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こんな世の中だから旅行はこれまでみたいに戻らないんでしょう?

隣の座席に座ってはダメ、常に空気は入れ替えておかなければダメ、なるべく直接触らないほうがよい。自分のスマホもテーブルも常に消毒しておくべき。そんな世の中なわけですが「もう旅行なんて前みたいにできないよね?」「国内だけでも危険なのに海外からの旅行客を受け入れるなんて論外だよね?」という声が聞こえてきます。

「こんな世の中だから旅行はこれまでみたいに戻らないんでしょう?」

どうなのでしょう。どう思いますか。これからそれを書きたいと思います。

01 本能に問いたい、「旅行したいですか?」

飛行機が飛ばないとそもそも海外旅行は出来ないですし、ワクチンが完成しないと人によっては安心した旅行計画が立てられないでしょう。施策レベルで言うといくつものハードルを超えなければならないので100%これまでのように戻ることはないのでしょう。安全が確保されたとしても、それでも10人に1人2人は慎重にならざるを得なくても何も不思議ではありません。自分のせいだけでは済まない時代なのですから。

ステイホームの期間、ゲーム・デリバリー・ECなどの売上は世界的にも伸びました。家にいるしかなければ、そうなるでしょう。

任天堂では、第1四半期(4−6月)の売上⾼は前年同期⽐108.1%増の3,581億円、営業利益は427.7%増の1,447億円
https://www.nintendo.co.jp/ir/pdf/2020/200806_2.pdf
中国テンセントのゲーム部門:4−6月で前年同期比売上31%増加
https://forbesjapan.com/articles/detail/34510

ゲームはファミコンの時代もガラケーの時代も、いつの時代も娯楽としてあり続けています。みんな、家でゲームをしておきましょう。

本当に無理をして旅行に行きたいですか?海外の景色がみたいですか?それは、私たちの本能に問いたいです。美味しいものが食べたい、自然を感じたい、ショッピングがしたい、テーマパークに行きたいなど、観光庁の調査を参照しても訪日客が日本に来たい理由がたくさん見えてきます(※1)。

でも、そういう理由だけなら旅行は元に戻らないです。もっと旅行に行く強い動機がなければリスクと天秤にかけたときに負けてしまうでしょう。

02 移住したいのです

ワーケーションみたいな話ではないです。人類が食を求めて生きていくために移動を続けていたという話です。「美味しいものが食べたい」という動機とちょっと近い気もしますが、「そこに山があるから山に登る」というもっと無意識な本能に近いと思います。人は無謀にも新しい挑戦を続けたいのです。じっとはしていられないのです。どんなに怠惰な生活をしていても、外の風を感じたいのです。(かっこつけてないです。)

そうやって新しい一歩がいつの時代も未来を創ってきたのです。

「人間は他の動物と別れ、人間となったのである。このことは、何よりも、人類がアフリカで生まれ、世界各地に広まり(移動し)、地球のほとんどすべての土地において同一の人間種として存在している」(※2:観光学評論)

この感覚が現代の私たちに残されている限り、旅行は消えないのだと思います。本能が外に出たいと言うのです、見たことのない景色を体で感じて、美味しいものを食べたいと思うのです。

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03 インバウンドの終わりとオンラインツアー

そうは言っても、そんな何年も待てるものではありません。私たちは明日明後日どうなるかという世界です。特に国内旅行よりも海外旅行のハードルは高く、自分の意思ではなく飛行機のような手段がなければ出国できませんし、渡航先での隔離期間などがあれば現実的には厳しいものとなります。

そこで、ひとつの解として「オンラインツアー」というパソコンから旅行が楽しめる方法論が登場しました。

和歌山 那智勝浦の宿泊施設ワイクマノのオンライン宿泊は、多くの話題にもなりました。実際に宿泊するわけではなく、決まった時間に見知らぬ人たちと宿泊施設を画面越しに見て、同じ時間を過ごすというコミュニケーションです。

他にも香川県のコトバスオンラインツアーといった事前に郵送される物産品やバスガイドさんといっしょに過ごす時間も新しい旅行の可能性として広がりました。

無料のものもありますが、有料としてサービスを継続していけることは並大抵のことではありませんし、なんと言ってもこれまで旅行に行きたくても行けなかった層の方たち(高齢者や時間に制約がある方など)にも新しい世界を見せてくれている素晴らしいサービスなのでしょう。

現時点(2020年9月)で、アジア地域はかなり安定してきています。特に台湾は国内旅行が活性化しており、海外渡航が解禁されれば真っ先に旅行が始まると想定されます(※3:Vponによるセミナー内容参照)。これは明るい兆しではあります。しかし、インバウンドはまだまだ厳しい状況が続いています。オンラインツアーにも海外の方からの申込みがあるそうですが、これまでの売上を超えるような状況にはなっていません。

04 矛盾する「緊張感」と「解放感」

緊張感と解放感

「日常生活圏を一時離れて、外の世界へと出かけた人に共通してみられる心理的特徴は、”緊張感”と”解放感”という相反する感覚が同時に高まることにあります」(※4:旅する理由と心理、旅の楽しさ)

これが今回の答えです。旅行とは、わざわざ苦労したり、見知らぬ土地でとまどったりする緊張感と今までに感じたことのない発見や日常とは異なる旅先でしか味わえない解放感を同時に達成するものなのです。

言うなれば、わざわざ苦労をするのが楽しいということなのです。だからテレビやゲームだけでは代えられないものなのです。オンラインツアーでも物足りないのです。それらは、娯楽というジャンルだったとしても、旅行体験とは全く別ジャンルのものなので、それ自体の価値がないわけではありません。要するに、別物なのです。(そういえば、お笑いも緊張と緩和が鉄則ですね)

インバウンドにおいてもしばしば多言語化対応が叫ばれていますが、本当に海外に行って(外国人が日本に来て)、完全に母国語だけで済んでしまったらどうなのでしょう。だって、わざわざ苦労するために旅行に来ているのですから。(もちろん、旅マエの情報収集でWEBサイトが読めなければスタート地点には立てないので全てを否定しているわけではありませんが。)

私たちは、不思議な生き物で他の動物にはない感覚を持ってしまっているのでしょう。緊張感と解放感という真逆のものを同時に欲しているのです。しかもそれは無意識レベルの本能で。

インバウンドのアンケートなどでもよく、「地元との片言の触れ合いが印象に残っている」「観光地ではないローカルな場所が好きだ」などという回答があります。これらは旅行ガイドブックからすれば想定外の領域なのです。緊張感と解放感のために、旅行者は意図的に想定外の事態を期待してしまっているのです。

05 さいごに

2019年の観光庁の調査による訪日外国人に向けた「日本に来る前に最も期待していたこと」のアンケートでは以下のように

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訪日前に期待していたこと(単一回答:単位回答数、観光庁2019)

1位:日本食を食べること(7378票)
2位:自然・景勝地観光(3258票)
3位:ショッピング(2201票)

となっています。2位以下を大きく離している「日本食を食べること」の理由を少し掘り下げると

・伝統的、日本独特
・自国で味わうことができない
・食材が新鮮


というような回答があがっています。やはり食に対しても日常では味わえない緊張感を欲している様子が伺えます(生魚の寿司など)。一方で、「美味しいから」といったシンプルな理由は食の根本的な欲求として考えられます。旅行先で美味しいものを食べる、なんていうのは、本能レベルでは欲と欲の掛け算なのです。

こんな世の中だから旅行はこれまでみたいに戻らないんでしょう?

戻るどころか、人間が人間であり続ける限り、緊張感と解放感を欲し続けるのです。人間の欲はもっと先を行くと思います。アジア地域では、まもなく海外旅行の解禁も近いでしょう。私たちは旅行というものを単なる娯楽と捉えられない本能レベルでの移動として続けていくのです。

06 参照元

※1:観光庁 訪日外国人消費動向調査2019

※2 :観光学評論 Vol.1-1 (2013) pp. 5-17 特集論文 観光学のあり方を求めて (和歌山大学観光学部 名誉教授 大橋昭一 氏)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tourismstudies/1/1/1_5/_pdf

※3:INBOUND ONLINE CAFE〜みんなでお酒片手に語ろうよ、インバウンド夜会〜(Vpon JAPAN主催 7/15開催セミナー動画より)
https://youtu.be/k2dYCcvcL9c

※4:ノーマライゼーション障害者の福祉 2005年10月号 旅する理由と心理、旅の楽しさ (前田勇 氏)
https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n291/n291002.html