アリシマ

21世紀生まれの大学生。主に小説・エッセイを書きます。公募勢。執筆ジャンルはハードボイ…

アリシマ

21世紀生まれの大学生。主に小説・エッセイを書きます。公募勢。執筆ジャンルはハードボイルド、ホラー、ミステリ、ロマンス。易しい文章を心がけています。

最近の記事

  • 固定された記事

ラブレターと爆弾

手紙を書くのって、案外難しいね。もう5回も書き直しているよ。君がこれを読んでいるということは、この手紙は書くことに成功した貴重な一枚ということになるね。どうか最後まで読んでほしいな。 僕と君が離れ離れになってしまってから、もう1ヶ月近くが経つね。隔離されている場所というのは、どんな場所なのかな。清潔で、やさしい人がいて、おいしいご飯が出てくる場所だといいな。そうでなきゃ、僕は君を手放してしまったことを、後悔してもし尽せないよ。 なにもかも、ナノマシンのせいだ。僕はそう思う

    • 違和感のある警察官

      ぼくはケイサツカンだ。 今日も帰りはおそかった。仕事いそがしいのね、おつかれさま、そう、ぼくのツマは言う。 仕事がいそがしいのは事実だ。しかし、帰りがおそくなった理由は、それだけではない。ぼくにはツマとは別に、愛する人がいる。 若い女だった。ツマよりもはるかに美しく、ツマのようにうるさいことを言わない。 ツマが温めてくれた夕食を口にはこんでいると、ぼくの一人ムスコが起きてきた。トイレだと言う。 おとうさん、おかえりなさい。ぼくはムスコの頭をなでる。 ザイアクカンは

      • 叫びの丘

        僕は幼い頃に両親を亡くし、父方の祖母と二人、鎌倉にある実家で暮らしていた。父方の祖父が生前に残してくれた財産のおかげで、僕は私立大学まで卒業することができた。しかし、全てが順調にいったわけではない。僕も人並みに、浪人というものを経験している。 叫びの丘に出会ったのは、浪人中、僕が精神的に参っているときであった。周囲の友人たちの成績が伸びていく中、僕の模試の結果は振るわなかった。 「あんた、外で散歩してきな」 僕が自室でうなり、これ見よがしに食事を摂らない様子を見て、たまらず

        • 地獄の夏合宿とうるさい比喩【5】(完)

          地獄が行き着く果てとは (※このエッセイは第5話です。第1話から読むことをおすすめします) ↓↓↓第1話はこちらから↓↓↓ 発達していた台風が進路を変えたのは、合宿2日目のことだった。午前中は昨日と同じように走らされ、いよいよ天に召されるのではないかと危惧していた時、我ら東方の顧問と西方の顧問が話し合いを始めたのだ。本州を通らないとされていた台風が進路を変え、僕らのいる西日本に直撃するようだ。 僕たちは顧問には気づかれないように歓喜した。先ほどまで見えていた三途の川で水

        • 固定された記事

        ラブレターと爆弾

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【4】

          来たる午後の練習、待ち受けるのは希望か、絶望か (※このエッセイは第4話です。第1話から読むことをおすすめします) 午後は専門としている競技種目別に分かれて、小さなグループで練習をすることとなった。走り幅跳びを専門としている僕とAは、同じく走り幅跳びに命をかけてきている西方の部員たちとストレッチに励んでいた。同じ専門でも、おそらく草野球とメジャーリーグ、ゲートボールとマスターズゴルフくらいの差はあるだろう。 遠くを見ると、西方の顧問は短距離走と中距離走の一団の指導に手一

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【4】

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【3】

          ついに地獄の時、午前の練習に終わりはあるのか (※このエッセイは第3話です。第1話から読むことをおすすめします) 西方の顧問に何度濡らされたか分からないシャツは、京都の炎天下を前になす術もなく乾ききっていた。真夏の京都における水分というものは、まさにドラゴンボールの世界で生き延びようとしているちびまる子ちゃんだった。あまりにも無力すぎて、あたしゃ涙がでるよ。トホホ。 スパイクを履いた僕とAは、これから待ち受ける練習を前に震えていた。十数年ぶりのおもらしが再来しそうだ。

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【3】

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【2】

          またいでしまった地獄の正門、灼熱の京都でついに練習が始まる (※このエッセイは第2話です。第1話から読むことをおすすめします) 高校の敷地内に足を踏み入れてからわずか2分後、僕はスパイクシューズと水筒を持ってグラウンドに立っていた。 その2分の間に僕は、3日分の衣類の入ったバッグを宿泊施設の床に叩きつけ、栄養補給用のゼリー飲料を、飛行機のトイレのように「ジュコッッ」と飲み干していた。バッグの中身が卵白と砂糖ならその衝撃で確実にメレンゲが生成されただろうし、ゼリーを吸引す

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【2】

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【1】

          コスメ目当てに韓国旅行に行く女子高生のキャリーバッグのごとくぎゅうぎゅうな電車内で、僕はこれからのことを思っていた。 湘南新宿ライン。小田原に着けば、すぐに新幹線へ直行だ。そこには日本中の太田胃散が在庫切れになるくらい神経質な顧問が待っている。怒ると地球上にあるどの楽器よりもうるさい。 これは僕の高校時代の話だ。青いジャージを身にまとった陸上部一行は、青を通り越して白くなった顔を見合わせていた。これから地獄の京都合宿が始まるのだ。おおきに、死になはれ。といった感じである。

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【1】

          【短編小説】新人エージェント

          (任務初日に上司が殉職、敵陣で孤立) 僕は西の国のエージェントだ。今、僕は東の国の軍事情報を奪取する任務を遂行している。エージェントとしての仕事は今日が初めてだ。 国家が管轄するエージェント養成学校ではトップの成績だった。だが、現場となると話は別だ。右も左も分からない赤ん坊。当然、僕を指導する人が必要になる。 僕の教官はこの道30年のベテラン、Kと名乗る男だった。今、僕の横に倒れて死んでいる。 もう一度言う、Kは部屋中に張り巡らされた赤外線に引っかかり、壁に設置された

          【短編小説】新人エージェント