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確率思考の戦略論 -USJでも実証された数学マーケティングの力-

確率思考の戦略論〜USJでも実証された数学マーケティングの力〜 (森岡 毅、今西 聖貴 著)

USJ動員数

・1270万人(2014年)、1390万人(2015年)、5年で660万人増
・ハリーポッターの印象が強いが増客効果の4割にも満たない
・ワンピースやモンハンなど映画以外のコンテンツ、またハロウィーンイベント、後ろ向きのジェットコースターなどの企画の積み重ね

市場構造を理解する

・市場構造とは、その市場における人々の意志と利害と行動の仕組み
・市場構造の理解によって成功確率の高い企業戦略を選ぶことができる
・この世はコントロールしずらいものが多いため経営資源の消耗を避ける

消費者のプレファレンス(好意度)
プレファレンスは、消費者のブランドに対する相対的な好意度。以下の3つで決定される。プレファレンスが市場構造を支配している。
・1 ブランドエクイティ
・2 価格
・3 製品パフォーマンス

エボークトセット
購入候補であるいくつかのブランド。プレファレンスに基づいてそのカテゴリーの購買回数の分だけサイコロを振っている。
(例:ビールを買うときのエボークトセットはモルツ、エビス、一番搾り、黒ラベル)

市場競争は一人一人の購入意思決定の奪い合いで、核はプレファレンス。
・市場の売上 = 延べ購入回数 × 平均購入個数 × 平均単価

3つの戦略の焦点

1 好意度(Preference)
2 認知度(Awareness)
3 配荷(Distribution)

・好意度
プレファレンスを伸ばすには水平拡大(選んでもらう人数を増やす)か垂直拡大(一人当たりに多く選んでもらう)。経験上は、既存ユーザーの深掘りよりも水平拡大の方が成功するケースが多い。それは新規ユーザーの市場の方がずっと大きい場合が多いから。
・認知度

第一ブランド想起率は、エボークトセットと関連が深い。ただし購入者層が限定的な場合は認知が上がってもビジネスに繋がらない。
・配荷
配荷率はその商品を買おうと思えば市場の何%が買えるか。
ストアカウント配荷率:自社ブランドを取り扱っている店舗数の割合。
ビジネスウェイト配荷率:1店舗の売上規模を重み付けしたもの。

消費者を区切ってターゲティングするのは、狭めるのではなく選ばれる回数を増やすため。USJの場合、映画好きな既存ファン層にもっと好きになってもらうよりも、他のエンターテインメントを取り込んだ水平拡大の方が勝算が見込めた。

市場調査の本質

市場調査の本質はプレファレンスとその仕組みを解明して成功確率の高い戦略を選択できるようにするため。

1 消費者の本質的なニーズは変わらない。プレファレンスの強さを決める消費者の判断は状況に左右され感情的。
2 質的調査によりその商品カテゴリーの商品群の本質からプレファレンス、認知方法の改善、配達方法を見直す。
3 現状や未来の需要の予測による判断。プレファレンスはテストの購入意向を重回帰分析することで分かる。

需要予測

需要予測会社、BASES(絶対値の方法を扱う)とNovaction(相対値シェアの方法を扱う)。

絶対値:テストの購入意向と購入回数のデータを現実のトライアル率、リピート率、購入回数に換算することで売上を予測する。
相対値:本物の模擬店舗とTVCMの用意が必要

・映画と来場の相関係数
映画に関連したアトラクションを相対的に見た場合、映画の観客動員数が多いほどそのアトラクションの来場者増加が期待できる。映画館はどこにでもあるので距離抵抗は考える必要がない。

ベンチマークを比較して、出てきた予測値に妥当性があるか考える。

BP-10(Brand Purchase in next 10 category purchases)

よく売れている5〜6のブランドを選び、テストしたい商品を合わせて最大7枚の素材を用意。(商品説明、写真、サイズ別の価格)。
10回買う場合、どのブランドを買うか振り分けてもらう方式。ここからシェアを予測する。
(データの修正)認知率と配荷率が強制的に100%になるため掛けて調整。

消費者データの危険性

1 代表性があるか:調査では全員に聞けないので回答サンプルの代表性
2 統計的な誤差:程度の差はあることに注意
3 聞き方によるバイアス:同じ質問でも聞き方や状況で数値が変わる

現実とデータ(記号)には1:1の関係のものと、そうでないものがある。
例)部品が800というデータがあれば、800個ある。購入意向と購入回数は1対1ではないものに属する。対象の洗剤を1年に何回買いますかの質問に、全ブランドの合計の購入回数を答える傾向がある。

1 値段による影響はどうか:テストと店頭
2 選択肢が同等に比較できるかどうか:同じ粒度かどうか
3 票割れを起こさないか:選択肢に似たものがある場合、票が割れる

どの調査もバイアスがかかっていることを承知した上でそのデータを使う目的を理解すること

1 カテゴリーを初めて作る商品
2 商品の大きさがテスト素材と店頭で大きく異なる場合
3 プレミアム価格の場合(実際にお金の払わないため)

データの補正

世帯パネルデータのような実際に買ったものを記録することで集められた世帯購入に関するデータ。このようなものを利用することで、シェアなどを補正する。
1個当たりの平均購入単価と1回あたりの平均購入個数だけが正しい(POSデータと異なり、記録の抜け落ちがランダムに発生しているため)

・Wisdom of Crowds(群衆の知恵)
全員の予測値の中央値や平均値が正解に近い例が多数。

改善策
1 消費者データはできるだけ問題点が少なくなるように調査設計する
2 消費者データを正しく読み解く(現実を加味して補正する)
3 世の中に初めて売るカテゴリーの場合、テスト店舗などを検討する
4 多様性や独立性のある視点で多くの視座からアプローチする

マーケティングはシステムとして導入しないと機能しない

・優秀なマーケターを1人雇っても経営が大きく改善するわけではない
・強力なマーケターは広告や売り方を改善するという狭い領域では機能しない。
・市場調査で最も大切な思想は、「真実を追求すること」

(パーキンソンの法則)
「役人の組織は実際に必要な仕事の量に関係なく肥大化する傾向がある」
・理由1:自分の部下を増やしたがるため
・理由2:役人は互いに仕事を増やす傾向があるため

プレファレンスの数学的説明

1:BP-10シェアモデル(現実のシェアを高い精度で予測)
2:負の二項分布(NBD)モデル(ブランドの浸透率と回数別分布の予測)
3:デリシュレーNBDモデル(精度の高いブランド浸透率と回数別分布を予測)

・二項分布:赤玉と白玉の出る確率。複数回引くとき、その確率。
・ポアソン分布:二項分布の特殊なケースで現実に近い確率分布。
→複数回を大変大きな値にする。
・負の二項分布(NBD):個人の購買行動はポアソン分布しているが、消費者全体を見ると負の二項分布している。赤玉を引いたら赤玉をさらに加えて袋に戻す。選択が次の選択に正の影響を及ぼす。同様に抜け落ちたデータがある場合の補正。
・デリシュレーNBD:負の二項分布の拡張。カテゴリー内のブランドの関係を示す。

・単位期間の購買回数を時系列で見るとポアソン分布している
・消費者全体を見ると購買回数は負の二項分布(NBD)している

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