店に並ぶと友情が壊れる
こと食事の関わる場面において、「並ぶ」ということが苦手だ。
でも、僕の言う「苦手」は、よく聞く「行列に並ぶのが苦手」みたいなタイプのそれではない。人気のアトラクションに並ぶことや、GWで混んでいる博物館の前の行列に並ぶのは、なんら問題ない。別にミーハー心を恥じているわけではないからだ。
本当に「飲食」がその行列に関わっているときだけ―例えば混んでいるラーメン屋とか、人気の屋台とか―並ぶのは抵抗があるのです。
なぜだろう、と考えてみる。並ぶ時間がもったいないと感じてしまう、これも一つの要因だろう。そうすると僕は「食欲」を比較的軽視しているということになる。
確かに、家を出るときに「あそこのラーメンを食べるぞ!」と強く思っているのに、店の前の数人の列を見ただけでその気持ちが一気に萎えてしまうことがある。僕はそんなに「食欲」への固執はしていないのかもしれない。
いろいろと思い返す中で、グループで来店するときには、店の前の行列に並ぶのは苦に思っていないということにも気がついた。
みんなで決めたお店を変えづらい、というのも少なからずあるが、そもそも「飲食店の前に並んで待つことへの抵抗」そのものが、グループで行くときは格段に小さくなっている気がする。
対して一人で店の前に並ぶという行為は、ときに他人の友情に大きく悪影響を与えることとなる。
If:そのラーメン屋、純情
ここでカウンター8席の小さなラーメン屋を想像してほしい。店内は満席で、自分の前にはカップルが一組、後ろには部活終わりの高校生3人組が並んでいるとする。
食べ終えた大学生2人組が退店し、程なくして自分の前にいたカップルが店内へと案内される。ここで僕であれば、「どうか店内に3人組のお客さんがいますように」と心のそこから願う。
そうであれば僕は、3人が退店した瞬間に高校生3人組に対してこともなげに「お先どうぞ」と言い、この場を乗り切ることができる。
だが、だいたい物事はうまく運ばない。いつだって世界は非情なのだ。こういうときにはだいたいよりにもよって2人組が退店し、まず僕が通される。そしてお冷を渡され、程なくしてまた一人が退店する。
そうすると男子高校生3人組に悪魔の質問が飛んでいくのだ。
「2名様でしたら先にお通しできますがいかがなさいますか?」と。
ここで僕がいなければ、彼らは立て続けにできた3席の空席につき、そんな残酷な質問についての答えを出すことなく、ラーメンにありつくことができたはずなのだ。彼らはいい子だから(進学校のテニス部ということにしよう)自分の後ろに並んでいるお客さんのことも考えて、残酷にも2名を送り出すだろう。
男子高校生の少人数グループと来れば、飯を待つ時間、各々がスマホを見つつポツポツと交わされるクラスのゴシップ、有名女優・俳優が出演しているドラマの感想、今日の部活の顧問への愚痴などなど、3人で座ることによって展開した青春には無限の可能性がある。
しかし、先に2人選ばなくてはならないということにより3人の中にあった関係性の歪みが顕になってしまうことは言うまでもない。
優しい彼が「2人先に良いよ」といえば、一瞬にしてパワーバランスが崩れる。ジャンケンで決めれば、そのランダムな組み合わせが思わぬ意気投合をもたらし、残りの一人が置いて行かれてしまう(外で待つもうひとりの悪口など言い合えばもう目も当てられないことになる)。
このように、僕のチンケで卑しい食欲によって彼らの青春は失われ、気づかなくてよかった歪みに彼らは気づいてしまうことになる。そして更に、心苦しくも、選ばれた二人の会話はすべて僕に聞こえるだろう。こんなに辛いことはない。
店の前に一人で並ぶ、という行為がいかに危険か、おわかり頂けただろうか。
一つ補足しておきたいのは、もし逆の立場だったらこんなことは全く考えないということだ。友達と来ていて、前に一人で並んでいる人がいても、全く迷惑とは思わない。
ただ、一人でいるとこういった方向に思考は巡っていってしまうのだ。
こういったことを鑑みて「本当に並んでまで食べたいのか?」という質問に一人で「Yes」と返せる状況がそう多くないことが、僕が一人で飲食店に並びたくない理由の根本を形作っている気がする。
カゴの中を欲望で満たしていくッッッ
あと、これはなにも「店舗」に並ぶ場合に限った話ではない。「お昼時のコンビニ」「夕方のスーパー」などに行くことやレジに並ぶことも、同様に苦手だ。
僕は圧倒的なセブンイレブン信者だが、「激混みセブン」と「空いてるファミマ」なら後者を取るだろう。
そういった「店舗」の場合は、混んでいると、ものを持って人の波をかき分けなくては行けないことがまず第一のストレスである。「食べたいもの」を持ち歩き人とすれ違うことも、食べ物を選ぶときに他人を気にしなくてはいけないことも、どちらもなんだか心地が良くない。
あと、「混んでいる」ということは得てして「品揃えが悪い」ということを意味している。僕はよりどりみどりのラインナップから、食べたいものを選びたいタイプなので、そもそも種類が少ないかもしれない状況というのはテンションが下がる。
ここまでつらつらと「並びたくない理由」を並べてみて、当初僕が思った「食欲を軽視している」というのは少し検討違いだったな、ということに気づいた。
僕はきっと「親しくない人に食欲を悟られることに抵抗がある」のだと思う。
自分の「食べたい」気持ちのせいで、誰かの友情を壊すかもしれないこと、自分の「食べたい」気持ちをカゴいっぱいにして人と関わることが、嫌な僕は、きっとこれからも並ぶことを避けて行くだろう。
さて、そろそろ閉店一時間前だし、お気に入りのラーメン屋さんに足を伸ばします。並んでませんように。
それでは。
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↑そろそろ新しいの欲しいよね~。ね~。
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