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わたしの本棚

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わたしの読書記録です。
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#小説

本棚:『今夜は、鍋。温かな食卓を囲む7つの物語』

本格的な夏はまだ先なのに、暑いな…と思う日が多くなってきた今日この頃。鍋の季節ではありませんが、好きな作家さんの名前があったので、「おっ!」と思って手に取りました。そういえば、クリスマスのアンソロジーを夏ごろに読んだこともあったっけなぁ。 私が一番好きだなと思ったのは清水朔さんの『初鍋ジンクス』。7つの物語のそれぞれの扉の絵の中でも、これが一番好き。だって、具がアレだから。 それから、角田光代さんの『鍋セット』も、じんわりと「いいな」と思いました。どこかで読んだことあるんだよ

本棚:『後悔病棟』

神田川病院に勤務する33歳の早坂ルミ子は末期がんの患者を診ており、これまで多くの患者を看取ってきた。しかし、彼女に貼られたレッテルは、患者の気持ちがわからない無神経な医者だというもの。ある日、中庭で見つけた聴診器を患者の胸に当ててみると、患者の心の声が聞こえてきて…。 以前は「人生やり直せたら…」と思うことがありましたが、最近はあまり思わなくなりました。理由の1つは友人が「人生やり直せても、今の『あの時ああしていれば…』って思いを持っていなければ、自分の性格からすると、結局

本棚:『ネコシェフと海辺のお店』

著者は標野凪さん。どこかで見たことある気が…と著者紹介を見れば、『今宵も喫茶ドードーのキッチンで。』『こんな日は喫茶ドードーで雨宿り。』とありまして、「そうか!」と。福岡で開業し、現在は都内で小さなお店を切り盛りしている現役カフェ店主でもあるとのこと。本書のネコシェフのような気持ちで、お客さんと接しているのかなぁ。 ネコシェフの海辺のお店はいつでも行けるわけではなく、どこにあるのか不明。というか、心の中にあるのかなぁ。心が折れて、思わず漏れた心の叫びをネコシェフが聞き取って

本棚:『生きるぼくら』

小学校6年生の時に両親が離婚し、母と二人暮らしとなった麻生人生。その後、いじめから引きこもりとなり、24歳の今に至る。しかし、母が出ていき、残された年賀状の中にあった父方の祖母のもとを訪れると…。 人生(←主人公の名前)が祖母のもとを訪れるのは、小学生の時以来ですから、だいぶ時間があいていて、しかもその間に成長していますから、すぐには分かってもらえないかな?という心配はふつうにあるでしょう。実際、おばあちゃんに分かってもらえないのですが、それは時間の隔たりではなく、認知症が

本棚:『夕闇通り商店街 たそがれ夕便局』

『夕闇通り商店街 コハク妖菓子店』につづく本書。「たそがれ夕便局」では、手紙を「過去・現在・未来のどこへでも、だれにでもお出しいただけます」という不思議な郵便局。しかし、この郵便局へやって来れるのは、霊・生き霊・悩みを抱えた人間のみで…。 連作短編集なのですが、三通目(三話目)は、小学生の頃、毎年、夏休みに訪れていた祖母の家の近所に住んでいた友達への手紙。喧嘩別れした翌年、仲直りできると思っていたら、引っ越してしまっていて、そのまま縁が切れてしまっていました。しかし、「たそ

本棚:『三匹のおっさん ふたたび』

先日読んだ『三匹のおっさん』の熱量が高いまま続編へ。はじめに漫画がついているのも嬉しい!各話、表紙イラストと終わりのイラストを見て、「ふむふむ、あそこの場面ね!」とか、「そういう意味だったのか!」とか、イラストも楽しめます。 第二話では本屋さんで万引きをはたらく中学生を三匹が斬るというお話です。万引きによる損失はかなりの痛手ということは何度か聞いたことがありますが、1冊の本を売って儲けがいくらか、ということが書かれています。また、著者のあとがきでは印税が何%かも書かれており

本棚:『三匹のおっさん』

ドラマ化されていますので、もちろんタイトルは知っていました。有名な本、人気のある本に限って、すぐに手に取らないのは、天邪鬼だからでしょうか…。今回ようやく読みまして、はい、素直に面白かったです。後味が悪い物語は苦手で、勧善懲悪ものが好きなので、私の好みにピッタリです。あと、キュンとする場面もありますし。ちなみにドラマも見ていなかったので、キャストをチェックしました。続編も近いうちに読みたいと思います。 たしかに60歳はまだまだ若いよなぁと思います。まだ20代の頃は、定年退職

本棚:『図書館の神様』

18歳まで名前のとおり、清く正しい人間だった清。しかし、高校3年の夏、キャプテンをしていたバレーボール部のメンバーが自殺した。次第に清さも正しさも薄れていった彼女は、国語の講師として、海が見える高校に赴任し、文芸部の顧問となった。だが、文芸部の部員はたった一人しかおらず。 はじめのうちは、こんないい加減な人が先生でいいのだろうか?と思いながら読んでました。でも、徐々に文芸部員の垣内くんとのやり取りが、なんともいえない感じで、憎めないというか。 垣内くんは文学を楽しんでいるの

本棚:『星がひとつほしいとの祈り』

いずれも女性が主人公の7つの物語が収められた短編集。どれも素敵で、涙と鼻水が大変でした。ままならないことは多々あるけれど、それでも光を見出して生きよう、という気持ちになります。 「斉唱」では、体験学習として、母娘で佐渡島へ行き、トキについて学び、トキの餌場となる「ビオトープ」の整備などを行うワークショップに参加します。同じワークショップの参加者たちは、親の方が環境問題に熱心で参加を決めた様子。意識が高いことは悪いことではないですが、「ちょっとな…」と思う場面も。 自分自身が

本棚:『猫目荘のまかないごはん』

自分の生きる道を見つけるのだと意気込んで上京したものの、うまくいかず。上京の時からずっと住んでいたアパートが取り壊しになり、急遽、友人に相談して、住むことになったのは、朝と夕に大家がまかないを提供してくれる下宿屋。だが、その見た目は築何年だか想像もつかない陰気な建物で…。 下宿屋というと学生相手のイメージがありますが、猫目荘の入居者はみな社会人。社会人でも、下宿屋みたいな場所があるといいなと思いました。シェアハウスが近いのかもしれませんが、ちょっと違うかなぁ。 私の住んでい

本棚:『出張料理みなづき 情熱のポモドーロ』

「あなたが上手くいかなかった仕事は、たくさんある仕事のうちのたった一つ。」 なんて温かい言葉なんだろう。周りの人と同じようにできないと感じて落ち込んだことは何度もあります。そうかと思えば、誰かが他の人と同じようにできないときに、責めてしまったことも何度もあります。他人に対しても、自分に対しても、たくさんある仕事のうちのたった一つなのに。 主人公の体育会系女子の季実が新卒で入った会社はブラック。2年経たずに辞めたものの、気力を失い、昼夜逆転の生活へ。両親から東京の本郷にいる祖

本棚:『私たちの特別な一日』

冠婚葬祭アンソロジーというのも珍しいなと思いました。成人式、結婚式、葬式、祭事。日常的なものではないから、確かに特別な一日です。 はじめのお話は、飛鳥井千砂さんの『もうすぐ十八歳』。成年年齢が18歳に引き下げられたというのは、知識としては知っていても、いまだにピンときません。昨年、同僚のお子さんが18歳の誕生日に「成人のお祝いとして」何か好きな食べ物を用意しようと思って、との話を聞いて「そうか…」と思いました。 私にとっての成人式の思い出は、雪。前日の夕方ぐらいから、ドカドカ

本棚:『まぼろしを織る』

主人公の亡き祖母は有名な染織家でした。同じく染織家となった叔母さんの好意により、コロナにより仕事を失った主人公は一緒に暮らすこととなりました。叔母さんの仕事の手伝いや、塾の事務の仕事もしていますが、何のために生きているのか、ただ死ぬのが怖いから生きている、と思っています。そんな中、飛び降り事故に巻き込まれ、身体は回復したものの、ほとんど口をきかず、部屋に閉じこもってばかりとなった従弟も、しばらく一緒に暮らすこととなります。 染織のお話なので違うのですが、以前読んだ髙森美由紀

本棚:『凛として弓を引く』

高校生になるタイミングで東京に引っ越してきた楓。地元の弓道会に入って弓道を始めた。高校2年生となり、1つ年下の弓道会メンバーに誘われ、学校で弓道同好会を立ち上げ、部長に。そして初めて挑んだ試合は、あっけなく終わってしまい、不完全燃焼で…。 本書を読むと、背筋を伸ばして、お腹に力を入れ、所作を美しく…と意識するようになり、好きです。上半身はゆったり脱力して、下半身は肚(はら)を中心にどっしりしている状態。少々のことでは動じない、常に平常心でいられる、そういう人のことを肝が据わ