詩人 有明十八

新しい詩ってへんなことば。 詩はいつでも時間の外で起こるのに。

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森の記憶を思い出す

森には、音にならない音がある。 ひとり山を歩いていると、そんな音を聞くことがある。 その日は、よく晴れた初夏の日。 高原へ続く森の中を、早朝から登る。 毎日勢の何人かに追い越されたあとは 左手に遠く流れる河音を伴奏に、黙々と歩き続ける。 登りはじめの気怠さがようやく、登山服の内側を心地よく蒸らし始めた頃、耳に相棒となっていた川の音が遠ざかっていった。 登山靴が土をザッザと踏みしめる音だけを残し 私は、突然森の中にひとり置き去りにされた。 怖くはないけど少しだけ淋しい

    • 『Fire and Ice』 Robert Frost

      世界の2つの終わり 約100年前の田園詩人によって書かれたこの詩は、地球の終わりについての天文学的な見地から着想を得たと言われている。 太陽が爆発して地球を灰にするか 深宇宙でゆっくりと凍ってしまうか FireをDesireと、IceをHateの象徴として、「人間が世界を滅ぼすなら」という視点で鮮やかに対比させた。 この詩が発表された1920年とは、第一次世界大戦と第二次世界大戦の間の時代。人間の欲望と憎悪が、肌で感じられるほど近くにある時代だったに違いない。 平易

      • 『The Blind Girl』John Everett Millais

        宮沢賢治が詩を「心象スケッチ」と呼ぶなら、 ミレイの『盲目の少女』は絵具で書かれた詩だ。 支えあって生きる 田園風景のなかで、姉妹が小川のそばに腰かけている。一枚のコートを頭からかぶり、二人は雨をしのいでいた。 先ほどまで激しく降っていた雨はやみ、暗さの残る空に現れた二本の虹を、妹は振り返って見上げている。 すり切れた服やごつごつした手は、彼女たちが強いられている厳しい生活を物語る。 膝にのせられたアコーディオンを弾きながら、人々の恵みにすがり、一日一日をしのいでい

        • 自分を手放す

          あるひとつの心の状態 この腹立たしさは一体どこからくるのか? 思えば、今年のテーマは「自分を手放す」だったように思う。 自分のネガティブな感情に向き合わされ続ける、そんな一年だった。 怒りや悲しみから逃れる一番手っ取り早い方法は、それを引き起こす対象から距離を取ることだが、そうもいかなくて、「もうこれ以上は無理だ…」というところまで来てやっと「自分が変わる」ことを選択できた。 瞑想や心理学といった、心と向き合い「己を克服していく」を探求している方々の情報を学び続けた。「

        森の記憶を思い出す

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        • 素敵な旅のエッセイ集
          1本
        • 詩を書く者たち
          5本
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          1本

        記事

          「世界はうつくしいと」長田 弘

          うつくしい、なんて照れくさくて言えない。 きれいやかわいいは、よく使うけど。 でもうつくしいは、きれいとも、かわいいとも、違う気がする。表面的なこと、目に見えることじゃなくて、もっと内面的な、見た目には分かりにくくても、心がじんわり暖かくなるような、そんな素朴な気持ちを表わすことばのように思う。本質を見据えた大人な響き。 長田さんは、なんでもうつくしいと言う。目にうつる自然の景色だけじゃなく、風の匂いも、挨拶も。老いることがうつくしいと本気で言える人はどのくらいいるだろう

          「世界はうつくしいと」長田 弘