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ジブリの映画化の前に知っておきたい。その③

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そとへ出ると、もうすっかり夜になっていて、氷のようにつめたくすきとおった冬の空気に、見上げればたくさんの星がとてもきれいにまたたいていました。

おとうさんはポツリポツリと天文の話をしてくれました。

光が一年間にはしる長さを1光年とし、それを単位に使ってあらわす、というお話。
地球は太陽を中心としてその周りをまわるいくつもの惑星のうちの一つにすぎないが、その太陽にしたって宇宙の中心というわけではなく、銀河の中心をめぐってまわっているのだというお話。

いまぼくたちが見たり観察している時、それと同時に星から出た光がこの地球につく時分には、もうぼくたちはとうに死んでしまっているのだからね。何万光年というような星を相手にする場合には、その光が地上に達するころ人類そのものさえどうなっているか、だれも予言はできないのだ。ぼくはそれを考えると、いつも、ひとりの人間の一生をはるかにこえた大きな流れと、ひとひとりの人間のはかなさとを、同時に自分の中に感じて、妙な気がするのだ。
―――弟とけんかしたあとで、おとうさんといっしょに美しい星空の下を歩きながらぼくの感じたものは、やはりその妙な感じだった。


(中略)


そしてこの晩のことが、ぼくには忘れられないものになったのである。

『星空は何をおしえたか ーあるおじさんの話したこと』吉野源三郎

この部分まできたとき、手紙の書き手であり<おじさん>である<ぼく>は、読み手である<純一>に直接語りかけてゆく。

純一君
 心理学という人間の心を研究する学問があるが、その学問の専門家がいうところによると、なんでもいい、あることをおぼえて忘れなくなるには、適当な時期をおいて、くりかえしそのことを思い出すのが一番だそうだ。


(中略)


 そうだ。いろいろな時に、いろいろな気持ちで思い出してきた。一つにはあの晩のけんか相手だった弟のアキラも、ぼくを星空の下につれだしてくれたおとうさんも、いまでは、ふたりともこの世にはいない人となっているからだ。弟はあれから三ヶ月ばかりたって、もうそろそろ春になろうというころ、急性肺炎にかかり、わずか一週間ばかりで亡くなった。おとうさんの亡くなられたのは、ずっとあとだが、それでも君が二つの時だったから、早いものでもう一二年たった。
 弟が亡くなった時、ぼくははじめて、人と死に別れることが、どんなに悲しいことであるかを知った。弟とはよくけんかもしたけれども、ふだん、そんなに仲の悪い兄弟だったわけではない。いや、世間の多くの兄弟にくらべたら、ぼくたちはむしろ仲のいいほうだった。それにもかかわらず、弟がいなくなってみると、自分が弟に対して、意地悪をしたり、不親切なことをしたことばかり、しきりに思い出されて、ぼくはつらい思いでよく泣いた。

『星空は何をおしえたか ーあるおじさんの話したこと』吉野源三郎

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