読書感想文(233)ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』(小尾芙佐訳)

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回はずっと積ん読になっていた海外の小説です。
これを知ったきっかけは確かツイッターの「#自己紹介代わりの小説10選」でした。
最近久々にこの作品を見かけたので、思い出して読んでみました。


感想

なかなか、重たいというか、インパクトの強い作品でした。
特に序盤と終盤は印象的で、これを翻訳した小尾芙佐さんもすごいなと思いました。
読み終えた感覚としては、長谷敏司『あなたのための物語』が近い気がします。
どうしようもない未来を待つしかないやるせなさが共通していたのでしょうか。
これは感覚なので、はっきりとはわかりません。

振り返ってみて真っ先に思い出したのは、著者による「日本語文庫版への序文」です。著者への手紙で主人公であるチャーリー・ゴートンを自分の身に置き換えたという人が多かったということでした。
最初にこれを読んだ時はまだ本編を読んでいなかったので、よくわかりませんでした。しかし、読んでいる途中で、相手と比べて知能が格段に劣る状況、そしてその差が埋まっていき、いずれ追い越してしまうというのは、まさに子どもが大人へと成長する過程で感じられることだ、と思いました。
子どもと大人の関係と重ねて考えてみると、共感できることが山程ありました。上手いことあしらわれているのに気づき始め、そのことに傷ついたり。或いは自分がよく勉強したことについては、自分と同じレベルで話せる人が身近にいなくて孤独を感じたり。
私はその過程でそれほど強く苦しんでこなかったように思いますが、これを知的障害に置き換えて、その社会的立場や周囲の環境などを考慮すると、その苦しさは想像を絶します。幼い子供と同じく、それに気づかないうちはまだ「しあわせ」かもしれませんが、それがわかるようになった時の衝撃は恐ろしいものでしょう。

それはともかく、この物語を通して、例えば知的障害のある人も人間であるということは決して忘れてはいけないと思いました。もちろん、子どももそうですし、それ以外のありとあらゆる人間が人間として扱われなければなりません。
これは学校の先生が生徒に対する時にも忘れてはいけないことだと思います。

これについては、序文で紹介されている読者の手紙の一部がよく表されていました。

他人に対して思いやりをもつ能力がなければ、そんな知能など空しいものです。

P4

知能が高くなりすぎたチャーリーが、芸術家を求めた時、やはり行き着くのは芸術なのだと腑に落ちました。ただ、これ感覚なので上手く言語化できません。向上による孤独を慰めてくれるものとして芸術を認識しているのでしょうか。或いは既存の知識では太刀打ちできない斬新さが、知能の孤独を慰めてくれると考えているのでしょうか。知能の孤独を慰めるというより、知能の孤独に新しい好奇心を生じさせる、という方が適切でしょうか。
こんなことを書いても、未来の自分すらきっと何を言いたいのかわからないのであろうことを悲しく思います。

箱を消しちゃうただのひとつの方法は、一杯ひっかけること。そうするとあの線がみんなゆらゆら揺れだすから、この世が愉しくなっちゃうんだ。

P267

最近、お酒というものについてよく考えるので、ここが印象に残りました。
当たり前のように存在する直線に対して違和感を持つというのは、最近共感できるようになりました。
この常識に揺さぶりをかけるのが酒である、というと、ちょっとかっこいいかしれません。

おわりに

ふと、これを「#自己紹介代わりの小説10選」に入れている人は、どんな人なのだろうかと思いました。
何か辛い過去を抱えているのかもしれないな、と。
逆に言えば、私自身はこの物語を他人の物語と捉えているのだな、と自覚しました。幸せなことだと思います。
ただ、思いやりの心を忘れないよう、常に自戒したいと思います。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。


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