読書感想文(204)平野啓一郎『ある男』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は現在映画が上映中の作品です。
映画を観る前に原作を読んでおきたいと思い、読むことにしました。
しかし、実は買ったのはずいぶん前で、ずっと積ん読になっていました。
私は平野啓一郎さんの本を『マチネの終わりに』しか読んだことがありませんでした。しかし、この本は昨年読んだ中でも最も好きな作品です。
『ある男』を読み終えた今も、また別の作品を読みたいなと思いますが、一方で結構内容がハードなので、余裕のある時に読みたいです。

感想

先ほども書きましたが、結構内容がハードでした。
読む前は、映画の予告動画などから、ミステリー系なのかなと思っていましたが、それはメインではないように感じました。
そもそも疑問というのは日々の生活に付きものであり、そういう意味では確かにこの小説も謎が明らかになっていく展開ではあったのですが、それ以上に色々なものが詰まっていたように思います。
今、思いつく限りで無理矢理まとめて箇条書きすると、例えば次のようなものです。

①自分とは何か 
②愛と過去の関係
③人生のタイミング

「色々」と書きましたが、大きく分けてみると三つになりました。

まず一つ目、これについては、読んだことはないのですが、平野啓一郎さんが別の本で「分人主義」というものを唱えていたのを聞いたことがあります。
つまり、自分とは様々だ、ということです。えーと、もう少しわかりやすく言えば、人には色んな役割があり、ある時は会社員、ある時は父親、ある時は夫、ある時は友達、といったところです。これは『人生は手帳で変わる』でも言及されていたと思います。
そういえば、作中で気にかかったものの一つに、ある登場人物が『般若心経』を求めたことがありました。
今思えば、これは「色即是空空即是色」を仄めかしていたのかもしれません。
また、この点に関しては犯罪者の家族や在日外国人という、社会問題にも繋がっています。政治的な主張もいくらか見られたので、もしかすると作者はこちらをメインに据えていたのかもしれません。この問題を考えるにあたって、自分とは何かという問題にたどり着いたのかもしれません。

次に二つ目について、過去の捉え方については『マチネの終わりに』でテーマの一つになっていたように思いますが、それをさらに自分自身の存在や他者による自分の認識と結びつけているのは、面白いなと思いました。
「愛に過去は必要だろうか?」という一節が最も印象に残っています。

三つ目は、これまた『マチネの終わりに』と共通しますが、『マチネの終わりに』がその後の展開を読者に委ねる形だったのに対して、今回は一つの答えを出しています。こちらは「なるほど彼女の言う通り、きっとお互いにとって「何にもいいことなんかない」はずだった。」という一節が印象に残っています。
「はずだった」という部分に、自分を言い聞かせるようなニュアンスが読み取れるのも、いいなと思いました。

こんな風にとりあえず書いてみましたが、正直まだ全然消化しきれていないので、今後も色々なことを勉強して、またいつか読み返したいと思います。

その他、いくつか書いておきたいことがあるので、書いておきます。

まず、「三勝四敗主義」について、これはまだ完全に理解できていませんが、いいなと思いました。
世の中、自分が勝つことが重視され過ぎているように感じます。
そもそも勝ち負けが付くより皆が勝てればいいのですが、それを置いておいても、三勝四敗くらいが良いというのは、自分より相手を思いやる心と、でもやっぱり全敗は受け入れられない人間らしさが感じられていいなと思いました。

次に、読みたい本が色々と増えました。
芥川、志賀直哉、武者小路実篤、それから『変身物語』、あと仏教関係の本。
特に芥川については、以前岡潔の本を読んだ時(去年の12月〜今年1月くらい)から読みたいと思っていたので、一層読みたくなりました。しかし、その前に仏教について勉強したり、仏教説話をいくらか読んでおいた方が良いような気もします。読みたい本がどんどん増えていきます。

最後に、音楽について。
私は音楽に詳しくないので、この本で何度も出てくる音楽についての描写がほとんど理解できませんでした。
なぜ音楽についてこんなに詳しく書くのかわかりませんでしたが、もしかするとその時々の音が場面の雰囲気を絶妙に表現しているのかもしれません。
あとは音楽の好みはその人の育った環境に影響されると思うので、自分とは何かという点に繋がってくるのかもしれないなと思いました。

おわりに

正直なところ、消化不良の部分が多くてモヤモヤした気持ちがありますが、読んでよかったなと思います。
映画は楽しみですが、正直本当に映画でできるのか?と不安な気持ちもあります。

ということで、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。


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