不妊症#18 勝った胚盤胞と、笑った者が強いのだ。
以前有名人の方が、独身で卵子凍結済みと発言され、通院先のホームページにもある、社会的卵子凍結。
だけど、卵子だけを凍結することにいかほどの意味があるのか?自分たちの胚培養の結果を聞いたら、たいそう疑問に思ってしまった。
卵子がいっぱいあるかと、受精、胚盤胞まで育って、着床、無事に出産まで至るかは、別問題みたいだ。
その日病院へは夫と二人で。胚培養の結果と、今後の胚移植のスケジュールを聞いて終わり。
帰り道に夜ご飯を食べてお腹いっぱいになっても、なんだかまだ帰る気分にはなれなかった。
カフェラテが飲みたい。
夫には先に帰っておいてもらって、カフェへ行くことにした。
***
決して、悪いと言い切れる程の結果ではなかったのに自分がこうなっている原因は、わかっていた。またまた、じゃない方の結果を残してしまったから。
なぜ?どうして?
これからも少ない確率の方を踏んでしまうの?
わたしたち二人、保険内でうまくいくのかな?
本当になるから言葉にしない方が良いっていうけど。わたしの場合、言語化せずに整理しないまま置いておく方が、考え続けて心配が膨らんでしまうから。
手帳に、今日の結果と、感じたことを殴り書きしていく。ついでに今までの振り返りも。良かったことも、忘れないように書き留める。
B5の手帳のフリーページは、あっという間に真っ黒になった。
書き終わって、パラパラと前のページを見返していると、カラフルなページに目が留まった。旅行のパンフレットのスクラップや、映画のチケットを貼り付けていたページ。
その中に、初詣のおみくじもあった。
もういくつ寝たら、明るい未来へ向かって頑張るぞ!と意気込んでいたのがもう一年近く前か。小吉だけど良い言葉と思って、取っておいたんだったなぁ。
遅いといっても、まさか体外受精までの未来は描いていなかったよ。「来ても」遅いなんて含みがある言い方もずるいね。
だけど、やっぱり正論。どんな治療も、繰り返さないと評価できないことってある。
頭ではわかっても、そうしている間に保険の回数も、自分の年齢も、残りが減っていくたびに心が急いてしまうのが不妊治療。
焦るな。
何度だって言われないと、忘れてしまうよ。
そして、「今の人が最上迷うな」。
見透かされているのかと思った。どこに終着点を持っていくのか、二人でどうやって決めるのか。もしこれからも成果がでないのなら、いつかは考えないといけないこと。
あの日の小吉の言葉が、ガツンと響いた。
ここにおみくじを貼った過去の自分、偉い。
状況はなにも変わっていないし、不安は拭えない。だけど、紙に吐き出して、おまけに欲しかった言葉をもらって、頭も気持ちもすっきりできた。やっと、現状を受け入れる気持ちが湧いてきた。
帰ろう。明日も仕事だ。
薄くなってしまったカフェラテを飲み干した。
***
なのに、残念なことに、安心したら今度は胚の評価が気になって止まらなくなってしまった。新しいステージにきて、水を得た魚のように絶好調を取り戻した【スキル:検索】。
夜通しはきつい…。出勤はせねばならぬのだよ。
眠さを誤魔化すために、イヤホンをはめた。選び出したのは『ロストマン』。沁みるぜ〜と聴いていたら、ハマりすぎた歌詞にびっくりした。
そこ??自分で笑ける。
そうだよな。胚たちはもう冷凍された後。わたしがどれだけ調べようとも、結果は同じ。
検索の末に腑に落ちた言葉も、医学的なものではなく、「強い者が勝つのではない、勝った者が強いのだ」だし。
思い描いた通りでなくても、弱々しく見えても、胚盤胞はできてくれたんだ。
培養士さん、また会えたらお礼を伝えよう。
病院の実績データも、先生も、これでうまく行く人も全然いるって示してくれた。
ひとまず今は喜びましょうと、にっこりと言ってくれたじゃないか。
強いものだけじゃない、最後に笑った者も勝ちだ!
亀みたいにのろのろでも、現在地を確認しながら、ゆっくり一歩ずつ踏みしめていきゃいいさ。