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おしゃべりな家 【ショートショート】

変わった形の家があった。

一見どこにでもある家。

でもよく見ると壁の色はツギハギ、

屋根の上には大きなアンテナが立っている。


ある日の午後、

配達員が小包を持ってあらわれた。

やや汗ばんだ額をハンカチで拭い、

扉の隣にあるインターホンを押した。


ピンポーン

静かな家の中にインターホンの音が響いた。


物音はしない。

蝉の声がやけに大きく聞こえる。

留守か…

配達員はそう思ったが

念の為、もう一度インターホンを押そうとした時

扉の奥から声がした。


「どちらさま?」

女性の声だ。

足音がしなかったのに

急に扉のすぐそばで声がしたことに少々面食らった。


なんだか気味が悪いな。


「西取郵便局です。板東様宛に荷物が届いています」

「あらそうなの」
はっきりとした声が聞こえた。

「サインを頂きたいのですが、よろしいでしょうか」


「今日は暑いわね」


「暑いですね、このところ毎日30度を超えてますからね。我々も水分補給などして熱中症対策をしてますよ。」


そう言って笑おうとしたら
間髪入れずに声がした。

「今日は暑いわね」


話を無視されたことに少しムッとしながら
配達員は続けた。

「…そうですね。すいません、サインをいただきたいのですが」


次はたっぷりと間が空いた。

「今日は暑いわね」


配達員は耳を澄ませながら
慎重に聞いた。

「今お時間よろしいでしょうか?」

「今日は暑いわね」

「後ほどお伺いしたほうがよろしいでしょうか?」

「今日は暑いわね」

「………」


「今日は暑いわね」


「暑いですね…」
配達員はどう答えていいかわからず、
呟くように答えた。


しばらくしてまた声が聞こえた。
「どちらさま?」


額から汗がじわじわ噴き出した。

会話をしているようで噛み合っていない…

それにこの女性…

会話の”間”がなんだか変だ。

はっきりした声だが、

機械のようで人間と話している感じがしない。


扉のすぐそばにいるのに出てこない。

なぜだろう?


扉の先にいるのは本当に人だろうか…
ふっとそんなことが頭をよぎった。
ロボット?幽霊?
…でも、そのどちらでもない気がする、
なんだろう、思い切って扉を開けてみるか?

配達員はゆっくりと扉に手を伸ばした。


扉には鍵がかかっていた。

いや、そんなことをしても仕方がない。

帰って上司に報告しよう。

この小包は…さっさと手放したいが

これも持ち帰って相談するか…


配達員はそっと玄関から離れ

一目散に帰っていった。


家はまた静かになった。

玄関に人影はない。


声の主は、静かにあくびをし、羽を広げて伸びをした。そして大きなくちばしで、カゴの隅にある餌をつついた。

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