小説・成熟までの呟き 42歳・1

題名:「42歳・1」
 2032年春、美穂は42歳になった。その頃、毅とひとみも勤務し始めて1年以上になっていた。ある日の夜、美穂と康太は毅とひとみを飲み会に誘った。「2度目の春が来たけど、今はどう?」と美穂は質問した。毅は、自分が高校生の頃に不完全燃焼になったことを機に、大人は身勝手で汚いと恨むようになった。それは自分の親に対してもで、誰の言うことも聞き入れないようになっていったという。自分の部屋にずっといたが、親に働くことをやたらと言われるようになってからは居心地が悪くなり、遂に外へ飛び出した。しかし未成年の頃に大人へ不信感を抱いた頃のままだったので、慕える人がいなかったという。しかし、この大尾島へ来て、「俺にはやっと心から頼れる居場所が見つかりました。」という。しかし、「この10年以上の時を、自分は台無しにしてしまいました。」とも言った。美穂は、「この10年以上の時は毅さんにとって無駄な時ではなかったと思う。人生における修行の時期だったのではと思うよ。だから今はその修行の際に味わった経験で、花を咲かせる時だよ!」と言った。毅は真剣に話を聞いていた。一方のひとみは、学生の頃に基準が不明の面接で毎日のように落とされていて落ち込んでいた中、同級生が縁故採用で軽々と就職先が決まり、そのことで親を憎んだ時もあったという。何かしら仕事ができればと考えていた時に、大尾島に来た。気になっていたことがあり、「なんで私を採用したんですか?」と質問した。すると康太は、「ひとみさんが作業をしていた時の表情は夢中だった。きっと、ひとみさんなら仕事を好きになってくれるのかなって思って。それに、俺は面接だけで就職先が決まるってやっぱりなんかおかしいと思っているんだよね。だってさ、仕事ができるかなんて実際にその姿を見てみないとわからないじゃん。俺も、学生の頃に何度も面接に落とされて結局就職できなかったからそう考えていた。だから、実際に仕事をしてみて向いているかどうか判断してから人を採用しようと思っているんだ。」と言った。ひとみは、激しく同意した。毅とひとみにとっての再出発は、更に進んでいく。

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