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今更読んだ『ファクトフルネス』

 ちょっと前に流行っていた『FACTFULNESS』が古本屋にあったので、読んでみました。

 数々の統計データなどの「事実」を基に、多くの人が持っている思い込みやメディアが作り出す話題の偏向性などを指摘する本です。全体的には割とポジティブな書き味で、ちゃんと信頼出来るデータを見れば人々が思うほど世界は悪くなっていないのだという論旨で一貫しています。現状が「悪い」ことと、長い歴史的・統計学的視点に立って「良くなっている」ことは両立すると。

 当たり前と思いつつ抜け落ちやすい視点も提示されていて、読みやすいです。なるほど流行るのも頷ける。規模の大きなデータを用いているだけあってかなりマクロな視点が意識されている(ミクロな問題はすっ飛ばされている)ので、くよくよ悩んでいるときに「自分の悩みなんて宇宙から見たら大したことない」と言い聞かせる(?)のに似たような感覚がありました。

 出版年を見ると2019年1月なんですね。世界がコロナ禍に入る寸前です。この本で提示されているような方法論的な物の見方は、情報が氾濫する社会で生きる上で有益なものなのかもしれません。しかし今の世と照らし合わせるに、人間の生の感情の前では「事実」など脆くも崩れ落ちるものなのだという気がしてなりません。

 東京都の2022.1/27時点の新型コロナオミクロン株の新規感染者数16538、うち重傷者18、死亡者0という数字をどう読むか。ニュースでは16538が強調されますが、これが例えば「今日の重傷者は18人でした」とか「今日の死者は0人でした」となったら、東京都の人口1400万で割り算してみたら…人々の受け止め方はガラっと変わってしまうのだろうと思います。

 上記の数字を見ると、個人的には今なお続く自粛ムードにどうにも釈然としないものがあります。この本はある意味でそういう煮え切らない「気持ち」に寄り添ってくれるものではありました。しかし統計を使った分析的でニュートラルな(と思われる)視点も、まあ結局は個人の心がけに留まってしまうものだよなぁと思います。

 『FACTFULNESS』の肝は情報との付き合い方ですが、私はというと半年ほど前からテレビのニュースはほとんど遮断するようになりました。情報と付き合うのをやめてしまった。ネットも自然に目につくものを多少入れる程度にほどほどに。これで生活には支障なく、むしろ精神衛生上プラスになったという気すらします。

 データとにらめっこして事実と照らし合わせてある種の錯覚を見抜くというのは、うまくいけばとても気持ちの良いものです。しかしそれも行き過ぎるとまた情報に踊らされるという恐れを孕むものかもしれません。データから導ける「事実」によって目の前にある「現実」に対して地に足がつくのかというと、それはまた別の話なのかもしれません。

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