アリシマ

21世紀生まれの大学生。小説・エッセイを書きます。公募勢。執筆ジャンルはハードボイルド…

アリシマ

21世紀生まれの大学生。小説・エッセイを書きます。公募勢。執筆ジャンルはハードボイルド、ホラー、ロマンス。易しい文章を心がけています。

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ラブレターと爆弾

手紙を書くのって、案外難しいね。もう5回も書き直しているよ。君がこれを読んでいるということは、この手紙は書くことに成功した貴重な一枚ということになるね。どうか最後まで読んでほしいな。 僕と君が離れ離れになってしまってから、もう1ヶ月近くが経つね。隔離されている場所というのは、どんな場所なのかな。清潔で、やさしい人がいて、おいしいご飯が出てくる場所だといいな。そうでなきゃ、僕は君を手放してしまったことを、後悔してもし尽せないよ。 なにもかも、ナノマシンのせいだ。僕はそう思う

    • うるさい比喩御膳・竹

      〈冷たい〉・南極の氷くらい冷たい ・結婚4年目の夫くらい冷たい ・短時間でガッツリ稼げるという文言につられて応募した工事現場のバイトで、ほとんど熱中症になりかけの状態で差し入れられた、自販機で買ったばかりのアクエリアスくらい冷たい ・同じ高校に通う姉のクラスに、彼女が忘れていった弁当を届けた際、所属するサッカー部の悪い先輩に捕まってしまい、教壇の上で一発芸を無理やりやらされた後の、しんと静まり返った教室くらい冷たい ・連続殺人犯が自分の幼馴染の男だと分かり、気の迷いが

      • うるさい比喩御膳・梅

        〈嬉しい〉・運動会で優勝するくらい嬉しい ・満員電車で端の席が空いて座れた時くらい嬉しい ・大切に育てたニワトリが初めて卵を産んだ朝くらい嬉しい ・料理をしようとした母がうっかり皿を割り、片づけに疲弊した結果、見かねた父親が回転寿司に連れていってくれた時くらい嬉しい ・更年期の国語教師がストレスのはけ口として生徒に長文の古語の暗唱を出題し、多くの生徒が失敗し叱責される中、完璧に暗唱をしてみせ、その顔を引きつらせてやった時くらい嬉しい ・自分の洗濯物を中学生の娘のもの

        • 怒った彼女

          太郎が電車内に駆け込むと、背後でドアが閉まった。 今日のデートは絶対に遅刻が許されない。もしも家を出るのがあと30秒遅ければと思うと、太郎は股間が縮み上がるような気分になるのだった。 新宿駅では、愛しのユリちゃんが頬を膨らませながら待っているはずである。もしかすると、そんな可愛いものでは済まず、野菜室の中の腐ったキュウリを見るような、不快そうな眼差しを向けられるかもしれない。 いずれにしても、その時の太郎のセリフは決まっている。 「大変、申し訳ございませんでした! ユ

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        ラブレターと爆弾

          閉店後のバーで

          最後にボールを手にしたのは、いつのことだったろう。 アキラはロックグラスを磨きながら、そんなことを考えていた。 今朝のスポーツ紙の記事が脳裏にちらつく。昔のことはできるだけ思い出さないようにしていたが、今回ばかりは無理だった。 バスケットボールのプロリーグで、神谷ハルトが得点王と年間MVPを達成した。 「アキラ、俺ら絶対プロになろうな。約束だぞ」 記憶の中のハルトはユニフォームを着ていた。インターハイの閉会式、表彰台の上でハルトが言ったのだった。 脳裏に浮かんだそ

          閉店後のバーで

          金髪ギャルは唯我独尊

          男って、本当に単純だ。 上崎ユミはマクドナルドの店内で、男の話に耳を傾けていた。 男はユミと同じ高校に通う3年生だった。ユミよりも学年が一つ上である。 男は、サッカー部のたるんだ後輩を締め上げたことや試合でハットトリックを達成したことなどをしきりに話す。ユミが話題を変えても、気がつけば自慢話が再開している。こいつは顔は良いが、頭の中には武勇伝しか詰め込まれていないらしい。 ユミは自慢の金髪を指先で弄びながら、出そうになるあくびをこらえた。時折、男の視線はユミの豊満な胸

          金髪ギャルは唯我独尊

          違和感のある警察官

          ぼくはケイサツカンだ。 今日も帰りはおそかった。仕事いそがしいのね、おつかれさま、そう、ぼくのツマは言う。 仕事がいそがしいのは事実だ。しかし、帰りがおそくなった理由は、それだけではない。ぼくにはツマとは別に、愛する人がいる。 若い女だった。ツマよりもはるかに美しく、ツマのようにうるさいことを言わない。 ツマが温めてくれた夕食を口にはこんでいると、ぼくの一人ムスコが起きてきた。トイレだと言う。 おとうさん、おかえりなさい。ぼくはムスコの頭をなでる。 ザイアクカンは

          違和感のある警察官

          叫びの丘

          僕は幼い頃に両親を亡くし、父方の祖母と二人、鎌倉にある実家で暮らしていた。父方の祖父が生前に残してくれた財産のおかげで、僕は私立大学まで卒業することができた。しかし、全てが順調にいったわけではない。僕も人並みに、浪人というものを経験している。 叫びの丘に出会ったのは、浪人中、僕が精神的に参っているときであった。周囲の友人たちの成績が伸びていく中、僕の模試の結果は振るわなかった。 「あんた、外で散歩してきな」 僕が自室でうなり、これ見よがしに食事を摂らない様子を見て、たまらず

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【5】(完)

          地獄が行き着く果てとは (※このエッセイは第5話です。第1話から読むことをおすすめします) ↓↓↓第1話はこちらから↓↓↓ 発達していた台風が進路を変えたのは、合宿2日目のことだった。午前中は昨日と同じように走らされ、いよいよ天に召されるのではないかと危惧していた時、我ら東方の顧問と西方の顧問が話し合いを始めたのだ。本州を通らないとされていた台風が進路を変え、僕らのいる西日本に直撃するようだ。 僕たちは顧問には気づかれないように歓喜した。先ほどまで見えていた三途の川で水

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【5】(完)

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【4】

          来たる午後の練習、待ち受けるのは希望か、絶望か (※このエッセイは第4話です。第1話から読むことをおすすめします) 午後は専門としている競技種目別に分かれて、小さなグループで練習をすることとなった。走り幅跳びを専門としている僕とAは、同じく走り幅跳びに命をかけてきている西方の部員たちとストレッチに励んでいた。同じ専門でも、おそらく草野球とメジャーリーグ、ゲートボールとマスターズゴルフくらいの差はあるだろう。 遠くを見ると、西方の顧問は短距離走と中距離走の一団の指導に手一

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【4】

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【3】

          ついに地獄の時、午前の練習に終わりはあるのか (※このエッセイは第3話です。第1話から読むことをおすすめします) 西方の顧問に何度濡らされたか分からないシャツは、京都の炎天下を前になす術もなく乾ききっていた。真夏の京都における水分というものは、まさにドラゴンボールの世界で生き延びようとしているちびまる子ちゃんだった。あまりにも無力すぎて、あたしゃ涙がでるよ。トホホ。 スパイクを履いた僕とAは、これから待ち受ける練習を前に震えていた。十数年ぶりのおもらしが再来しそうだ。

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【3】

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【2】

          またいでしまった地獄の正門、灼熱の京都でついに練習が始まる (※このエッセイは第2話です。第1話から読むことをおすすめします) 高校の敷地内に足を踏み入れてからわずか2分後、僕はスパイクシューズと水筒を持ってグラウンドに立っていた。 その2分の間に僕は、3日分の衣類の入ったバッグを宿泊施設の床に叩きつけ、栄養補給用のゼリー飲料を、飛行機のトイレのように「ジュコッッ」と飲み干していた。バッグの中身が卵白と砂糖ならその衝撃で確実にメレンゲが生成されただろうし、ゼリーを吸引す

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【2】

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【1】

          コスメ目当てに韓国旅行に行く女子高生のキャリーバッグのごとくぎゅうぎゅうな電車内で、僕はこれからのことを思っていた。 湘南新宿ライン。小田原に着けば、すぐに新幹線へ直行だ。そこには日本中の太田胃散が在庫切れになるくらい神経質な顧問が待っている。怒ると地球上にあるどの楽器よりもうるさい。 これは僕の高校時代の話だ。青いジャージを身にまとった陸上部一行は、青を通り越して白くなった顔を見合わせていた。これから地獄の京都合宿が始まるのだ。おおきに、死になはれ。といった感じである。

          地獄の夏合宿とうるさい比喩【1】

          新人エージェント

          (任務初日に上司が殉職、敵陣で孤立) 僕は西の国のエージェントだ。今、僕は東の国の軍事情報を奪取する任務を遂行している。エージェントとしての仕事は今日が初めてだ。 国家が管轄するエージェント養成学校ではトップの成績だった。だが、現場となると話は別だ。右も左も分からない赤ん坊。当然、僕を指導する人が必要になる。 僕の教官はこの道30年のベテラン、Kと名乗る男だった。今、僕の横に倒れて死んでいる。 もう一度言う、Kは部屋中に張り巡らされた赤外線に引っかかり、壁に設置された

          新人エージェント