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夢日記 郷愁

 ぼくは車の助手席に座っていた。かつての友達三人と、ドライブしていた。中学時代、同じ部活だった友達だ。当時は、よくこの四人で遊んでいた。窓の外を見ると、水を張った田んぼが一面に広がっている。それを見て、地元に帰ってきたのだと思った。  山の稜線にさしかかる太陽が、水を張った田んぼにうつりこみ、やわらかい夕焼け色に町が包み込まれている。窓を開けると、草や土や用水路が混ざったにおいが、生ぬるい風にのってやってきた。自転車に乗った母校の制服を着ている中学生とすれ違い、麦わら帽をか

    • 夢日記 耳のなか

       目が覚めたーーそんな気がした。しかし、なにか変だった。体がまったく動かせないのだ。そもそも体の感覚そのものが、すっぽりと抜け落ちてしまったかのように、きれいに無くなっていた。視界は暗く、どこまでも深かった。もしかすると、一生このまま、身じろぎひとつできず、声も出せず、誰にも気づかれることなく、ひっそりと息絶えてしまうのだろうかと思うと、泣きたい気持ちになるのだが、涙すら出てこず、余計に悲しくなった。  とつぜん、紙袋を握りつぶしたような音がした。驚いたことに、それは耳の中

      • 今日も朝がやってくる

         眼が覚めた。暗闇のなか手探りでスマホを探して、電源をつける。まばゆい光に眼を細めた。ディスプレイには、午前四時半と表示されていた。最近、いつもこんな時間に起きてしまう。  どうしてこんな時間に、眼を覚ましてしまうのだ。とにかく、はやく寝なければならない。今日も仕事があるのだ。  眼を閉じた。まぶたの裏に白いもやが滲んでは消えていく。そこにはまるで、無数の白い光の粒子がはりついているようだ。テレビの砂嵐……蚊の大群……フクロウ……白百合の花……都会の鳩……頭の中にうかんで

        • 依存

          ぼくは、レッドブル依存症だ。 ここ最近、一日に3〜4本飲んでいる。500mlいかないぐらいの、一番大きいサイズをいつも買っているので、約1500ml〜2000mlだ。今日も、休みの日であるにもかかわらず、すでに2本飲んでしまった。 ぼくがこうなるまでは、依存するやつなど、意思が弱いだけの人間だろうと内心馬鹿にしていた。 自制心が弱いからそうなるのだと、思っていた。 酒やタバコやパチンコにはまりこんでしまった人をみて、クズだなあと笑っていた。 結局、ぼくも意思が弱い人間だ

        夢日記 郷愁

          言えない

           スーパーに行った。今日は、久々の休日だった。おやつでも買って、家でアニメでも見てゆっくりしよう。そのあとはゲームしたっていいし、YouTubeを見てもいい。とにかく、なんでもできるのだ。明日も休みであることを考えると、街中であるにもかかわらず、いまにもタップダンスを踊りだしてしまいそうなほど、ぼくの心は高揚していた。  大好きな揚げドーナツを片手にもち、レジの列に並んでいると、「こちらへどうぞ」とすべるように店員さんが目の前のレジカウンターへと入っていった。ついてるなと思

          言えない

           散歩していたときのことです。  ふいに、ギィッ・・・ギィッ・・・と、短いうめき声が耳を刺しました。  裏っ返しになった蝉でした。石灰をまぶしたよう腹、針金のように細い脚、使い古した油のような羽、壊れたスピーカーのような奇妙な鳴き声。子供のころは、あんなに宝石のように輝いて見えた蝉も、いまではただの気持ちの悪い虫にしか見えませんでした。  まぬけなやつだな。  ぼくは、ぷいと一度横目でそいつを見やって、通り過ぎました。しかし、あの断末魔のようなうめき声。どこかで聞き覚えのある

          ある朝の夢の記憶

           目を覚ましました。  体が粘土のように重く、べたついていました。上半身だけ、ゆっくりと起こしました。体に力が入らず、だらりと首が下にもたげます。半開きの口から、粘ついたよだれが垂れ、白いあぶくから、黒いシミへなりました。  ぼんやりと、夢の内容を思い出します。はっきりとは思い出せませんが、僕は木になっていました。僕は、必死にもがいていました。なぜか、そこから逃げなければならないと思ったのです。干からびたタコのような足を、必死に動かそうとしましたが、ぴくりとも動きません。  

          ある朝の夢の記憶

          声にできない叫び

           壁がありました。どこにでもあるような壁なのに、なぜか惹かれてしまいます。理由は分かりません。惹かれるから、惹かれるのです。トートロジーです。小泉進次郎構文です。  そうして、ぼんやりと眺めていると、あることに気がつきました。なんと、猿がいたのです。にやりと、不気味な笑みを浮かべています。きっと、街ゆく人を、壁の中からひっそりと観察しているに違いありません。壁の中に住んでいる猿とは、これまた珍妙ものです。もしかしたら、新種の猿かもしれません。だとしたら大変です。急いで捕まえて

          声にできない叫び