読書感想文(110)岡潔『春宵十話』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

2022年最初の1冊はこちら。
20世紀最大の日本の数学者・岡潔のエッセイです。
今年は数学を頑張りたいなぁと思っているので、最初の1冊に選びました。

数学者のエッセイではありますが、内容は文化論が中心なので、数学が苦手な人にもオススメです。

感想

やはりこの人の文章には惹かれます。
「いやそれは違うんちゃう?」とツッコミたくなるような主張もいくつかあるのですが、正しいかどうかの問題ではないんですよね。
どうしてこんなに良いんだろうと思ってしばらく考えてみたところ、利己的な意識が感じられないからかなと思いました。
最近何かを主張している人って、自分の利益の為に主張している人が多い気がするんですよね。Win-Winの関係、なんて言って誤魔化しますけれど、目的がどこにあるのかによって意味は大きく変わるように思われます。
少し話が逸れますけれど、最近よく聞く「自分ファーストの人生」みたいな価値観、あれってどこから来たんでしょう?
皆が自分を必死で守ろうとしなくても、皆が幸せになれる社会になったらいいですね。
「人生とは何か」みたいな問いって昔から色んな人が考えてると思うんですけど、その変遷をまとめた本とかあったら読みたいなぁと思いました。

色々と思うところがあったので全てを書くことはできないのですが、印象に残った所について書きます。

 これから数学をやりたいと思っておられる方に何よりもまず味わっていただきたいと思うのはアンリ・ポアンカレーの「数学の本体は調和の精神である」という言葉です。

P135

これは「数学を志す人に」という章の冒頭です。これから数学の勉強をしようと思っているので、心に留めておきたいと思います。
正直、「数学の本体は調和の精神である」という言葉の意味はさっぱりわかりませんが、勉強していくうちに少しでも何か掴めたらいいなと思います。
先日読んだサイモン・シン『フェルマーの最終定理』では「数学の大統一」といった言葉がありましたが、それに通ずるものでしょうか。今調べ直して、「ラングランズプログラム」ってあったなぁと思い出しました。

孔子の「論語」に、最初は学をつとめ、次に学を好み、最後に学を楽しむという境地の進み方を述べたことばがあるが、この「楽しむ」というのが学問の中心に住むことにほかならない。

P40

私は「学びの中に娯楽あり。娯楽の中に学びあり。」を座右の銘としているので基本的に何事も楽しみますが、それとは少し性質が違う「楽しむ」であるように思います。
今の所、「学を好む」の所に到達するかどうか、という辺りが自分の立ち位置かなと思います。
勉強というと多くの人が高校生までを思い浮かべる気がします。ここはまさに多くの人が「学につとむ」の境地であり、そこで「好む」に移行できずに勉強に拒否反応を起こしている人も多いように感じます。

人はなぜ向上しなければならないか、と開き直って問われると、いまの私には「いったん向上の道にいそしむ味を覚えれば、それなしには何としてと物足りないから」としか答えられないが、向上なく理想もない世界には住めない。だから私は純理性の世界だけでも、また宗教的世界だけでもやっていけず、両方をかね備えた世界で生存し続けるのであろう。

P52,53

この向上心に対する考え方はよくわかるなぁと思いました。ただ私なら別の角度から「誰かの幸せのため」と答えるかなぁと思いました。
ちなみに余談ですが、一昔前の自分なら「好きな人の幸せのため」と恥ずかしい主張をしていたはずですが、最近は可能性を広げる為の向上がその可能性を狭めるのではないかという説があり、「誰か」に改めておきました。ここで「誰か」に変換可能であるのも他の理論によるのですが、まあ詳しくは書かないでおきます。そのうち「恋愛論」も書いてみたいなぁと思いつつ、もう少し参考文献を読んでから……と思いとどまっています。

 しかし、いまは漱石の小説を読む人はだんだん少なくなってきているらしい。いまの小説はもっと刺激の強いものをたくさん入れている。これは微妙なニュアンスなどというものがわからなくなってきたためだろう。

P156

これはなかなか痛い指摘です。確かにドラマチックで刺激的な内容は私も好きです。一方で、繊細に文章を読むことができているかと言われると自信がありません。
以前、岡潔著、森田真生編『数学する人生』を読んだ時から、漱石芥川芭蕉は読んでみようと思っています。また読みたい本が増えていきますが、まあこの辺りはどのみち読むことになったでしょう。
また、この本で紹介されていた「自分の小説は少なくとも諸君の家庭に悪趣味を持ちこむことだけはしない」という漱石の言葉も印象的でした。

最後に一つだけ。
岡潔は「何事もやってみないとわからない」ということで、ドイツ語の単位を落第してみたことがあるそうです。
私も全く同じ考えで単位を落としたことがあるので、嬉しくなりました。
この事について、岡潔は次のように述べています。

 しかし、そうだと思ったら何でも本当にやってみることである。徹底してやらねばいけない。それでこそ理想を描くことができるのであって、社会通念に従って生きていこうなどと思っていて理想など描けるものではない。

P130

すごく良いなと思いました。
勿論、当時の社会通念と現代の社会通念は違うと思いますが、社会通念は自分にとって本質的なものでないということは忘れずにいたいです。

おわりに

他にも色々と引っかかったところはあるのですが、上手くこの本の感想を書けませんでした。
また読み返しつつ、読書メモとして章毎に感想を書きたいなと思います。

ということで、新年早々ぐだぐたになってしまいましたが、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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