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同じ場所にいることが

人生にはライフステージがあって、それに応じて日常は変わっていくものだと高校の教科書に書いてあった。
通信制高校の勉強なんてただの消化作業で、普段は教科書の内容に意識すら向けないし、それで誰でも卒業できるように作られているのに、何故かその一文だけ心に残っているし、知能的には問題ないはずなのに学校に行けないわたしは、そんなライフステージを、年齢に応じて変わる立場を、変わっていく喜びを、受け入れることができないと思う。

17歳で一人暮らしできてすごいねとか、掃除も料理も自分でできてすごいねとか言われることはあるし、わたしは褒められることが大好きだから、そう言われるときはいつもうれしくなる。
だけどそう言われるたびに、今できていることが17歳"なのに"できることなのか、それともそこに年齢は関係ないのに、たまたまわたしがまだ17歳で、大勢の人間が一人暮らしを始めるのは17歳以降だったから、わたしのできることにスポットが当たっただけであるのか、そういうことを考えていることがある。

わたしが今17歳で一人暮らしをしてできるようになったことは、多分わたしが47歳で一人暮らしを始めたとして、経験の量とかから多少成長ペースは影響しても、17歳でも47歳であってもできることを獲得していくことそのもの自体は、あまり変わらないことなんだと思う。
それでも47歳で初めての経験であれば、新規で知識とか技術を獲得する喜びは今と変わらずあるわけで、それなのに誰も褒めてくれないかもしれない。
そういう怖さを考えてしまうことがある。

わたしは今の生活に満足している。
最低生活費で生活することは辛いとか、何も買えないとか言われながらも満足している。
元々制約のある中で工夫するのが好きだったし、通貨のカンストしたゲームが急にクソゲーになるのと同じように、限られた範囲でどう工夫すれば面白くなるのか常に考えて生きている。

わたしは知らない幸せを知らないから、今ある喜びに満足していることも理解しているつもりだ。
半年前まで暮らしていた施設の門限は10時だったけど、それ以前の生活では門限6時かそもそも一人で外に出ることすら禁止、出れても監視の範囲内、インターネットの友達と会うのも禁止みたいな環境だったから、言い訳さえすれば朝からでも昼からでも夜10時まで外で遊べたのは、15歳から17歳の時間のほとんどを労働か鬱病に捧げたことに対する対価であり、沢山働く代わりに休日は遊ぶ権利を得るためには当然の行為だと思っていたし、だからこの2年間を後悔しないようにできていた。

というか、実家の不満なんて大小はあっても、それで施設に行くかどうかとかは違っても、みんな誰でも持っているものだと思っていたし、わたしはそれがほとんどを犠牲にして毎日働くことになっても変えたかった不満だっただけだし、別に自分が特段不幸なわけでも、変なわけでもないと思っていた。

結局10代の中の貴重な5年くらいを引き換えに実家を脱出し、病院とか変な場所とかを経て施設を卒業(中退の方が形的には正しい)し、一人暮らしがはじまり門限がなくなった今、ようやくこれまでの変化から被害者面しても様になるようになり周囲からも大変だったねみたいな感じになり、実際に大変ではあったしこれこそが当然の権利だと考えながら夜10時以降の外を歩いていたら、自分と同じくらいの歳の男女が平然と自転車に乗りながら楽しそうに喋っていたし、古本屋の前では小学生くらいの子が数人でゲームをしていた。
その時にみた少年少女が一般的にどのような立場で、普通だったのか少数派だったのかは知る由もないけど、わたしは家で暮らす幸せを感じる努力をしたくなくて、本当は施設に入ってずっと働いていた生活の方が家より苦しかったのに、自分の行動を正当化したくて、ずっと虚勢を張っていただけなのではないかと、はじまりからかなり時間が経ってから気づいて、おわらせようとしたくなった。

変化することが怖い。
変わっていく喜びも知らない。
これまでのわたしの卒業式はすべて、ずっと突然くるものだった。
入院も退院も退職も退所も全部、当たり前になったあと急におわりがきて、あらかじめカウントダウンされていたことじゃなかった。
多分みんなおわりが決まっているから、それに合わせて悲しんだり力を出し切ったりしながらおわるということに区切りをつけているはずなのに、わたしはいつまでも区切りをつけられず、急におわりがきた後に当たり前がこわれるだけで、だから昔のことを思い出しても自分の人生という意識が持てなくて、何度も見返した映画を見ているのと同じことだった。

だから急におわるまでは、昨日が明日じゃなくなるまでは、わたしがしあわせだと思う日々を、繰り返しのライフステージを生きていくんだと思う。


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