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『おばあの焼き飯』

 土曜のお昼、台所から何かを炒める音が聞こえる。

「さくらちゃーん、ご飯できたよぉー。」

 おばあが呼ぶ。わたしはなんだか意地悪で返事をしない。特に何かしていた訳でないのに、なにか途中で邪魔された気持ち。三階の自分の部屋から二階のリビングへ行く。
 おじいとおばあは、今年の2月に長年住み慣れた名古屋市西区奉公人町の家から、小牧の藤島へ越してきた。小牧にはおじいとおばあの仲良しの三津さんも秀さんもいないのに、さくらたちと一緒に住むことに決めた。だから寂しくなったおじいとおばあは小牧に来てすぐに様子がおかしくなった。おじいもおばあも忘れ物が激しくなったり、夜寝ぼけたり、子どものようなことを言ったり。お母さんとお父さんは「何もさせなかったから、二人ともぼけてしまった」と言っていた。だから、おじいには畑仕事と庭の手入れを、おばあには掃除洗濯と食事の準備をしてもらうことにした。そうしたらおじいとおばあは元通りになった。


「さくらちゃん、焼き飯食べやぁ。たくさん食べるでしょぉ。」

 テーブルには、カレーライスを盛るような深い洋風のお皿に、おばあの作った大盛りの焼き飯が盛られている。さくらはそんなにたくさん食べられないのにおばあはいつも山盛りの焼き飯を作る。

 おばあの焼き飯は黒コショウと塩だけのシンプルな味付け。具材は冷凍のミックスベジタブルとちくわ。今日は玉子が入っている。時々、玉子の入ってないときがあって、そんな時はちくわがいつもの二倍。ミックスベジタブルが無い時は、なぜかピンク色のかまぼことちくわの合わせ技になっている。食べるときはレンゲではなくてカレーライスを食べるときに使う大きなステンレスのスプーン。お皿の端には黄色いたくわんが二切れ。そしてかけるとおいしいからと言ってコーミのウスターソースを勧める。

でも、おばあの焼き飯はおいしくない。

 塩コショウと玉子を入れるタイミングが悪いから、おばあの焼き飯はびちゃびちゃ。そして極めつけは全体のバランスを全てぶち壊すちくわの存在感。玉子無しでちくわマシマシの時はなにかの修行のようだ。さらにかまぼことのタッグは史上最凶。だけど、ウスターソースをかけることでなんとか食べられるレベルになる。

本当に、おばあの焼き飯はおいしくない・・・

でも、わたしはそんなおばあの焼き飯が大好き。

 おばあの史上最凶にまずい焼き飯は、おばあの史上最強の笑顔と愛情が隠し味だった。頑張って食べる私を見ておばあがうれしそうに笑う。

そしておばあが言う。

「さくらちゃん、御代わりあるからたくさん食べやぁ。」

「おばあの焼き飯はおいしくない」なんて言えなかったけど「おばあの焼き飯大好き!」って言ったら、おばあはとてもうれしそうにしてた。

そしてまたおばあが言う。

「さくらちゃん、もっと御代わりあるからたくさん食べやぁ。」って。


おわり


★はらつくねさんの記事”「チャーハンに○○○はヤメて」の話 ” にコメントした際、思い出した昔の記憶をもとに創ってみました。


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