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令和5年一級建築士設計製図試験|「図書館」本試験の講評と解答例の閲覧


1.計

「自習室」の「計100㎡以上」と「ワークルーム」の「100㎡以上」、違いは「計」にありますが、そもそも「計」が意図することは何なのでしょうか?……

令和元年「美術館の分館」では、「創作アトリエ」に専用の「準備室」及び「倉庫」を設けるとし「計150㎡以上」と要求しています。平成29年「小規模なリゾートホテル」でも、「大浴場」について、男性用、女性用として、それぞれ下足箱、脱衣室(洗面コーナー・便所)、浴室(内風呂、露天風呂及びサウナ)、男女共用の休憩コーナー(20㎡程度)を設けるとし「計約260㎡」と要求しています。

以上を要約すると下記のようになると言えます。
・創作アトリエ+準備室+倉庫=計150㎡以上
・男性用大浴場+女性用大浴場+休憩コーナー=計約260㎡

平成29年の標準解答例では、上の3室の構成は廊下等を介してそれぞれ出入りするようになっていますが、各室の機能を考えたら当たり前のことではあります。直接出入りできる関係、廊下等を介して出入りできる関係、どちらがいいのか又はどちらでもいいのか、各室の機能から判断すべきことだと思います。

さて、「自習室」と「ワークルーム」の話に戻ります。両室には、個人利用と集団利用という違いがあり、後者の場合は集団利用ができる100㎡以上の収容力のあるスペースが求められていると言えます。これに対して自習室は、廊下等を介して出入りする2室であったとしても、個人利用である以上、計100㎡以上確保できていれば機能的な要求は満たされるのではないかと考えます。あえて「計」としていることの意図は、ここにあるのだと考えることができそうです。

「一般開架スペース」も「計600㎡以上」と要求されていますが、特記事項の内容から、「計」が意図することを以下のように要約することができると考えます。
・書架及び閲覧席+サービスカウンター+その他必要な機能や什器=計600㎡以上

「その他必要な機能や什器」とは何か?平成24年「地域図書館」の与条件に照らしてみると、新聞・雑誌コーナー、AVコーナー、情報検索コーナーといった機能が考えられます。什器で言えば、雑誌棚、視聴覚ブース、パソコン(机・椅子)になり、以下のように要約できそうです。
・書架及び閲覧席+サービスカウンター+新聞・雑誌コーナー+AVコーナー+情報検索コーナー=計600㎡以上

廊下等を介する介しないに関わらず、これらが一体的な空間構成になっているかどうかが、「計」にある意図の一つの許容範囲になるのではないかと考えます。
仮に「一般開架スペース」を2層に分けて設けた場合はどうか?、サービスカウンターを各階2箇所に設けていいのか?など判断に迷う要素が出てくることになり、どこまで許容されるのか?……となります。ただし、こうした2層に分けた計画を頭ごなしにダメだとする根拠を、与条件からは見い出し難いと思いました。

2.回帰

平成21年に示された試験内容の見直しにおいて、平成20年「ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設」の問題を例に、見直しのイメージが以下のように示されていました。
①主要な室のみを与えるものとする。
フロント・事務室、リネン室、従業員控室、エントランスホール、荷解き室、従業員出入口といった室名等は与えず、受験者が適宜計画するものとする。
②室の床面積については、与条件として設定する部分を減らす。
設計する建築物の規模、用途、所要室の特記事項等から受験者が計画する。
③異なる機能を複合させた部分(フィットネスクラブ部門)を減らす。

事務室やエントランスホールといった室名を与えず部門構成もしない令和5年本試験の問題を上の3点に照らしてみると、①と③については、見直し時への回帰の色合いが濃くなっていると言えます。「企画展示スペース等を有する地域の公立図書館」であるとしていることも、平成9年の「緑豊かな吹抜け空間のある」、平成24年の「段床形式の小ホールのある」を踏襲する形で、「有する」という表現にしているように感じました。複合色を強く感じさせない表現であると思います。

これに対し、②については路線変更の流れに乗っているという感じです。令和元年以降、合格発表時に「受験者の答案の解答状況」が公表されてきていますが、「設計条件に関する基礎的な不適合」の一つに「要求している主要な室等の床面積の不適合」があげられています。平成21年当時の見直しのイメージでは「室の床面積については、与条件として設定する部分を減らす。」としていましたが、この路線のままだと「床面積の不適合」と判断する採点基準が見い出し難いと思われます。こういったこともあり、床面積の設定については、回帰することなく路線変更に傾いていると想像します。

3.大括り

同じく試験内容の見直しに、「室構成や床面積を大括りの設定とする」というものがありました。昨年の「事務所ビル」に見られた「シェアオフィス」はその端的な例であったと言えます。「シェアオフィス」という括りの中に室等を7つ(⑦は、その他必要な室等)求め、床面積は「500㎡以上」と大括りの設定にしています。

今回の「図書館」でも、「一般開架スペース」と「児童開架スペース」は、大括りの設定であったと思いますが、「その他必要な機能や什器」というように、特に「一般開架スペース」は、受験者自身でその大括りした中身を考えることも求められていたと考えます。「要求室等」全体にも「図書館」といった大括り感があり、「施設の運営管理に必要な室、その他必要な機能や什器、室等」といった具合に、受験者に具体的な中身を委ね、室構成を細かく指定してきていません。

また、問題文全体にも大括りというか出題表現の省力化が散見されると感じました。結果、問題用紙の紙面構成に余白が多くなっているのかもしれません。

4.立体構成

高天井が求められている「一般開架スペース」を何階に計画するかを、はじめに検討する必要があったと思います。道路・北側斜線が厳しく迫ってくる中、立体構成の検討は、重要なところになります。北側斜線がなければ公園側に寄せた配置とし、南側道路からの後退距離を確保した配置としたいところですが、今回はそうもいかない条件となっています。では、どうする?

解答例では、3階のボリュームを抑え、北側1スパン分をセットバックさせることを考えました。床面積から、「児童開架スペース」か、又は「ワークルーム」・「企画展示スペース」・「セミナールーム」を3階に配置することになりますが、「乳幼児の一時託児室」もあることから「児童開架スペース」は1階に計画することにしました。こうしたことからボリュームの大きい「一般開架スペース」は2階に配置し、高天井については吹抜けとすることにしています。加えて、吹抜けを介して3階の「企画展示スペース」と視覚的に結びつける構成として交流を促すことを意図しました。結果、階高、建築物の最高高さを抑えることに繋げています。

今回の与条件は、道路・北側斜線によって立体構成を厳しく制限した上で、「一般開架スペース」の一部を高天井として階高を高くすることも一つの選択として投げ掛けています。加えて、屋上等に設置する設備の図示を「計画の要点等」で求め、塔屋部分の位置の図示を「3階平面図」で求めることで、これらを屋上部分として建築物の高さに算入すべきものであるか否か(屋上部分の水平投影面積の合計が建築面積の1/8以内であるか否か)を受験者は明かさなければならなくしています。法令に基づく多角的な条件設定によって受験者を攻めていく出題の手法であると言えます。

昨年になりますが、こうしたねらいで、当塾模擬試験「事務所ビル」において「【イメージ図記入欄】に5階の屋上の略図(平面)を図示し、空調設備及び電気設備等を設置する設備スペースの面積とその範囲、太陽光発電設備の位置、その他の設備機器の位置及び塔屋の位置を図示し、それぞれ設備機器の設置について考慮したこと」の記述・図示を求め出題していました。(pre設計製図通信講座で令和5年までの模擬試験の問題を無料公開中)

5.最後の試練

平成30年以降、ランクⅣになるような条件設定をした出題に舵が切られていると言えます。6時間30分をかけた時間の中で生じてしまった、たった一つのミスにより不合格と判断されてしまうのがランクⅣです。これが試験だと言われたらそれまでですが、学科試験に例えると「110点取れても合格発表時に重要指定される数問のうち1問でも不正解があると不合格にされてしまう」ようなところが、近年の設計製図試験にはあるように感じます。公表されている採点結果の区分によれば、ランクⅣだけは、「建築物の設計に必要な基本的かつ総括的な知識及び技能」の有無を評価するものではく、Ⅰ~Ⅲとは違った観点で不合格と判断されてしまうもののようです。これが設計製図試験なのだと認識しておくしかありません。

毎年言えることですが、合格者でも難点はかかえているし、プランも一様ではありません。多くの人が同じように考えていることは、それが一般的なあり方で現実的な姿だと言えるかもしれませんが、大事なことは「なぜそうしているのか?」という理由が図面等から読み取れること、つまり考えを採点者に伝えられるかどうかだと思います。考えを伝えるためには、明確な考えをもって計画していくことが必要ですし、図面中に簡潔な文章や矢印等で補足し伝えることを可能にしています。

特定の要求室等の配置だけをみてプランは評価できるものではありませんし、他の要求室等との位置関係など……、様々な条件が絡んでいく中で全体の構成は決まっていくものです。それゆえに、各要求室については、全体つまり空間構成からみた評価と部分的にみた評価が必要であり、これらを混同してしまうと適切な評価はできないと言えます。人によって捉え方の分かれる漠然とした条件提示に対し、「ここだ」「これだ」といった決めつけから入るのではなく、可能性のあることを選択肢としてリストアップし、全体の構成を見据えながら取捨選択をしエスキースを進めていくことが大切だと考えます。両立が難しい「不可能」なことを、無理矢理可能としたように見せかけたところで、そこには「不自然」だけが残るものです。

後になれば色々な不安が出てくるでしょうが、結果は発表まで確定できるものではありませんので「待つ」ことが建築士の試験の最後の試練ではないでしょうか。

*解答例(図面・計画の要点等)については、以下をタップ又はクリックすると無料で閲覧できます。

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