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必然の出会い 2

 そんな彼女とは退院後も週に1度必ず電話で連絡を取り合い、彼女が入院した時はお見舞いに行き、親しい関係を続けて来たが、同じ年の春、お互いが再発で入院し連絡できない日々が続いた。私も自力歩行が難しく新しいお薬に変わった為、安静の日々が続いていていて会えずに過ごしていたその年の秋、寂しい声で
「あなたの作るちらし寿司が食べたいわ」
と突然電話が入った。彼女は入院中らしく丁度数日後が受診日だった為、私は病棟に差し入れを持って行く事にした。
 半年ぶりの再会で私が目にした彼女は、想像を超えた痩せた元気のない姿だった。
「いやー嬉しいわ、来てくれたん」
と元気いっぱいに笑う彼女に、一瞬言葉が止まった私を気遣い
「ありがとう。ほんまに嬉しいわ。ちらし寿司持ってきてくれたん?」
と言いながら差し入れたちらし寿司を1口だけ食べ、
「美味しいわ」
と言ってお箸を置いた。彼女はちらし寿司を食べたかったのではなく、会いに来て欲しいと言いたかったのだろう。私の体調を考え素直に言えなかったのだろう。そんな彼女が帰り際に、
「明日は白いおにぎりが食べたいわ」
とにっこり笑いながら言った。
「わかった。持ってくるね」
そう言って翌日もお見舞いに行き、少しの時間一緒に過ごした。帰り際に
「2日間ありがとうね。また連絡するからもうお見舞いはいいからね」
と少し何か様子が変だった。
 次に彼女から連絡が入ったのは
「家の近くの緩和ケアに入る事になったから、お見舞いに来てな」
と言う連絡だった。すぐに彼女に会いに行った。緩和ケアに入るまでの期間、色んな事を考え辛かったのだと、泣きながら話す彼女にうまく掛ける言葉が見つからず、聞いてあげるだけの時間だったが、彼女からは心細く寂しいのだと言う気持ちは十分につは伝わってきた。
「ここはいいわ。みんな親切だし・・・」
と私を気遣い気丈に話す彼女だった。
 数回出掛けたお見舞いも、日々会うのが辛くなるほどの衰弱で、呼吸も苦しそうだが、私が行くと懸命に話をしてくれる。食べられるような状態ではないが、「あなたのカレーが食べたい」と連絡をくれたので持って行くと、美味しいと食べてくれる彼女の姿も見るのも辛くなって来た。ご家族ともお話をして、お見舞いはギリギリまで行かせてもらったが、日々弱っていく姿に私が耐えられなくなっていた。病院で会う友達はどうしてもみんな病気で、悲しい別ればっかりするような気がする。辛い思いをするだけじゃないのかと思っていた私に、
「あなたに出会えてよかったわ。この年齢でこんなに仲良しの友達が出来ると思ってなかったから。ありがとう」
と言ってくれる彼女に、
「私も会えてよかった」
と交わした会話が最後になった。
 その5日後、娘さんから静かに息を引き取ったとの連絡が入った。最後のお別れに行き、小さくなった彼女と会いきちんとお別れをして来た。彼女は1年に満たない関係だったが、私の気持ちを大きく変えてくれる大切な出会いとなった。今の私ができる事は、彼女を忘れないであげる事。きっと寂しがり屋さんでしょうからね。彼女との出会いは私にとって「必然の出会い」となっている。



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