読書感想文(95)星新一『ひとにぎりの未来』

はじめに

こんにちは、笛の人です。
読んでくださってありがとうございます。

今回は星新一のショート・ショートです。
金子みすゞの詩と同様、星新一のショート・ショートも毎日少しずつ読み進めていました。
この『ひとにぎりの未来』は全部で40編の作品が収録されています。

感想

たくさんある星新一の作品の中で今回これを選んだのは、「番号をどうぞ」という作品を読みたかったからです。
これは小学生の時に読んだ記憶があったのですが、オチをよく覚えていませんでした。
久しぶりに読んでみると、意外なオチで驚きました。
小学生の頃にも読んだはずなのですが、もしかすると昔はきちんと読めていなかったのかもしれません。

40編あるなかで特に印象に残ったのは「はい」と「自信に満ちた生活」です。

「はい」は高度なコンピュータからやるべきことを常に指示され、それに従うことで全てが上手くいくという話です。初めの方は少し疑問を持つ主人公も、そのうちコンピュータに頼り切りになり、万事滞りなく上手くいって一生を終えます。上手くいくならそれでいいのかと、立ち止まって考えたくなる作品です。

「自信に満ちた生活」は優柔不断な男がある機械を買います。
その機械は「〜をすべきか」と問うと、「そうすべきである」又は「そうすべきではない」という事を教えてくれます。
男はその機械の指示に従うことによって、万事上手くいき、自信に満ちた生活を送ります。
しかし、ある日男がどうしても機械の仕組みが気になり、機械の中を開けて調べてしまいます。
すると中にはコインがあり、その裏表で「そうすべきである」「そうすべきではない」を決めていました。
この後、機械の販売元がやって来て男の記憶を消すことで、男は無事(?)自身に満ちた生活を続けることができます。
この作品はまず、迷っている時間が勿体無いということと、決めたことを上手くいくと思って自信を持ってやることの大切さに気づきます。
そしてまた、やっぱり機械に頼って何も考えずに上手くいくことが本当に良いのかということも考えてしまいます。
世の中は自分が知らないうちにどんどん色んなものが動いていて、その恩恵を受けています。
その構造を知りたいと思う人もいれば、上手くいっているならそれで良いと思う人もいることでしょう。
この辺りは読書会で話し合っても面白いかもしれないなと思いました。

もう一つ面白かったのが、「涙の雨」という作品です。
この作品は、国中が人情を大切にし、あらゆる場面で涙を流している世界観です。
主人公の男はマーケティングによってその世界を創り出した人間です。
涙というのは理屈に勝る、ということで、殺人犯も裁判官に道場を訴えて無罪放免、その無罪放免になった殺人犯を被害者の息子が復讐で殺してしまっても無罪放免、といった具合です。

ここまで徹底して同情の涙が至上とされている世界は、滑稽でもあり、また同情によって流されてしまう危機感も感じさせます。このことについては作品内でもさらっと書かれています。

机の上にあった新刊の雑誌をめくった。涙の流行を、むずかしい文章で批判している。
(中略)
私は雑誌をくずかごにほうりこんだ。批判など恐るるにたらずだ。泣いている人を理論で説得し、なるほどと笑い出させた例があるか。泣いている時には、思考は停止した状態にある。理屈やイデオロギーなど、受けつけるわけがない。それに、理屈やイデオロギーのほうが涙より高級だという考え方は、いまや古くなってしまったのだ。
涙のほうが、はるかに気持ちがいい。なまあたたかく、塩からく、遠いむかしの海への郷愁、原始生命にもつながる感覚……。

一方で、現実でも同情その他の感情に流されてしまうことはよくあると思います。
私は昔から、感情は行動の根拠になり得ると考えています。一般的に論理的思考というと感情を排除するイメージがあるように思いますが、感情を論理に組み込んで考える方が都合が良いのではないかと思います。
やった方が良いことも、「嫌だから」という理由でやらないことを認めるということです。勿論、その後に「なぜ嫌なのか」を考えると抽象化できて色んな所に転用できるのですが、どうしても理屈で説明できない「嫌」が稀にあります。
そういう時に「なんとなく嫌だから」という理由を認める心持ちでいます。

変な話になりましたが、「涙の雨」は不思議で面白い話なので、是非読んでみてほしいです。
人によって感じ方がバラバラになりそうな気がします。

おわりに

星新一のショート・ショートを少しずつ読み進めるという習慣は、自分に合っているようで結構続いています。
できれば月に一冊くらいのペースで読めたらいいなと思っています。

ということで、最後まで読んでくださってありがとうございました。

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