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令和4年一級建築士設計製図試験|掴みどころがないようでありそうな『事務所ビル』

ポンっと単純に用途だけを示す課題名の公表の仕方は、今年が3年目になりますが、今しばらく続くものと予想します。
「今しばらく」というのは、設計課題になり得る用途が無限にあるわけではないので、今の用途だけを示す路線が続けられる限りはという意味で使っています。

平成21年『貸事務所ビル(1階に展示用の貸スペース、基準階に一般事務用の貸スペースを計画する。 )』は、公表時、階数こそ不明でしたが、要求図書から、2階以上を基準階とした想定課題による対策に絞ることができました。
これと比べてみても、今年の『事務所ビル』は……
まず、基準階があるタイプであるのかないのか?
また基準階があるとして、平面図の数を3面と仮定するなら、3階以上が基準階になると想定できます。しかしながら、複合されてくるかもしれない事務室以外の機能も一切明らかにされないまま、1階と2階の構成が仮定に基づくものとなり、断定的に対策を偏らせるわけにもいきません。こういった点は平成21年と比べて掴みどころのないところです。

平成元年から30年までの30年間において、事務所ビルが出題されたのは前述の平成21年と、平成10年『多目的ホールのある事務所ビル』の2回だけになります。
これより前を遡ると、昭和54年『地方都市に建つレストランつき中規模事務所』になりますので、昨年の『集合住宅』と比べてみても、出題頻度が高くはない用途だと言えます。

1.複合される機能

単に『事務所ビル』と公表されてはいますが、公表時に明示されていない何らかの機能が要求され、複数の部門から構成されてくる可能性が高いと考えます。昨年の『集合住宅』でも、「住宅部門」の他、「テナント部門」が要求されていますので、一つの傾向と見ることもできます。

平成10年『多目的ホールのある事務所ビル』は、コンピューター・ソフトウェア開発会社の本社事務所ビルとして、「事務所部門」・「展示部門」・「多目的ホール部門」・「店舗部門」から構成されています。
展示部門(ショールーム、セミナー室等)と店舗部門(レストラン、コーヒーショップ等)については、課題名からある程度の想定をすることはできても、想定に過ぎず、本試験問題中に示される設計条件において、はじめて明らかになってくる部門です。

平成21年『貸事務所ビル(1階に展示用の貸スペース、基準階に一般事務用の貸スペースを計画する。 )』においても、「喫茶室」が要求されていますので、近年、頻繁に要求されてくる「カフェ」等の店舗が複合される機能に含まれてくるのではないでしょうか。
また、平成10年と21年で共通している「ショールーム」にも、着目しておく必要があると思います。

2.「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画の意味

公表された(注1)で記されている建築基準法令等に適合した建築物の計画に対し、(注2)では「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画と記されています。両者の表現の違いに注目して少し考えてみます。

建築基準法令については、どのような事務所ビルであれ、適合義務があります。
これに対してバリアフリー法において、「事務所」は「特定建築物」ではありますが、「特別特定建築物」には該当しないことになります。
事務所の類いのうち「不特定かつ多数の者が利用する官公署」は、「特別特定建築物」に該当しますが、ここまで今回の『事務所ビル』に含めて考えるのは、どうだろう?と思います。なぜなら、平成2年に『地方公共団体の庁舎』として出題されている例もあるからです。

「建築物移動等円滑化基準」適合義務の対象になるのは、一定の規模以上の「特別特定建築物」に限られますので、「特定建築物」である事務所ビルには、そもそも適合義務がありません。
しかしながら、「特定建築物」にも努力義務は求められています。

「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画とあるのは、バリアフリー法で求める努力義務を前提に、今回の設計条件として「建築物移動等円滑化基準」を満足させることを求めているということになるのだろうと考えます。

仮に満足できていなかった場合、適合義務がないので「法令への不適合」には当たらないと思われますが、「設計条件に関する不適合」であることは間違いのないところだと思います。したがって、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断される可能性がありますので注意が必要です。

たとえば、階段の幅、蹴上げの寸法、踏面の寸法を規定している「建築物移動等円滑化誘導基準」に対し、ここまで細かく規定していないのが「建築物移動等円滑化基準」になります。試験対策において、両者を混同して計画のハードルを上げてしまうのは得策とは言えませんので、基準については、よく理解しておく必要のあるところだと思います。

3.追加された「二酸化炭素排出量削減」

2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、住宅・建築物の省エネ対策を強力に進めるための「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」が令和4年6月17日に公布されています。こういった流れを受けて、「建築物の計画に当たっての留意事項」に「二酸化炭素排出量削減」が追加されているのではないかと思います。

カーボンニュートラルの実現に向けて「省エネ対策の加速」や「木材利用の促進」が掲げられていますが、だからといって構造種別が「木造」と指定されることはないのではないでしょうか。
カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする)とは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量から、植林、森林管理などによる吸収量を差し引いて、合計を実質的にゼロにすることを意味しています。

2021年10月22日閣議決定された「エネルギー基本計画」において、2050年に住宅・建築物のストック平均でZEH・ZEB基準の水準の省エネルギー性能が確保されていることを目指すとされています。

ZEB(Net Zero Energy Building)とは、快適な室内環境を実現しながら、建築物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建築物のことです。
省エネにより使うエネルギーを減らし、創エネにより使う分のエネルギーをつくることで、エネルギー消費量を正味ゼロにすることができるという考え方になります。
パッシブ技術(日射遮蔽、外皮性能向上、昼光利用、自然換気等)アクティブ技術(高効率照明、高効率空調等)によって省エネを図りつつ、創エネ技術(太陽光発電等)によって再生可能エネルギーを活用していくものとなります。こういったところも、よく整理しておく必要があると思います。


*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。


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