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戦後に書き直された文学作品としての「君たちはどういきるか」 その④

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手紙の書き手である<おじさん(ぼく)>は、読み手である<純一>に手紙を通して語りかけ続けます。

君の知っての通り、ぼくは戦争にいって三年も中国のあちこちを歩き回ったが、山西省の運城というところにいた時だった。

やはり冬の晴れた晩、黄河のふちで歩哨(見張り兵)に立って、美しい星空がそのまま黄河の水にうつっているのを眺めていたら、おとうさんといっしょに星を眺めたあの晩のことが急に心によみがえってきたことがある。

それが糸口となって、家のこと、君たちのこと、ぼくにとっては故郷である東京の街や郊外の景色―――それが一度に目に浮かんできて、どんなになつかしかったろう。どんなに恋しかったろう。わけても、亡くなったおとうさんが、あんなになつかしく思われたことは、前にもあとにもなかった。

ぼくは河にうつる星を見つめながら、自分の少年時代をふりかえって見た。ぼくの家は決して豊かな暮らしではなかったけれど、ぼくたちは子供の頃、父母の愛情だけはあまるほど受けて育った。ぼくはそのことを思い返して、自分は幸せだったと思った。

戦場にいて、あしたにも死ぬかもしれないという時、それまでの生涯をふりかえって「幸せだった」と思えることが、どんなに心を落ち着かせてくれるか、それは、そういうところに身をおいた者だけが知っていることかもしれない。

「星空はなにを教えたか あるおじさんの話したこと」より

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