にカメムシが畳に三指ついてお出迎えしてくれるという準備万端さに、カメムシの本気を感じずにはいられませんでした。
鉛温泉の口コミにはちょこちょこカメムシの存在が登場するあたり、『今年は』と謳っているものの、果たして今年だけなのかという疑問を感じつつ、これまた鉛温泉を訪れた証として記しておきたいと思います。
薬湯の力は偉大なり
夕食までさほど時間はないものの、一風呂目の白糸の湯へ向かうことにしました。
温泉宿の大浴場が一番混み合う時間であり、最も慌ただしく活気溢れる時間でもあります。
思えば久しぶりの温泉、そして大浴場。
お湯に浸かった瞬間、全身がびりびりとした感覚に包まれます。
決して刺激のある泉質という訳ではありませんし、熱すぎて入れない温度でもありません。
むしろ柔らかくて、匂いもほぼない優しいお湯です。
実際に肌への刺激があるということではないのです。
それなのに全身がビリビリするような感覚を覚えたのは、身体が冷えていたからなのかはたまたま薬湯と言われるほどの湯ゆえなのでしょうか。
たった5分ほどの入浴で、ぽかぽかするだけではない、これまで味わったことのないようなエネルギーが満ち満ちた感覚に大きな満足感を得られました。
既に夫は一足先に名物『白猿の湯』を堪能しており、やはりその泉質に感動したと興奮気味に語ります。
硫黄系のガツンとした存在感があるお湯でないにもかかわらず、この静かにいい仕事をするこのお湯に心を鷲掴みにされてしまいました。
歴史ある鉛温泉、宮沢賢治の童話『なめとこ山の熊』にも鉛の湯の記述があるのです。
鉛の湯の底知れぬパワーに興奮冷めやらぬまま、夕食へ。
お湯で感動を使い果たしてしまい、美味しかった夕食の記憶がやや薄れてしまいました。
いや、美味しかったのです、とっても。
A5ランクの和牛のしゃぶしゃぶはとろけていましたし、どれも丁寧なお仕事でした。
夕食の後、また別の湯へ。
その時間は既にお風呂も静かな時間、先程とはうってかわってのんびりした時間を過ごすことができました。
白猿の湯のボス猿
翌日早朝6時。
この時間から女湯に切り替わる「白猿の湯」。
短いチャンスを逃すまいと、宿の女子たちは続々と集まってくることでしょう。
赤絨毯の長い廊下をぼさぼさ頭のまま、いそいそと湯へ向かいます。
ガラリと扉を開けると、地下へ続く階段があり既に先客で溢れる湯が眼下に現れます。
何故か後ずさりし、無意識に一度扉を閉めてしまった私。
混浴でもなければ、普通に女湯ですからなんら躊躇うことはありません。
なのに、ちょっとその光景に圧倒されてしまったのでした。
階段を降りると脱衣場があり、浴場とは衝立1つ隔てているだけ。
洗い場もありません。
お湯の淵はぐるりと先輩女子達で埋まっています。
失礼します…
それにしても温泉へ行くとそこにはたいてい「ボス」がいて静かにその場を制する存在感を放っているものです…
ここは白猿の湯…そしてそのボス…
先客の圧に屈することなく、お湯に踏み入れます。
1.25メートルの深さはプールくらいでしょうか、
背が高い私にとっては恐怖を感じる深さではありませんが、顔だけやっと出ているご婦人や、ボスに至っては湯から出て淵に腰掛けている状態でした。
混んでいなければお湯の中を歩き回りたいところですが、1往復お湯の真ん中まで歩いた後に静かに淵に背をあて立ち尽くします。
うん、なんとも落ち着かない。
かつて訪れた愛媛の道後温泉や那須の鹿の湯を思い出す「芋洗い」感。
こうして私の白猿の湯は幕を閉じました。
この後充実した朝食を頂き、最後に四つ目のお湯へ。
その時間は大浴場には私一人だけ。
窓から見える豊沢川と新緑を眺めながらのんびり羽を伸ばすことが出来ました。
鉛の湯、味わい深い思い出の温泉となりました。
宿をチェックアウトして、旅の3日目は花巻市街地へ向かいます。
今日もお付き合いくださりありがとうございました。
続く
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