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ソーシャル・イントラプレナーとして、Arch to Hoopの立ち上げに奮闘したお話

はじめまして、Arch to Hoop沖縄・事務局の勝田です。現在は、(株)モルテンの社員でもあります。Arch to Hoopは、モルテンとNPO法人ちゅらゆいで立ち上げた共創事業です。今回は、企業の中で一社員として働いている私が、Arch to Hoopという社会課題解決のための新規事業を沖縄で始めたきっかけや道のりについて書いてみました。

<プロフィール>
勝田 駿平
(一社) Arch to Hoop沖縄  事務局
(株) モルテン  スポーツ事業本部  B+推進部
1994年、広島県出身。2018年に(株)モルテンのスポーツ用品 技術開発部に入社、 2020年にバスケットボールの普及と強化を目指す新規事業 B+ (ビー・プラス)推進部に異動。モルテンで新規事業の推進を担いつつ、Arch to Hoop の立ち上げメンバーとして活動し、事業リーダー兼事務局を務める。


事業構想のきっかけ

世界的なコロナ禍により、2020年に予定されていた東京五輪が延期となり、その後の緊急事態宣言の発出期間中は、予定されていたほとんどのスポーツイベントが中止、学校での部活動や大会も休止となりました。
そういった中で「スポーツがなくても生活に影響がない」「スポーツこそが不要不急だ」と言う人もいて、スポーツが世の中にもたらす価値を改めて考えるようになりました。
そこで、モルテンは「スポーツのもつ社会的価値の再定義」というテーマを掲げて、東京五輪の次に日本で行われる国際大会でリベンジしようと、2023年夏に沖縄で開催された「FIBAバスケットボールワールドカップ2023」を機に、開催地である沖縄にレガシーを残すことを決意しました。
(※レガシー:長期にわたるポジティブな影響)

この決意に対するアウトプットとして「Arch to Hoop」という共創事業を発足し、”モルテンの事業”ではなく、沖縄を拠点とする一般社団法人Arch to Hoop沖縄を事業の母体として、地域に根付いていく仕組みづくりに挑戦しています。

仕事の中で何に喜びを感じるか

もともとは技術職としてボールなどの設計開発に取り組んでおり、モノをつくることが中心でした。そこから、B+(ビー・プラス)というバスケ界の課題解決を目指す新規事業に異動したことで、お客様が自分たちの商品を使うことで得られる価値を新たに考える習慣が身についていき、”コトづくり”の楽しさを実感するようになりました。加えて、新しいことを始めるうえでは自社のリソースで完結できるケースは少なく、外部とのパートナーシップで仕事を進める機会も増えました。その過程で出会う人たちは、仕事ができるということだけでなく人間性も尊敬できる人が多いです。自分とは考え方の違う人たちと一緒に仕事ができて、それを通じて自分自身の成長の機会が得られることもまた、モチベーションの源泉です。
そして何より、大好きなバスケットボールを通して、未来の担い手である子どもたちに新しい体験と多様な選択肢を届けられることに喜びを感じています。

Arch to Hoopが創られるまで

・リディラバさんによる伴走

遡ること2021年、モルテン社内では私が所属する部署(B+推進部)だけでなく、社長や国内/海外のマーケティング部門を交えて、仮説の立案や活動スキームを描いてみたものの、なかなか前進しませんでした。
停滞した理由は、これまで社会課題の解決を目的とした事業づくりの経験がなかったため、一通り机上リサーチはしたものの、事業化の手法がわからない。課題のリアリティをつかめないまま手段が先行してしまい、本質的に「誰のどんな課題を解決したいのか?」が曖昧だったことです。
このままでは2年後のバスケW杯に間に合わないということで、2022年から社会課題の調査や事業開発支援をされている(株)リディラバさんに伴走いただくことになりました。

リディラバさんにリードしてもらいながら、まずは自分たちが取り組む課題の領域を設定することから再スタート。

【課題領域の設定が必要な理由】
・SDGsのような世界規模の課題を眺めていても「どうしていったらいいのか」が思いつきづらい
・課題領域の設定が適切でないと「何を解決したいのか」が見えてこない

早速プロジェクトメンバーでホワイトボードに課題を書き出しながら、大・中・小のテーマに分けて整理していきました。そこから仮説を立てて、有識者や沖縄で子どもの居場所を運営するNPO団体の方々へのヒアリングなどを行い、沖縄の子どもたちが直面する課題の解像度を高めていきました。

リディラバさんとの領域設定ワーク(2022/7/7)

・NPO法人ちゅらゆいさんと出会う

この一連のプロセスの中で、沖縄の複数の支援団体さんが、子どもたちが安心できる居場所を作られている。困難に直面し、課題感を抱えた子どもたちが、様々な体験を通して自己肯定感を持ち、前向きに挑戦を始めていくプロセスがあることもわかってきました。

ではバスケットボール(スポーツ)が果たせる役割は何か?

何度も対話を重ねながら、スポーツが果たせる役割が大きい「体験」のフェーズに焦点を当てて、企画を考えていきました。バスケをする人・見る人・支える人の立場で、子どもたちが役割を担えることによって、多様な子どもたちが自分の興味や得意なことを見つけられる機会にしていき、次の一歩を踏み出せる勇気が持てる事業にしていきたい。そういった想いを必死に企画書へ落とし込んで、ヒアリング先の1つであったNPO法人ちゅらゆいさんに対してプレゼンを行った結果、事業づくりのパートナーとして参画いただくことになりました。この時のプレゼン資料が今のArch to Hoopの原型となります。
これまで停滞していた状況から、沖縄現地のパートナーが見つかり、「体験格差」の解消を目指すための企画の骨子が固まるという大きな転換点でもありました。

Arch to Hoopを世に出すまで

2023年に突入してから7月のプレスリリースに至るまでの数ヶ月間は、事業名やロゴ制作などのブランディング、定款の策定や登記申請といった法人設立の手続き、Web制作やプレイベント企画など、怒涛のタスクを少数のチームでこなしていきました。各々所属している組織や部署での仕事をしながらも、一緒に創り上げてきたArch to Hoopのメンバーの皆さんには本当に感謝しかありません。

「Arch to Hoop」という名前は、バスケットボールのシュートシーンと紐づけています。子どもたちの好きなことや目標をバスケットのリングを意味する「Hoop:フープ」として表現し、ボールがフープへ向かって放たれる放物線「Arch:アーチ」と掛け合わせて、目標に向かって進んでいく過程でスポーツの価値を届けていきたいという想いを込めました。ロゴのデザインはバスケットのフープをモチーフにしています。

Arch to Hoopの現場検証を行うにあたり、この記事を書いているちょうど1年前の2023年4月29日~5月1日の3日間にかけて、ちゅらゆいさんと一緒にプレイベントを開催しました。1日目は、小学生を対象とした居場所施設に足を運んで、一緒に遊びBBQをして親睦を深めるオリエンテーションを行い、2日目にバスケイベントづくり、最終日は振り返り会を行うといったパッケージで活動のフレームワークができあがりました。
その中でも2日目のバスケイベントでは、開会の挨拶から、全体の進行、閉会の挨拶を務め、1日を通して子どもと大人の皆が充実感に満ちた表情を見たときは思わず涙が出てしまったのと同時に、「事業の方向性は間違っていない」と確信した瞬間でもありました。

初めてのバスケイベント:締めの挨拶 (2023/4/30)

プレイベントの様子を、FLY Magazineさんに載せていただきましたのでぜひ覗いてみてください。

ソーシャル・イントラプレナーとしての働き方

ここで、少し話は変わりますが「ソーシャル・イントラプレナー」という言葉を聞いたことはありますでしょうか?
ソーシャル・イントラプレナーとは「社会課題を解決する社内起業家」と定義された造語で、企業がもつリソースや社会的影響力を活用し、社会変化を生み出す働き方のことです。
私の場合、「ソーシャル・イントラプレナーになるぞ!」と思っていたわけではなく、「新規事業を立ち上げる!」という命題があったわけでもありません。ただ、スポーツの新しい価値を創出するためにバスケで沖縄の課題解決に挑戦したいという想いで突き進み、振り返ってみると、いつの間にかソーシャル・イントラプレナーになっていたように思います。
Arch to Hoopは、私がゼロから起案したのではなく、チームで課題を探しながら共通の目的を置いて事業を育てていきました。その過程で、リーダーとして不透明な状況下でも決断を下し、事業を前に進めないといけない。という使命感が芽生えていきました。
無論、社団法人を新たに立ち上げて非営利な立場で事業を運営するのは初めての経験で、社会福祉の分野に足を踏み入れるのは不安も大きく、正直怖かったです。
予想もつかない色々なことが起こりますが、そのたびに、社長や上司からの「正解はないからまずはやってみよう」「失敗しても俺たちが責任をとるから」という言葉に救われました。同年代のメンバーも主体的にアイデアを持ち寄ったり、会議の場でも積極的に意見を出したりと、打開策のヒントをたくさんもらいながら楽しく乗り越えていけるチーム力のおかげでここまで来ることができました。

また、社内起業だからこそ事業として着実に前進できていると実感しています。
具体的には、私は会社員なので毎月給料が入ることは正直ありがたく、そのおかげでじっくりと本質について考えることができました。加えて、モルテンというブランドとネットワークをフル活用できることも事業組成には大きく貢献しています。
一方で、一般的に社内で新規事業を発意する時などは、大袈裟に言うと「身を投げ出して戦に出るくらいの勢いや覚悟」を問われて、被告人席のようなところに立たされて、詰められる。みたいなイメージがあることは否めません(笑)。
私としてはあまり覚悟を強要せずに、普通にチャレンジして、どんどん失敗して、そこから学んでいこうよ、というような前向きで楽しく新しいことに取り組める組織文化になっていくと良いなと思っています。特に新規事業においては、最初に描いた通りにいくことなんて絶対にないので「いろいろと起きる出来事を楽しみましょう」というマインドセットは必須です。

このように、社会課題へのアプローチはもちろん、自分が所属する組織に対してもプラスとなる価値観や効果を常に考え続ける必要があり、Arch to Hoopのリーダーを任せてもらえたことに対する恩返しをしていきたいと考えています。
モルテンへ還元する無形の価値については絶賛模索中ですが、社会課題解決型の事業づくり経験を私の暗黙知にしないで組織の集合知として体系化することと、特に若手社員が新しいことを楽しめる文化を創っていくことをテーマとして持っています。

最後に

Arch to Hoopの”本質的な価値”を考えてみると、大人と子どもの全員にとって「成長の場」となることが何よりの価値だと思っています。
私自身、これまで社内で携わってきた設計開発や商品企画、マーケティングなどのスキルを棚卸ししながらさらに高められると同時に、未経験だった広報や会計、組織マネジメントのことを学び、そして何よりも大小問わずあらゆる場面で必要となる意思決定力と、外部パートナーと一緒に仕事をすることの難しさを感じながら事業を推し進めてきました。
特にArch to Hoopのように、色々な立場の人が一緒に課題解決していく過程では、それぞれ話している言語が違うぐらいコミュニケーションが難しかったり、細かな認識のズレが起きることもあります。そういった中でも、例えばパーパスモデルなどのツールを活用しながら「誰がどんな役割で何のためにArch to Hoopに参画しているのか」を可視化しながら目線合わせしていきました。

こんな具合に本気で事業化を目指すことで、自然と「ビジネスの総合力」のようなものが身に付くと思っています。正直なところ「これって自分がやらなくてもいいのでは?」と思うタスクもたくさんあって、心が折れそうな時もありましたが、将来的に異動などで他の仕事に就いた場合にも、定年退職した後にも、Arch to Hoopで得たスキルと人脈は大きな武器になるのではないかなと感じています。

最後に、
これまで解決できてこなかった社会課題に取り組めることが新規事業の醍醐味です。その中で新しい価値、新しい仕組みを社内外の仲間の皆さんと共に生み出していけることは素晴らしいことであり、前任者がいない道を歩き、協力し合いながら困難を一つひとつ乗り越える楽しさは何にも代えられません。

昨年の夏、FIBAバスケットボールワールドカップ2023の沖縄ラウンドは、日本代表が歴史的快挙を成し遂げて、自力でパリ五輪への出場を決めるといった今後も語り継がれていく誇らしい大会となりました。

大会と同じ期間中にうるま市でイベントを行い、子どもたちと一緒にバスケットボールを通して多様な体験を共有しながら、楽しみました。

Arch to Hoopという、かつての「楽しい思い出」が、しんどい日常に戻らなくてはいけない時や、つらいことに直面した時にも「もう少しがんばってみよう」と生きるうえでの”心の支え”となっていくことを目指しています。
子どもだけではなく、大人にとってもそうであるように、これからも自分自身の中で語り継がれるような非日常的な体験を思いっきり楽しんでいきたいです。

ちゅらゆいの皆さんとバスケW杯を観戦
2023年8月 イベント後の打ち上げ

これからもやりたいことが山ほどありますので、この記事を読んでいただいている皆さんとも、ぜひ何かご一緒できると嬉しいです!

これからも、Arch to Hoop沖縄|公式noteをよろしくお願いします。

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