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Special Talk 芸術的移住 vol.3


収録日 2023年7月10日
武雄市図書館・歴史資料館・こども図書館
館長 溝上 正勝 さん

スタジオ有明の月
岩清水 緑風・朝倉 香絵

今や全国的に知られている武雄市図書館。市営の図書館を民間が運営、スターバックスや蔦屋書店が入った館内にはおしゃれな音楽が流れ、飲食しながら読書を楽しむことができる。年間1,000回(コロナ前は1,500回)ものイベントが開催されるおしゃれな館内はまるでアミューズメントパーク。視察は国内外から年間100件(コロナ前は200件以上)にも及び、武雄市図書館を参考につくられた図書館も誕生している。利用者や読者に自信を得てもらう取り組みをしている武雄市図書館とスタジオ有明の月。全国の図書館を見てきた岩清水と朝倉が、館長・溝上さんの楽しいお考えをお聞きしました。

武雄市図書館


武雄市こども図書館

 テレビで見た代官山の蔦屋書店。 
 そんな図書館を実現したかった。

岩清水 CCC(=カルチュア・コンビニエンス・クラブ。TSUTAYAや蔦屋書店を運営。)への委託は指定管理者という制度なのですね?
溝上館長 はい。指定管理者制度ってハードル高いんですよ。運営も管理も全てやってもらうんです。だから「運営や管理ができる会社かどうか」「図書館を指定管理にしていいか」という議案を出して、この会社はどうだ、業績はどうだ、どういうことをやっているんだ、こういうことをちゃんとできるのかというのを議会で論議して、大丈夫だろうという会社にしかお願いしないのが指定管理。普通の民間委託とは全然違うんです。それだけ任せられる会社だからできることですね。指定管理者制度は「公募して審査で決めなさい。」と法律で決まっているんです。でも実は武雄はやっていないんですよ。
岩清水・朝倉 えーっ!そうなんですか!
溝上館長 CCCが作った東京・代官山の蔦屋書店。あの雰囲気を武雄に持ってきたいというのが最初なので、あれをCCC以外どこができるの?ということで市民や議員さんを説得したんです。法律では公募しなさいとなっているけれど「公募よりもっと効果的な方法があったら随意契約で良い」と書かれてあるんですよね。
岩清水 武雄の図書館は代官山の蔦屋書店がモデルになっていたんですね。
朝倉 私たちもあそこが好きでよく行っていました。
溝上館長 CCCが良かったのは私たちが思っているような雰囲気を出せる会社だったことと、もうひとつはスピード感でした。通常こういう事業をやる時、市は基本構想を作るんです。でもそれ自体に問題があるんですよ。基本構想を市が作ったらもう決まり
に決まってしまってそれ以上の広がりはない。しかも構想計画を作って、実施計画を作って、公募して、最終的に工事をするとなると3年以上はかかるんですよ。最低3年かかることを武雄市は1年かからずにやった。随意契約でCCCを選んだ最大の理由はスピード感でした。1日も早く市民にいい図書館を見せたい。だから最初から相手を決めて、相手からアイデアをいっぱい出してもらったんです。その中で公立図書館としてできることとできないことを決めて、「スタバを置きますよ。」「蔦屋書店を置いてこういう雑誌を読めるようにしますよ。」と、市民に具体的なアンケートを取ったんです。そうしたら賛成意見が80数%ありました。市民の意見を聞いて修正して、それを踏まえて設計して、工事の予算を出しました。そこから約4〜5ヶ月くらいで工事をやりました。
工事も大変でしたけど、20万冊近くあった本を全部集めて表装をやりかえて、古いのは捨てて、バーコードやICタグを付ける作業、半年間ひとつの体育館を図書館用に貸し切りにさせてもらいました。寒い中で、体育館って暖房が効かないんですよね。スタッフはプラスのアルバイトを雇って、職員も十数名で動員体制を組みながら3ヶ月間ぐらいずっとやっていました。武雄市文化会館に仮の図書館を作って、そちらの運営もしながらという大変な半年間でしたね。でもそのおかげで期間は3分の1以下に短縮できたんです。民間の意見も結構取り入れることができました。
とは言え、当時の担当者はかわいそうでしたね。図書館はこうあるべきっていうのがありましたからね。飲み物はダメ、音を鳴らすなんて絶対ダメ、そういうのをなしくずしにしてるわけでしょ。だから図書館関係者からはネガティブなご意見をいただきました。
でもね、しっかり説明したら半分くらいの人が「なるほど、そういう考えでやってるんですね。」ってわかってくれた。大学教授とか最初は反対していた人たちも「今からはこういう図書館も必要だよね。図書館だけじゃなくいろんなところと一緒になってやったりしないとね。」と理解してもらえるようになりました。お客さんが増えて、これだけやってきたら、今は良い意見ばかりで反対意見がほとんどなくなりました。
岩清水 それは何よりですね。

武雄市図書館の高い天井が印象的

 いつでも利用でき、また行きたくな
 る居心地のいい図書館を目指して。

溝上館長 武雄市図書館には大きく分けて3つの魅力、特徴があります。1点目は朝9時〜夜9時まで365日、年中無休です。夜はサラリーマンの方とか仕事してる方が結構来られてます。でもこれをやるには行政では無理なので民間を探しました。もともと勤務していた司書さんを全員雇ってもらう条件でCCCに指定管理をお願いしたんです。今もその人たちが核となってやっていますし、選書や廃棄の基準なども武雄市がつくったものをそのまま使っています。

2点目は居心地のいい図書館。図書館と書店、カフェが融合しているところは武雄市図書館の一番の魅力ですけど、その他にもお客様の多様なニーズに応えています。図書館の25万冊と書店の5万冊、合わせて30万冊の本は販売しているものも含めて全て座席に持っていって読むことができます。スターバックスの誘致によって図書館で飲み物を飲めるようにしました。ペットボトルなどキャップがあれば持ち込んでもらって結構です。いつも来られる方は水筒を持って来られます。
これで滞在時間が長くなりました。長いということは居心地の良さに繋がっていると思うんですよね。

他にもBGMを流すゾーン、音がしないゾーン、おしゃべりしていいゾーンがあったり、無料Wi-Fiは10年前からやっています。今はパソコンで仕事する人が多いですから350席のうち120席くらいはコンセントをつけています。若い女性にもきて欲しいので、おしゃれ感を保つことも大切にしています。ポスターを貼らずにデジタルサイネージで告知したり、図書館情報だけでなく観光情報も流しています。建物自体はガラス張りで夜なんかとても綺麗なんですけど、明かりについては間接照明を考えていますね。

3点目の魅力として体験できる図書館にしたいと思っています。講座、イベント、ワークショップは年間1,000回を目標にしています。武雄図書館が開催するイベントに参加することによって新たな一歩を見つけて欲しい、きっかけづくりの場にして欲しいと思ってたくさん開催しています。こども図書館は遊びの図書館ですから、遊びから学びにつながる、親子で体験できるものを中心に考えています。

いくつか紹介しますと、女性向けには月2回の朝ヨガ、語学系は英会話と韓国語の講座を毎週やっています。本当の言葉で教えて欲しいので講師はネイティブさんにこだわっています。スタバとコラボしていろんな本を使うイベントとか、シニア向けには古典講座や古文書講座、昔ながらのしめ縄とか竹細工もあります。年金の相談会やスマホ教室、お花、焼き物、落語。
子ども向けの読み聞かせは365日毎日やっています。これだけやってるのは日本一だと言われましたね。

朝倉 そうでしょうねぇ!
岩清水 イベントの多さにも驚きますし、イベントに慣れて徐々に来場者が減るのをアンケートで打開されていらっしゃるところも素晴らしいですよね。
溝上館長 アンケートは武雄図書館とこども図書館で500近く、把握できるまで自由記載でやります。アンケートを見るといろんな意見とか、客層とか、よく来られてる時間帯も参考になるんですよ。アンケートの内容はいろいろ、毎年少しずつ変えていっています。
岩清水 武雄図書館は若いお客さんが多いですね。六本木のTSUTAYAは客層がだいぶ違います。そこから5分くらいのところにある中央図書館は学生さんとかシニアがすごく多いんですけど、武雄は本当に若い方が多くて、先ほど見せていただいた統計表にある通りだなと思いました。それが地道な、一つ一つの努力の積み重ねで形づくられているのがすごく伝わりました。

こども図書館、ほんの山

 武雄市の規模感に合った取り組み。

溝上館長 武雄図書館はきっかけづくりとして初級のイベントだけにしています。私がせっかく教育委員会にいるので、生涯学習課とか各公民館で武雄図書館ができない講座を組んでもらっています。初級編をうちでやって上級者コースをそっちでやるとか。いつも連携しながらやっています。だから身の丈にあった中でちょっとだけ背伸びしてやるっていうぐらいですね。

視察に来た方からは「ここまでやるなら、こんなこともやりませんか?」とよく言われるんです。ただやっぱり身の丈に合ったことをしないと。人口5万もいないので、何でもかんでもできるわけじゃないですからね。例えば最近の読書バリアフリー。そりゃやりたいけど、各図書館で全て目が見えない人の対応ができるかというと難しい。限度がありますから。目が見えにくい方がうちに来られたら、あいさが(佐賀県立視覚障害者情報・交流センター)に連絡して、今は本を武雄図書館に取り寄せることができるようになりました。登録を図書館でできるようにしていきたいと思っています。

 図書館がもたらした経済効果。

溝上館長 図書館のアンケートに「知名度が向上した」「街に人が増えた」「武雄市に経済的な効果がもたらされている」と書いてあるのを見ると本当によかったと思います。
以前は「九州の佐賀県の武雄市から参りました。」と言わないといけなかったのが、今は武雄市と言うだけでわかってもらえると担当者が言うくらい、武雄市の知名度が格段に上がったという意味では経済効果は相当あったんじゃないかなと思いますね。
朝倉 私たちも東京に住んでいて、佐賀県で唯一知っていたのが武雄市図書館だったんですよね。
岩清水 そうなんですよ。いつか行ってみたいと思ってたんです。
溝上館長 最近そんな感じになって、いいことですね。
朝倉 武雄図書館は本当におしゃれですし、ワクワクする企画がいっぱいありますしね。
溝上館長 そう言ってもらったら嬉しい限りですね。本を借りなくても図書館に来てもらいたいんです。武雄市民は「今日何もないから図書館行こうか。」と言って来られるんですよ。口で図書館と言ってますけどここはもう図書館じゃないんですよね。アミューズメントか何かだと思ってらっしゃるんじゃないかな?
岩清水・朝倉 そうですね!確かに!!
溝上館長 私はそれでいいと思ってるんですよね。そして、来たらせっかくだから本を借りて帰ろうとかね。

併設の九州パンケーキにて

 図書館が自信をつけるきっかけに。

溝上館長 「館長個人的には、武雄図書館の何が一番良かったと思いますか?」とよく聞かれるんです。私は市民が元気になった、自信をつけたと思うんですよ。市民にとってはおしゃれな図書館ができて良かったなというのが感想です。でも、全国からお客さんや視察がいっぱい来て「すごい!すごい!」と言われると、そんなにすごいのかと思いますよね。以前は観光客が来ても「武雄は大したことありませんよ。」と言っていた人が、今は「図書館はいいのができましたよ!最近は子ども図書館ができたし、近くに三千年の大楠もあるからいろんなルートを歩いてもらったらいいですよ!」と積極的に話す方が増えてきました。観光のボランティアさんも増えた。武雄市がいろんな形で街づくりをすると手を挙げる人が増えてきたんですよ。
朝倉 それは素晴らしいですね!

溝上館長 積極的に街づくりに参加したり、退職したから自分の経験やノウハウをいかして図書館のイベントで講師やるよという人が増えた。図書館を通してみんな自信をつけてきているのではないかなと、私は個人的に評価しています。自信がつけば積極的になるし、元気になりますしね。
岩清水 本当に全く同感で、私たちはとにかく佐賀や鹿島を気に入って移住しているので、その部分で地元の人たちに自信をつけてもらいたいと思っているんです。私たちが鹿島を気に入って移住しているから、その一つの形として鹿島を舞台とした小説を書いています。今のお話をお聞きできて、勝手にですけど、同じ目標に向かって進んでいるという感じを抱きました。

溝上館長 武雄にも移住対策の課があって若い人を中
心に移住者が増えているんですけど、移住した人に必ずアンケートを取るんですよね。「なぜ武雄に決めたんですか?」という質問に3つぐらい理由が書かれてあるんですけど「武雄には図書館があったから。」と全部に書いてあるんです。移住する前に見に来られた方が「この図書館は365日やってるんだ。いつでも遊びに行けるな。」「この図書館があるのは大きいと思った。」と書いてあるんですよね。そういう話を聞くと嬉しいですし、もっとがんばらんといかんなぁと思うんです。そういう意味では武雄市が図書館を全国にアピールして本当に当たったなと思うんですよ。ここまで効果があるとは思いませんでした。こども図書館をつくってからも移住者が増えてきましたしね。
岩清水 素晴らしいですね。私たちが鹿島に移住して感じていることに、おしゃれさとか便利さが少ないというのがあるんです。でも武雄図書館に関しては東京と同じ感覚のものがあって、例えばさっきお話しした、TSUTAYA東京六本木と、都立の中央図書館の良いところが両方合体している状態で、武雄図書館が存在しているんですよね、現実に。こういうのがもし鹿島にあったら、私たちみたいな移住したい人がもっと増えてくるんじゃないかと思いながらお話を伺っています。

溝上館長 いやぁ、嬉しい話ですね。おしゃれっていうと、時々私が館内をうろうろしていますとね、都会からいらしたマダムみたいな方から「久々に都会の香りがするわ。」みたいに言われる時があるんです。
朝倉 それ、本当に感じますよね!図書館自体も都会的な雰囲気を感じるんですけど、今ずっと館長さんのお話をお聞きしていて、東京の方のお話をお聞きしているみたいっていう感覚でした。
溝上館長 私たちもね、おしゃれ感を保っていきたいと思っているから、今のところまだ大丈夫かな。いろんな形で図書館を使いたいと言われるのも嬉しいんですよ。多良町にインターンで2ヶ月くらい来ている学生さんが、図書館の話を聞かせて欲しいと来られたんです。話を聞いてみると、自然農法で作ったジャムとかクッキーを図書館に置いて欲しいというのが最終目的だったんです。もちろんいいよ、うちにも駅にも試験的に置いてあげるよって言ってね。遠くから来てる子なんですよね。すごいなーって思ってね。うちだってそういうヒット商品があればいいことですから。その代わり何ヶ月間かちゃんと売り上げを見ながらね、でも門戸は広げてさっそく持ってきてもらったりとか。そういう意味では、いろんなところと連携して一緒に発展していこうよ、育てていこうよって言っています。
朝倉 そのあったかい考え方がいいですね。
岩清水 テレビ番組を見て武雄の市長さんが頼んだ時にCCCがいいですよって言ってくれた、そのままの姿勢で溝上館長さんもインターンの方に言ってらっしゃるところが本当に素晴らしいですね。
溝上館長 若い子が頑張っているのを見ると応援してあげたいなと思うんですよね。
岩清水・朝倉 そうですよね。本当にそう思います。
溝上館長 そんな図書館ですので何か企画があればご連絡いただきたいですし、いつでも遊びに来て下さい。
岩清水 ぜひ図書館でコラボさせていただきたいですね!とても楽しい時間をありがとうございました。

写真左から岩清水緑風、武雄市図書館溝上館長、朝倉香絵

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有明の月新聞2023年8月2日号

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