自閉症の息子がクラスの一員としてバトンをつないだ話
今年はコロナの影響で、息子の幼稚園では例年のような大規模な運動会がなくなりました。
でもその代わり、時間や日にちを分け、保護者が多くなりすぎないように配慮しながら、ミニ運動会のような形で子ども達の普段の頑張りを見ることができました。
息子の運動会に寄せる思い
私の息子は自閉症で、重い知的障害があります。
幼稚園の年長さんの時点で発語が1つもなく、身の周りのことも1人ではできません。
幼稚園に通いながら療育にも通っており、幼稚園では息子専属の加配の先生が、常にぴったりついてくれていたおかげで、安全に楽しく、園生活を送ることができていました。
今回、息子は年長さんとして、ダンスとリレーに参加しました。
でも、ダンスのような集団の動きも、リレーのようにお友達とバトンをつなぐことも、息子にとっては難しい課題です。
そもそも息子は、決められたコースをまっすぐ走ることにも、かなり不安がありました。
でも去年の運動会、息子は最初から最後までみんなと一緒に参加し、「一度も癇癪を起こさずにその場に居続ける」という快挙を成し遂げました。
普通の子どもだったらこれくらいのこと、「当たり前」と思われるかもしれません。
それでも去年、私は嬉しすぎて号泣し、夫は「俺の息子すごい!最高!ご褒美に今日は寿司だ!」と言って喜び、そのまま家族で回転寿司に行ったという思い出があります。
だから、今年も何かすばらしいものを見せてくれるんじゃないかと、私は内心ワクワクが止まらなかったのも事実です。
集団行動の極みともいえるダンス‥‥‥で、できる?
まずは、年長クラスのダンスです。
園児たちが、一直線のラインになったり大きな円を作ったり小さな円を作ったり、音楽に合わせて踊ったりと、完全に集団行動です。
息子はもちろん、みんなと同じように踊ることはできません。
でも、加配の先生と一緒にちゃんといるべき場所にいて、今年も一度も癇癪を起こすことはありませんでした。
そして、更に今年は加配の先生とお友達と一緒に、一直線のラインになったり大きな円を作ったり小さな円を作ったり、皆の後をついてぐるぐる走ったりしているではありませんか!
本当に加配の先生あってのことなのですが、あの息子がちゃんと、みんなと一緒に1つの作品を作り上げていたことに、私は感激しました。
息子はみんなが座る時に1人だけ立っていたりなどもしました。
でもそれも私にとっては、「よし、息子がよく見える!シャッターチャンス!」と、意気揚々とカメラを回し続けることができたので、全く問題ありません。
もう込み上げるものが多すぎて、ダンスの時間が短すぎて、カメラを回すべきなのか見るべきなのか、私もめちゃくちゃ忙しかったです。
お友達と一緒にバトンをつなぐ息子の感動のリレー
そして運動会の醍醐味、リレーです。
リレーについてはもう、言葉になりません。
先生達があえて息子に、選手入場の時のプラカードを持つ役割をさせてくれていました。
息子はみんなの先頭に立って入場し、息子の名前のアナウンスが園庭中に響き渡りました。
息子は全く喋ることができないし、誰かと言語コミュニケーションをとることも一切できません。
それがこんな、普通の大人でも緊張しそうな大役を、加配の先生に手を引かれながら堂々とやってのけました。
私、この時点で既に泣きそうです。
実際に見たいしカメラにも収めたいし、大忙しでした。
そしていよいよ、リレーのスタートの時がきました。
まずは自分の番まで待つところから、大丈夫かなと思いましたが、これも加配の先生と一緒にじっと待ち、スタートラインに立ちました。
そこで、自分の番が来たら加配の先生と2人で一緒に走り出す、というのが去年の運動会でした。
でも今年は年長さんの息子。
去年とは一味違います。
お友達からバトンを渡されると、なんと、息子は加配の先生ではなく、お友達と手をつないで走り出したのです。
加配の先生は、息子にとっては第2のお母さん、 むしろ体の一部と言ってもいいのではないかというくらい、幼稚園ではいつもぴったり一緒にいた存在です。
もちろん加配の先生も近くで見守ってくれていましたが、今年のリレーでは、クラスの女の子が息子の手を引いて一緒に走ってくれました。
自閉症で、他者への興味が極端に薄いと言われ、あんなにソーシャルディスタンスの広かった息子が、お友達の手を離さない‥‥‥!
しかも、去年のような一直線のコースではなく、カーブのあるリレーコースです。
カーブの部分も、女の子がしっかり手を引いてくれていたので、息子は危なげなく走り、ちゃんと自分の与えられた区間を走りきりました。
そして、ちゃんと次のお友達にバトンを渡しました。
つながっている‥‥‥。
息子を介してバトンがちゃんと、つながっている‥‥‥。
いつも何をやるのもクラスのお友達のようにはできないし、あらゆることがみんなとは違う息子が、ちゃんとクラスの一員として、役目を果たしたのです。
そしてそんな息子を、ゴール地点で待っていたお友達が褒め称えてくれていました。
加配の先生は頑張った息子を抱きしめ、それはさながら、私以上に息子のお母さんのようでした。
息子は相変わらずポカーン、キョトーンとしていて、どこまでわかっているのか分かりませんが、なんとなく嬉しそうなのはわかりました。
リレーをやれたんですよ、重度知的障害の息子が、普通の子どもたちに混じって。
私はもう、あふれ出そうになる涙をこらえるのに必死でした。
ビデオで記録に残したい、肉眼でもしっかり見たい、でも息子とお友達に、手が痛くなるくらい全力の拍手もしたい。
「あれ?どうして私には手が2本しかないのかな?」
この瞬間だけ手が6本くらい欲しいと、真剣に思いました。
あたたかい‥‥‥ポカポカ胸がいっぱいの帰り道
私が感動冷めやらぬ状態でぽやぽや歩いていると、他のママ達が口々に私に話しかけてくれました。
「○○くん(息子の名前)、すごかったね!」
「ちゃんと最初から最後まで走れていたね!」
「本当にがんばってた!」
そうなんです、息子が通う幼稚園は、ママ達が本当にあたたかいのです。
去年もそうでしたが、みんなとは違う息子の成長を、他のママ達が一緒に喜んでくれるのです。
同じように障害がある子のママも、定型発達の子のママも、みんなが息子をクラスの一員として、自分の子のお友達として見てくれています。
私は胸がいっぱいすぎて、この胸いっぱいになったあたたかい気持ちを少しもこぼさないように、一歩一歩ゆっくりと歩いて家に帰りました。
今年も小規模とはいえ、息子の成長をたくさん見ることができて、私に最高のご褒美をくれた幼稚園のミニ運動会でした。
息子に障害があっても、私がそれを引け目に感じず、素直に息子の成長を受け止めて喜べるのは、幼稚園の先生方と、保護者のみなさん、そして息子のクラスのお友達、みんなの支えがあるからです。
今年もこうして、息子の成長をみんなで喜べたことが、とても嬉しかったです。
ただ‥‥‥この1年でこれだけ大きな成長を遂げた息子に対し、朝からバタバタしてイライラして子ども達にも夫にもあたりちらしながら家を出た自分が、本当に恥ずかしい。
息子に恥じない母でいられるように、もっと私も精進したいと思います。
その日、夕飯は寿司ではないけれど、息子がかわいくて誇らしくて褒めたたえたい気持ちが止まらないので、衝動的にケーキを買って帰りました。
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