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美白クリームに入ってる「システアミン」って実際どうなの

こんにちは。
ARchemisTのふるかわ(大学教員との二足のわらじ)です。

いよいよ梅雨も明けて、本格的な夏。紫外線と戦う時期がやってきましたね。お肌にしみ・そばかすができないように「予防」することもさることながら、できちゃったシミもできることなら駆逐しつくしてやりたい!そんなときにすぐ手に取れるのが、市販の“美白クリーム”です。「有効成分はどれがいいの?」とか「安全性は大丈夫?」といった悩みも付き物。今回は、物質をよく知る化学者の視点で美白クリームについてお話ししたいと思います(動画でご覧になりたい方はこちら)。

「美白」という表記について

そもそも、薬用化粧品(医薬部外品)において「美白効果」や「ホワイトニング効果」といった効能は薬事法によって承認を受けたものではありません。あたかも既にあるシミをなくすような表現がある場合は、法律的に完全にアウトということです。「美白」と書く場合は「メラニンの生成を抑え、日焼けによるしみ・そばかすを防ぐ」という文言を注釈つきで併記することが義務付けられています。つまり、世に出回っている美白クリームの(認められた)効能は、あくまで「予防」ということになります。

有効成分:「ハイドロキノン」と「システアミン」

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美白*1クリームの有効成分として王道とも言える物質は「ハイドロキノン」と言えるでしょう。ハイドロキノンの肌の脱色効果が注目され始めた当初は、白斑(肌に白い脱色痕ができる)などの副作用が懸念されていました。数%の低い配合比であればリスクを軽減できることがわかってきて、2001年に薬事法の緩和により化粧品にもハイドロキノンの利用が認められるようになったようです。

一方、システアミンは、最近にわかに注目を集める美白*1クリームの有効成分として使われています。「シス〇〇」という海外製品のアレです。システアミンはこれまでパーマ剤として利用されてきた経緯があります。パーマかけるとき2回くらい液体かけると思いますが、その1番目の液体がそれです。おいにーがけっこうクッサクサで、硫黄特有のものですね。システアミンの国内での規制はどうなっているかというと、使用は許可されているものの「化粧品パーマ液」としての目的で規制されていて、地肌に直接塗るクリームとしての規制という意味ではまだ対応できていないようです。なので気をつけたいポイントは、リスクたっぷりなコワコワな商品が売られていることもあるってことだと思います。
(*1 メラニンの生成を抑え、日焼けによるしみ・そばかすを防ぐ)

ハイドロキノンもシステアミンも、物質の観点から言うと「還元剤」というカテゴリーに分類できます。還元剤は活性酸素などの酸化剤と反応して、からだを酸化ストレスから守るという効果が期待できます。この反応性が、お肌に新しいしみ・そばかすができるのを予防する効果に繋がります。一方で、既にあるしみを消す効果があるかというと、「あるにはあるかもだけど...」と言わざるを得ないのが本音です。仮に高濃度の有効成分(とされるもの)をお肌に塗り込めば、ある程度しみ・そばかすを脱色できるかもしれませんが、それと同時にお肌が甚大なダメージを受けると思います。ぱおん。

メラニンをやっつける!?

fig2_メラニン

しみ・そばかすの原因である「メラニン」は、強固な炭素結合を主とした高分子の混合物です。ちょっと化学の難しい言い方をしてしまいましたが、要は茶色のプラスチックみたいなものがお肌に埋め込まれたような状態ということです。「メラニン」という名前は、いくつかの種類に分類される高分子の総称で、実際は5種類くらいに分類されます。そして!ぶっちゃけその化学構造は完全にはわかっていません... 現在(2021年)でも、その構造や機能を見直して考えようという学術研究があるくらいです。

こんな現状でまだまだ分かっていないこともありますが、物質の観点から肌の脱色について、次の3つのことが言えると思います:
(1) ハイドロキノンやシステアミンでメラニンを完全に脱色するのは難しい
(2) 脱色できても再酸化を受ければ再び着色する可能性がある
(3) これらの成分の肌の脱色作用は、表皮の分解・再生によるもの?

ハイドロキノンにしてもシステアミンにしても、お肌にダメージを与えるには十分な還元力があります。実際、システアミンは髪の毛のタンパク質の結合(シスチン)を切断するのに使っていることからも、その効果をイメージしやすいと思います。ですが、複雑な構造をもったメラニンを一網打尽に脱色するには還元力が足りません。ましてや、5%未満の濃度の薄いクリームではメラニン自体を完全に脱色するのは困難です。メラニンの強固な炭素結合をずたずたに切断するくらい分解できれば、お肌の外に追いやることができるかもしれませんが、それより先にお肌が崩壊することでしょう。仮に一時的にメラニンを還元型にすることで色が薄くなったとしても、炭素の高分子構造を維持したままだと、再酸化を受けることでまた呈色する可能性が高いです。このような化学の常識を考えると、これらの還元剤による肌の脱色効果は、ダメージを受けた表皮の再生作用によるものと考えるのが妥当かもしれません。

システアミンの効果とリスク

最近巷でバズっているシステアミン配合美白*1クリームですが、実際効果はいかほどなのでしょう。某商品では「ハイドロキノンの4倍」や「デリケートゾーンの黒ずみや…」といったウリ文句もみられますね。長年使われているハイドロキノンと比べて、白斑・肌荒れなどのリスクも気になるところです。

結論から言うと、システアミンは「効果はあるかもだけど、リスク検討が不十分」と言えます。実際に学術論文のデータベースで「システアミン、肝斑」のキーワードで検索すると、わずか十数件がヒットします。もっともそれらしい最初の報告は2015年のスイスのベンチャー企業の論文です。この論文中では、50人の患者のうち25名にシステアミン5%クリームを塗布し、残りの25名にはプラセボ群としてシステアミン無配合のクリームを塗布してもらう検証をしています。MASIスコアという定量的指標でシステアミンクリームの有効性を確認していて、肝斑治療の有意な効果を得たという結論です。その後、2021年現在までに関連論文がちらほら出てはいますが、大規模なリスク検証などの公開情報がいまのところ見当たらないあたり、かなりのリスクを感じざるを得ません。論文での検証結果は、基本的には国外の事例なので、日本人のお肌にそのまま適応できるかどうかもまだ検討の余地が残っています。

ということで、(お値段は高いけど)通販で気軽に買えてしまうシステアミンクリームですが、副作用が心配という方にはオススメできません。「しみからチューリップが生えてでもお肌を白くしたい!*2」というチャレンジ精神あふれる人であれば試してみても良いかもですが、そのまま生えっぱなしということもゼロではないということです。短期間で確実にしみをなくしたいという人は、レーザーなどの別の対処法を検討してみるのも良いかもしれませんね。何のステマでもないのですが、わたし個人はレーザーばんばん当ててます。短期決戦で効果が明瞭なので好きです。しみ・そばかすの種類や個人差もあると思うので「誰にでもオススメ」というわけではないですが、適切な対処法を選ぶ1つの参考にしていただけたら嬉しいです。

(*2 実際にチューリップが生えるという副作用は確認されていません。分かりにくい例えしか出てこなくてごめんなさい。)

おまけ(塗って放置は禁物)

fig3_ハイドロキノン_システアミン_2

美白クリーム*1を使用する際の注意点として、よく見るものに「塗って○分後、洗い流してください」といった記述があるかと思います。これはハイドロキノンなどの有効成分が肌にダメージを与える可能性があるためです。塗りっぱなしだとお肌がラピ○タのごとくバルスする可能性があります。もう一つ重要な点として「使用中は紫外線を浴びないように」という注意点があります。ハイドロキノンはもともと無色の固体ですが、光(特に紫外線)を吸収すると分解して褐色の高分子ができることがあります(上図)。これは分子の構造中にベンゼンという亀の甲羅みたいな骨格があるためです。紫外線のエネルギーを分子が吸収して、酸素などとの反応が速くなります。この褐色成分が肌内部に残ってしまったら、本末転倒です。市販のクリームは配合濃度が低いのでそこまで恐れる必要はないかもしれませんが、注意が必要ですね。今回、システアミン(塩酸塩)にも紫外線を当ててみましたが、目立った着色はありませんでした。とはいえ、どんなリスクが潜んでいるか分からないことに違いはありません。ついでに、、、フラーレンも有名ですが、これに光が当たっちゃうとむしろ活性酸素の類が発生するので、これはこれで注意が必要ですね。

ちょっと長くなってしまいましたが、化学者から聞いてみたいこと「もっとこういうの教えて!」などあったらコメント欄で教えていただけると嬉しいです。理系ゴリゴリの観点からしかお話できませんが、忖度なしにお伝えできると思います。




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