読書感想文(203)俵万智『短歌のレシピ』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は俵万智さんの新書です。
俵万智さんの本は他にもいくつか読んだことがありますが、『短歌をよむ』(岩波新書)が印象に残っています。
この本を読んで一番強く思ったのは、俵万智さんはとても短歌が「上手い」ということです。
短歌って短いし、簡単なように見えますが、作者の繊細な感性によって言葉が丁寧に選ばれ、配置されていることがよくわかりました。
私は短歌にそれほど詳しくないのですが、いくつか歌集や短歌に関する本を読んだことがあります。
その中で最も影響を受けているのが、俵万智さんだと思います。

感想

今回は第16章に分かれており、それぞれで短歌を作る時のワンポイントが書かれています。
ポイントが絞られており、具体例も豊富なので、とてもわかりやすいです。
そして、これを「レシピ」と表現しているのが素敵だなと思います。

全部について書くことはできないので、いくつか特に気になったものを書いておきます。

一つ目は、「抽象的概念を持ち込む時は具体的なものを比喩にする」(P17)ということです。
言葉というのはそれぞれ概念を持っており、人の心を完璧に表すのはなかなか難しいものです。それを具体的な比喩を使って表現する、という考え方だと思います。
例えば俵万智さんの有名な歌で言えば、「優等生と呼ばれて長き年月をかっとばしたき一球がくる」などがそれに当たるのかなぁと思いました。

二つ目は、「二つの短歌の上の句と下の句を入れ替えてみる」というものです。
これは要するに、予期せぬ組み合わせが意外な発見に繋がるということだと思います。そういえば、去年の夏に読んだ秋葉四郎『短歌入門;実作ポイント助言』では、使い古された言葉(確か「手垢のついた言葉」と表現していた気がします)はそれだけで色褪せるといったような話があったような気がします。例えば、愛のモチーフとして薔薇を使うのは元々新鮮かつ斬新でしたが、今は薔薇=愛のイメージが強すぎて、薔薇に愛を仮託しても面白くないのです。
これは発送的には、星新一のショートショートとも繋がるところかと思います。

三つ目は長いので、直接引用します。

ビュッフェスタイルのパーティやサラダバーなどで、皿にてんこ盛りしている人を見かけることがあるが、あまりかっこのいいものではない。 やはり皿の大きさにあった適当な分量というものがあるし、欲張ってローストビーフの隣にスモークサーモンをのせたりしたら、ビーフのソースがサーモンにかかって、妙な味になったりもする。
短歌という皿にも、適度な盛り方がある。小説や自由詩よりは、ずっと小さい皿だから、詰めこみすぎには気をつけたい。盛りたいものが、たくさんある時は、次の皿を用意しよう。つまり、たくさん歌いたいことがあるのなら、たくさんの歌を詠めばいいのだ。
一首の眼目となる部分が決まったら、それ以外の部分には、もう詰めこまない方がいい。眼目となるところを目立たせるためには、むしろ他はあっさりといきたい。

P74

散文も比喩が的確でわかりやすいですね。
私は一首に情報を詰め込もうとしがちなので、気をつけようと思いました。
この短歌では何を伝えたいのか、を考えることが大切なのかなと思います。

四つ目は、気になった短歌です。

チョコなどで与え尽くせる想いなの聖なる夜の恋人たちよ

P120

この投稿された歌に対して、俵万智さんは「言いたいことは、とてもよくわかる。恋なんて、そんな生やさしいものじゃないでしょ、という気持ちだ」と書いている。
しかし、ここで私は本題と逸れたところで「ちょっと待った!」と思いました。
「チョコなどで」??
チョコをなんだと思ってるんだ!
と思ったわけです(笑)

実際、私は好きな人と一緒に食べたいチョコレートがあるのです。
数年前に一度試食して、これはいつか好きな人と一緒に食べようと思い、その時は買うのを我慢しました。
自分が特殊な例なのはわかっているのですが、チョコだって愛を乗せられるのだという反例を作りたいと思いました(笑)

最後に、久しぶりに短歌を読んで思ったことを書いて終わります。
短歌は三十一文字しかないので、とても言葉に敏感になります。ほんの一文字、二文字の違いが鑑賞に大きく影響します。
また、独創性と共感の両立、そのために様々なものを抽象化して結びつけ、また具体に落とし込む力も必要です。
そういった繊細さや発想力を鍛えられるのも、短歌の「実用的な」魅力なのかなと思います。
あとはやはり詩なので、読んでいると世界の見方が変わるように思います。
詩を心に持つことは人生を豊かにするのだろうと私は思います。

おわりに

この感想文を書きながら気づいたのですが、そういえば俵万智さんの歌集は『サラダ記念日』しか読んだことがありませんでした。新書の方が多く読んでいます。
なんだかちょっと情けないというか、申し訳ないというか、後ろめたい気持ちになったので、近いうちに読んでみようと思います。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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