読書感想文(177)夏目漱石『吾輩は猫である』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は夏目漱石のデビュー作です。
「吾輩は猫である。名前はまだない」という冒頭はあまりにも有名です。
この夏は夏目漱石作品をたくさん読むぞ〜ということで、読みました。

感想

面白かったです。が、長かったです笑。
最終話でヴァイオリンを買う話が長い長いと言われていますが、そこにメタさを感じるくらい長かったです。
冗長、というには自分の読解力に自信がありませんが、話が長いな〜というのが一番の印象です。でも面白かったです。

この作品の面白いところは何かというと、まず猫視点で書かれる人間に対する皮肉だと思います。そしてプライドの高い猫の自らの滑稽さが描かれるのも面白かったです。そういえば、猫視点で描かれる物語として有川浩『旅猫リポート』が思い浮かびますが、どうも猫はプライドが高いように描かれるようです。そうでないものもあるのでしょうか?そもそも猫視点で書かれた物語を多く知らないのですが、今知っている物ではポール・ギャリコ『ジェニィ』が気になっています。
特に面白かったのは一話かなと思いますが、これは高浜虚子のテコ入れが入っていて、比較的冗長さが少ないそうです笑。
でも一話の面白いところは、猫視点の良さが一番活かされていたところです。というのも、途中からただ人間達の日常会話が多くて、語り手が猫である必然性が無いように感じるところもあったからです。

他にも面白かったところは色々とあったので、特に印象に残ったところを書いておきます。

休養は万物の旻天から要求して然るべき権利である。この世に生息すべき義務を有して蠢動する者は、生息の義務を果す為に休養を得ねばならぬ。もし神ありて汝は働く為に生れたり寐る為に生れたるに非ずと云わば我輩はこれに答えて云わん、吾輩は仰せの如く働く為に生れたり故に働く為に休養を乞うと。

P208

現代でもブラック企業の問題はありますが、当時の方がまだまだコンプライアンスがしっかりとしていない時代だっただろうと思います。
それにしても、いつかこれ使えるんじゃないかなぁと思ったり。

西洋の文明は積極的、進取的かも知れないがつまり不満足で一生をくらす人の作った文明さ。日本の文明は自分以外の状態を変化させて満足を求めるのじゃない。

P344

この論の妥当性はともかくとして、なかなか良いことを言っているなぁとは思います。
この辺りの話は哲学で膨大な議論が既になされているのだろうと思うので、そのうち勉強してみたいです。

「君はしきりに時候おくれを気にするが、時と場合によると、時候おくれの方がえらいんだぜ。第一今の学問と云うものは先へ先へと行くだけで、どこまで行ったって際限はありゃしない。到底満足は得られやしない。そこへ行くと東洋流の学問は消極的で大に味がある。心そのものの修業をするのだから」

P375

これも論の是非はともかく、良いことを言っているなと思います。

他にも、マウントの取り合いだったり、ローマ人が編み出した食べ物を沢山食べる方法が嘔吐することであったり(現代でもお酒でよくやるやつですね)、知識はこの上ない価値があるから知識に対する褒美は無いのだという話など、色々と面白い話がありました。
イスキラスという禿の哲学者の最期の話も面白かったです。

おわりに

夏目漱石は個人主義に疑問を呈しているので、現代人にもまだまだ問いかけるべきことが書かれているように思います。
資本主義社会の中で個人の幸福が追求される中、大切な何かを失ってしまわないようにしたいです。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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