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令和6年一級建築士設計製図試験|初の『大学』という課題名

まだまだそうくるか!……ざっくり感をさらにグレードアップしたような「大学」という課題名が公表されました。
なぜ令和6年に、初の「大学」という用途が設計課題に採用されたのか?
国の政策的な観点から追ってみると、「第5次国立大学法人等施設整備5か年計画」(以下「5か年計画」という。)というものがあります。令和3年3月31日に文部科学大臣が決定したもので、計画の期間は令和3~7年度とされています。
こうした「5か年計画」や近年の動向から得られる大学施設のイメージ像も、課題づくりや課題を解答していく上で参考になるだろうと考えています。


1. キャンパス全体をイノベーション・コモンズに

令和3年3月26日に閣議決定された第6期科学技術・イノベーション基本計画において、共創の拠点を目指し、国が国立大学法人等の施設整備計画を策定し、継続的な支援を行うこととされため、有識者会議の報告を踏まえ「5か年計画」が文部科学省で策定されています。

「イノベ ーション・コモンズ」とは、ソフト・ハードの取組が一体となり、対面とオンラインとのコミュニケーションを融合させながら、あらゆる分野、あらゆる場面で、あらゆるプレーヤーが「共創」できるキャンパスであり、教育研究施設だけでなく、食堂や寮、屋外空間等も含めキャンパス全体が有機的に連携した「共創」の拠点である。

●産業界との共創
 ・共同利用できるオープンイノベーションラボの整備
 ・キャンパスを実証実験の場として活用
●教育研究の機能強化
 ・学修者中心に捉えた人材育成
 ・研究の活性化
 ・世界をリードする最先端研究の推進
 ・先端・地域医療を支える病院機能充実
 ・国際化のさらなる進展
●地方公共団体との共創
 ・災害時にも活用できるインフラの強靱化
 ・地方創生の連携拠点整備
 ・地域との施設の相互利用

5か年計画

2.大学設置基準

予測不可能な時代にあって、高等教育は、学修者が自らの可能性を最大限に発揮する…「何を学び、身に付けることができるのか」を中軸に据えた多様性と柔軟性を持った高等教育への転換を引き続き図っていく必要などの理由から、令和4年度に「大学設置基準」の大幅な改正がなされています。

(校地)
第34条
 校地は、学生間の交流及び学生と教員等との間の交流が十分に行えるなどの教育にふさわしい環境をもち、校舎の敷地には、学生が交流、休息その他に利用するのに適当な空地を有するものとする。
2 前項の規定にかかわらず、大学は、法令の規定による制限その他のやむを得ない事由により所要の土地の取得を行うことが困難であるため前項に規定する空地を校舎の敷地に有することができないと認められる場合において、学生が交流、休息その他に利用するため、適当な空地を有することにより得られる効用と同等以上の効用が得られる措置を当該大学が講じている場合に限り、空地を校舎の敷地に有しないことができる。
3 前項の措置は、次の各号に掲げる要件を満たす施設を校舎に備えることにより行うものとする。
一 できる限り開放的であつて、多くの学生が余裕をもつて交流、休息その他に利用できるものであること。
二 交流、休息その他に必要な設備が備えられていること。
(運動場等)
第35条
 大学は、学生に対する教育又は厚生補導を行う上で必要に応じ、運動場体育館その他のスポーツ施設講堂及び寄宿舎課外活動施設その他の厚生補導施設を設けるものとする。
(校舎)
第36条
 大学は、その組織及び規模に応じ、教育研究に支障のないよう、教室研究室図書館医務室事務室その他必要な施設を備えた校舎を有するものとする。
2 教室は、学科又は課程に応じ、講義演習実験実習又は実技を行うのに必要な種類と数を備えるものとする。
3 研究室は、基幹教員及び専ら当該大学の教育研究に従事する教員に対しては必ず備えるものとする。
(校地の面積)
第37条
 大学における校地の面積(附属病院以外の附属施設用地及び寄宿舎の面積を除く。)は、収容定員上の学生一人当たり10㎡として算定した面積に附属病院建築面積を加えた面積とする。

大学設置基準

3.想定される敷地は?

平成8年「景勝地に建つ研修所」においては、「この敷地のうち研修所の建設可能な建設用地は斜線で示した部分である」と設定し、敷地全体の一部の範囲を建設用地として計画することを求めています。
平成24年「地域図書館」においては、「公園の一角に建つ地域図書館を計画するものである」と設定し、公園内の一部を敷地として計画することを求めています。

キャンパス全体の中で、建設用地が設定されるのか、その一角などに敷地が設定されるのかについては、先日の課題名公表にあった言葉を借りれば「試験問題中に示す設計条件等において指定する。」ものとなります。
建蔽率、容積率の制限を効かせてくるとしたら、後者になってくることが考えられます。

また、広々とした郊外型キャンパスとして設定されるのか、アクセスのよい都市型キャンパスとして設定されるのかについても、「試験問題中に示す設計条件等において指定する。」ものとなります。おいおいこれもかよ、と思われるかもしれませんが、こういったところが、ざっくり感をさらにグレードアップと思う所以でもあります。
以下は朝日新聞の記事からの引用になりますが、近年の動向として押さえておく必要があると思います。

大学の「都心回帰」の傾向が続いています。2023年度も関東学院大学と中央大学などが「都市型キャンパス」をオープンします。新しいキャンパスは、学びの改革や地域との共生にもつながっています。キャンパスの姿は、親世代のイメージから変わっています。
(中略)
関東学院大学は、世の中の課題と向き合う「社会連携教育」に力を入れています。関内キャンパスの開設も、その教育方針とつながっています。同大学のアドミッションズセンターで入学・広報部門を担当する安田智宏さんはこう語ります。
「横浜の都心部に新たにキャンパスをつくったのは、社会の課題を肌で感じてもらいたいからです。関内キャンパスは、横浜の街をフィールドとして学ぶための拠点としてだけでなく、市民の方々にとっても利便性の高いロケーションです。例えば校舎には一般の方も利用できるカフェやホール、ビジネスパーソンなどが使えるワークスペースもあります。本学の研究リソースや教育リソースを社会とつなげ、地域のハブとなる『知の拠点』でありたいと考えています」
(中略)
中央大学は、茗荷谷キャンパスの開設により、法学部と法科大学院の融合をコンセプトに、同大学の伝統である法曹養成をさらに強化する環境を整備します。また、法学部移転により、後楽園キャンパスの理工学部や市ケ谷田町キャンパスの国際情報学部などとの連携も可能となり、文理融合の推進も促します。例えば法学部、理工学部、国際情報学部の都心3学部による学部横断型の共同科目「学問最前線」を新たに開講します。
茗荷谷キャンパスには、大学施設のほかにカフェや郵便局、保育所などが併設される予定で、地域との共生や、地域への貢献も目指します。
広々とした郊外型キャンパスももちろん魅力的ですが、アクセスのよい都市型キャンパスで、企業や社会、他学部とのつながりを感じながら送る大学生活もまた、多くの刺激を受けられそうです。

朝日新聞2023/04/20

4.ある大学のキャンパスに建つ校舎として

令和2年から5年までの本試験における敷地面積をみてみます。
令和2年1,836㎡、令和3年1,680㎡、令和4年1,536㎡、令和5年1,680㎡となっており、今年の設計課題でも同程度の敷地が設定され、ある大学の校舎1棟をここに計画することになるのだろうと考えます。

要求される1棟の校舎には、研究室・実験室・ゼミ室等からなる研究棟、教室・研究室等からなる講義棟などを考えることができそうです。
これらの棟に市民も利用できる機能が併設されることも考えられます。朝日新聞の記事にある事例を参考にすれば、カフェや小ホール、さらにワークスペース、郵便局、保育所なども想定できそうです。

要求図書のうち「各階平面図」については、近年の傾向から3面要求される可能性が高いと思われます。
・1階平面図・配置図、2階平面図、3階平面図
・1階平面図・配置図、2階平面図、基準階平面図
・1階平面図・配置図、基準階平面図、最上階平面図
などが考えられそうです。
令和元年までは、上のように要求される平面図が事前公表され、出題で想定されている階数を読み取ることができました。しかし、今はざっくり感のある事前公表となり、対策を取っておかなければならない幅を広げられています。

また、課題名に併せて公表されている「建築物の計画に当たっての留意事項」のうち、以下の2点は「5か年計画」に示されている「基本的な考え方」に通じるものだと言えます。
・バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティ等に配慮して計画する。
・大地震等の自然災害が発生した際に、建築物の機能が維持できる構造計画とする。

災害に対しても安全に教育研究活動を継続できるよう国土強靱化の観点を踏まえたキャンパス全体のレジリエンスの確保や、改修整備による建物の省エネルギー性能の向上などカーボンニュートラルに向けた取組、多様な人材がキャンパス内で活動しやすいよう、バリアフリーなども含めダイバーシティに配慮した施設整備を推進する。

5か年計画

*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。





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