読書感想文(132)有川浩『阪急電車』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回読んだ『阪急電車』は久しぶりの再読でした。最後に読んだ記憶があるのが中学一年生の頃の初読のみで、ちょうど映画化された頃だったと思います。
それにも関わらず、読む前から結構内容を覚えていて、この本から沢山の事を学んでいるなぁと思っていました。詳しくは後で書くつもりですが、読み返すと思っていた以上に影響を受けていたので驚きました。

読み直そうと思ったきっかけは、もうすぐ引っ越すことです。私はこの作品の舞台となる阪急沿線にそれなりに行きやすい所にずっと住んでいます。なので、中学生の頃は読み終えた時にすぐ行きましたし、今も行こうと思えばいつでも行けます。
また、路線は違えど中学の電車通学の頃から10年以上、阪急ユーザーでした。引越し後はほとんどJRを使うことになると思うので、懐古や感謝など諸々の想いがあって読み返すことにしました。

思い出話も色々と書いておきたいのですが、長くなりそうなのでひとまず感想に移ります。

感想

まず読み始めて数ページ、懐かし過ぎてテンションが爆発しました笑。
最初だけでなく、最後までずっと「あ、これこういう展開になるやつや!」と思いながら、懐かしさとドキドキが入り混じったような気持ちで読み進めました。

この作品の素敵な所は、なんでもなさそうな日常の中に人生の機微が散らばっていること、何も関わりがない電車の乗客達一人一人にそれぞれの物語があることを感じられる所だと思います。
この作品では様々な登場人物が出てきますが、描写されていない乗客達にも様々な出来事の目撃者として、或いは全く別の物語の主人公として存在しています。今ならSNS等でその時の出来事を発信したりするかもしれません笑。

作者のあとがきにも書かれていたのですが、この作品は読後もフィールドワーク的に楽しむことができます。
私も中学生の頃に今津線に乗ってみたのですが、「生」の字があった時の驚きと感動は今でも印象に残っています。流石にその頃は「生ビール」を飲みたい気分にはなりませんでしたが笑。
他に印象に残っているのは小林駅です。
「良い町」ということで翔子さんが降りたので、私も実際に降りて散歩してみました。登場したスーパーなどを発見できたかどうかは流石に覚えていないのですが、大学入学前の春休みに短期派遣バイトで久しぶりに小林駅を訪れ、とても懐かしかったのを覚えています。

あまり読み返していないにも関わらず内容を結構覚えているのは、こうしたフィールドワークや映画のおかげかもしれません。
懐かしく、また自分の中に生きていると思った所は沢山あったのですが、中でも一番ここだなと思ったのは次の場面です。

「価値観の違う奴とは、辛いと思えるうちに離れといたほうがええねん。無理に合わせて一緒におったら、自分もそっち側の価値観になれてまうから」

P168

集団で異様な価値観に慣れてしまうということは、年齢問わず至るところにあります。大学生の頃も何度かこの教訓に基づいて人と距離を取ったりしていたのですが、多分自分の中で一番大きいのは母親です。身近な存在である分、嫌な部分もたくさん見えます。そんな風になりたくないと思ってひたすら距離を取ろうとしたのはこの本のおかげだと思います。今の所、そのおかげで比較的良い価値観を持つことができたとは思うのですが、周りから見てどうなのかは正直わかりません。
さらに続きのところも自分の中に生きているものでした。

「あなたはどうして私にそんな話をしてくれるの?」
女子大生は虚を衝かれたような顔をして、それから――
「あたしも色々間違ったほうや嫌なほうに行きそうなとき、行きずりの人から色んな言葉をもらってん。あたしとおばちゃんも行きずりや。そやからかな」

P168,169

私は見知らぬ人に声をかける経験はまだあまりないのですが、大学や職場で出会った人もある意味「行きずり」だと思います。
自分の言葉や行動が、今すぐでなくてもいつか誰かの役に立っていたらいいなぁと思っています。その源泉がこんなところにあったとは!
他にも日常の中に人生の機微を見出す視点や、価値観が合わない人・価値観を合わせたくない人とは距離を取るべきことなど、様々な所で自分の考え方に影響を与えていることがわかります。まさに人生の教科書といっても過言ではありません。
タイムリーなもので言えば、次の引っ越し先は少し田舎だけれどいい町だなと思えるのは、恐らく小林駅周辺をいい町だなと思っているからだと思います。

「珍しいものや知らないもの見つけると嬉しくないですか? だから電車に乗るといつも外が見えるポジション取っちゃうんです。特に、窓が大きいドアのそばが一番好きで」

P107

これもそういえば一時期ずっとやってたなぁと思いました。
最近は電車に乗ると基本的に本を読むか仮眠を取るかのどちらかです。時々外の景色を見ますが、何か珍しいものを探すというわけでもなく、ただ夕日が綺麗だなとかその程度です。
せっかく読んで思い出したのだから、久しぶりにやってみても良いかなぁと思いました。
また、引っ越し前に今津線の色んな駅を探検してみるのもいいなと思いました。

おわりに

他にも色々と懐かしい所はあったのですが、全てを挙げるわけにはいかないのでこの辺りで……。
それにしても懐かしくて面白いお話でした。正直なところ、私は有川浩さんの作品の中でこの作品が特別好きということはありませんでした。まず『図書館戦争』シリーズ、あと『植物図鑑』『キケン』、自衛隊三部作や『空飛ぶ広報室』も面白かったなぁ、『三匹のおっさん』も……という感じで思い出されます。
しかし今回読み返してみて、『阪急電車』は『植物図鑑』や『キケン』に近いところまで並ぶような気がします。
まあ明確に優劣をつけるのは難しいのですが、とにかく自分の中で思っていた以上に大きな作品だったということがわかりました。

有川浩さんの作品は『図書館戦争』シリーズや自衛隊三部作も久々に読みたいなと思っているので、そのうち読むかもしれません。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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