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論文まとめ211回目Nature Photonics  透過イメージング(テラヘルツ)で従来の1000倍の高速化!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNature Photonicsです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Bright and stable near-infrared lead-free perovskite light-emitting diodes
鉛を使用しない高輝度で安定した近赤外線ペロブスカイト発光ダイオード
「夜間視界や医療画像診断などに使える、鉛フリーで明るく長持ちする近赤外線のLEDを作ることに成功しました。」

Correlated sensing with a solid-state quantum multisensor system for atomic-scale structural analysis
原子レベルの構造解析のための固体量子多重センサーシステムによる相関センシング
「量子技術を利用して、非常に高精度で複雑な構造を分析できる新しいセンサーシステムを開発しました。このシステムは、複数の量子センサー間の信号の相関を利用して、個々のセンサーでは解決できない重複する信号を識別できます。」

Observation of localization of light in linear photonic quasicrystals with diverse rotational symmetries
異なる回転対称性を持つ線形フォトニック準結晶における光の局在化の観測
「金属合金で初めて観察された準結晶の性質を、光学的に作り出された構造で再現し、光の伝播の不思議な挙動を明らかにしました。」

Plasmonic photoconductive terahertz focal-plane array with pixel super-resolution
プラズモニック光導電性テラヘルツ焦点面アレイによるピクセル超解像
「この研究は、透明でない物質を通過できるテラヘルツ波を使った新しいイメージング技術を開発しました。これにより、たとえば医療診断やセキュリティチェックなどで見えないものを高速かつ鮮明に可視化できるようになります。」

Electrically assisted amplified spontaneous emission in perovskite light-emitting diodes
ペロブスカイト型発光ダイオードにおける電気的アシストによる増幅自然放出
「新しいPeLEDアーキテクチャを使用して、低温下で電気的な励起を加えることにより、ペロブスカイト素材からの強い光の放出(ASE)を実現し、これはペロブスカイトレーザーダイオードにとって重要なステップです。」

Dipole–dipole-interaction-assisted self-assembly of quantum dots for highly efficient light-emitting diodes
量子ドットの双極子間相互作用による自己組織化と高効率発光ダイオード
「ウルツァイトと亜鉛ブレンド相の混合構造を持つ量子ドットにより、LEDの光出力と寿命が大幅に改善」


要約

鉛を使用しない高輝度で安定した近赤外線LEDの開発

この研究では、夜間視界や医療画像、センシング、光通信などに役立つ鉛を使用しない高輝度で安定した近赤外線LEDを開発しました。

事前情報
従来の長波長近赤外線LEDは、低い輝度と不安定さが課題でした。

行ったこと
CsSnI3というオールイノーガニック錫ペロブスカイトを用いて、結晶化プロセスをコントロールし、近赤外線LEDを開発しました。

検証方法
LEDの性能改善のために、P型ドーピングの合理的な操作とキャリアトラップ密度の低減に着目しました。

分かったこと
開発されたLEDは、ピーク放射波長が948nmで、輝度が226W sr−1 m−2、100mA cm−2の高定電流密度で39.5時間の長寿命を実現しました。

この研究の面白く独創的なところ
鉛を使用せず、新しい結晶化コントロール手法を用いて、高性能な近赤外線LEDを作り出した点です。

この研究のアプリケーション
夜間視界、医療画像、センシング、光通信など様々な分野での応用が期待されます。

著者
Fanglong Yuan, Giulia Folpini, Tianjun Liu, Utkarsh Singh, Antonella Treglia, Jia Wei Melvin Lim, Johan Klarbring, Sergei I. Simak, Igor A. Abrikosov, Tze Chien Sum, Annamaria Petrozza, Feng Gao

更に詳しく
この研究によって開発された近赤外線LEDは、特に夜間視界、医療画像診断、センシング、光通信といった分野での利用に適しています。従来の近赤外線LEDと比べて、この新しいLEDはいくつかの点で顕著な改善を見せています。まず、このLEDは全て無機素材で構成された錫ベースのペロブスカイト(CsSnI3)を使用しており、有害な鉛を含まないという重要な特徴があります。
LEDの性能面において、ピーク放射波長は948ナノメートルに達し、これにより特に近赤外線の範囲で高い輝度を実現しています。また、輝度は226ワット毎ステラジアン毎平方メートル(W sr−1 m−2)に達し、これは従来の同様のLEDに比べて格段に高い値です。この高い輝度は、夜間視界の向上や医療画像の鮮明さ向上に直結します。
さらに、このLEDは100ミリアンペア毎平方センチメートル(mA cm−2)の高い定電流密度で稼働させた際にも、39.5時間という長い寿命を持つことが示されました。これは、長期間安定して使用できることを意味し、メンテナンスの頻度を減らすことができます。特に、光通信やセンシングなどの分野での使用において、長時間の信頼性と安定性は極めて重要です。
このように、この研究によって開発された近赤外線LEDは、高い輝度、長い寿命、そして鉛を使用しない環境に優しい特性を備えており、多岐にわたる分野での応用が期待されます。


原子レベルでの複雑な構造解析を可能にする革新的な量子多重センサーシステムの開発

量子技術の一環として、超高精度な測定から複雑な構造解析に至るまで、より優れた量子センシング戦略の開発が進んでいます。

事前情報
量子センサー間のエンタングルメントなどの量子リソースを使用してセンシング精度を向上させる戦略はよく実証されていますが、量子センサー間の信号の相関を利用することはほとんどなされていませんでした。

行ったこと
複数の量子センサー間の信号の相関を利用して、個々のセンサーでは解決できない複数の対象からの重なり合う信号を解決する新しいセンシングパラダイムを開発しました。

検証方法
窒素-空孔中心を持つ3つの量子センサーを使用して、アンサンブル信号から個々の欠陥の変動する電場を解析することで、この多センサーパラダイムを実証しました。

分かったこと
ダイヤモンド内の16個の電子的な点欠陥の3次元分布をGPSのような位置特定方法で1.7nmに近い精度で画像化しました。さらに、個々の点欠陥のリアルタイムな電荷ダイナミクスを取得し、これらのダイナミクスが光学的なスペクトル拡散をどのように引き起こすかを視覚化しました。

この研究の面白く独創的なところ
量子センシングツールボックスを拡張し、構造解析のための新しい可能性を提供することです。

この研究のアプリケーション
構造解析、特に原子レベルでの詳細な分析や複雑な構造の調査に応用が期待されます。

著者
Wentao Ji, Zhaoxin Liu, Yuhang Guo, Zhihao Hu, Jingyang Zhou, Siheng Dai, Yu Chen, Pei Yu, Mengqi Wang, Kangwei Xia, Fazhan Shi, Ya Wang, Jiangfeng Du

更に詳しく
この研究では、量子技術を用いて、従来の方法では実現が難しい高い精度と複雑な構造解析を可能にする革新的なセンシング戦略が開発されました。具体的には、複数の量子センサーを利用して、個々のセンサーだけでは解決できない複雑な信号を識別し、解析する方法が導入されています。
この新しいパラダイムでは、量子センサー間の信号の相関を活用することで、個別のセンサーが識別できない重複する信号を解明します。たとえば、複数のセンサーが同時に異なるデータを収集し、それらのデータを統合することで、より詳細な情報が得られるようになります。このアプローチによって、従来では不可能だった原子レベルの精密な測定が可能になります。
研究チームは、窒素-空孔中心を持つ3つの量子センサーを使用して、ダイヤモンド内の電子的点欠陥の3次元分布を1.7ナノメートルという驚異的な精度で画像化しました。この方法では、個々の点欠陥が発する微弱な電場の変動を検出し、それによって生じる光学的なスペクトル拡散のメカニズムを解析することができました。
このような高度な量子センシング技術は、量子物理学の基本原理を応用し、極めて微細なスケールでの物質の挙動や構造を解明するための強力なツールとなります。これにより、物質科学、生物学、医学など、幅広い分野での応用が期待されています。


異なる回転対称性を持つフォトニック準結晶における光の局在化の直接観察

この研究では、異なる回転対称性を持つ二次元フォトニック準結晶において、光の伝播と局在化の特性を実験的に観測しました。

事前情報
準結晶は、秩序と無秩序の特性を共有する物理構造で、フォトニックおよびフォノニックシステムにおいて光や音波の伝播の研究対象となっています。

行ったこと
異なる回転対称性を持つ二次元フォトニック準結晶を作成し、その中での光の局在化を実験的に観察しました。

検証方法
平面波の干渉を利用して、異なる回転対称性を持つフォトニック準結晶を生成し、光の局在化現象を探索しました。

分かったこと
光の局在化は、光学的に誘起されたポテンシャルの特定の深さ以上で起こり、この深さは準結晶の回転対称性の次数が増加するにつれて急速に減少することがわかりました。

この研究の面白く独創的なところ
純粋に線形のフォトニック準結晶においても光の局在化が生じることを初めて実証し、回転対称性の違いが局在化に及ぼす影響を明らかにした点です。

この研究のアプリケーション
フォトニック、原子物理学、音響学、凝縮物質など、様々な非周期的システムにおける波の局在化を実現する道を開くことが期待されます。

著者
Peng Wang, Qidong Fu, Vladimir V. Konotop, Yaroslav V. Kartashov, Fangwei Ye

更に詳しく
この研究では、特定の回転対称性を持つ二次元フォトニック準結晶において、光の伝播と局在化の現象を実験的に詳しく調査しました。具体的には、平面波の干渉を使って異なる回転対称性を有するフォトニック準結晶を作り出し、そこでの光の挙動を観察しました。研究チームは、光の局在化が準結晶内で発生することを実証し、これが準結晶の回転対称性に依存することを明らかにしました。
この研究の重要な発見は、光の局在化が光学的に誘発されたポテンシャルの特定の深さ以上で生じるということでした。さらに、準結晶の回転対称性の次数が増加するにつれて、この局在化に必要なポテンシャルの深さが急速に減少することが分かりました。これは、異なる対称性を持つ準結晶における光の伝播パターンが異なることを示唆しています。
この研究の成果は、フォトニック準結晶における光の挙動に関する理解を深めるものであり、光の局在化の現象を制御する新しい方法を提供します。この発見は、フォトニクス、原子物理学、音響学、凝縮物質物理学など、さまざまな分野で応用可能な波の局在化を実現するための新たな道を開くものと期待されます。


革新的なテラヘルツフォーカルプレーンアレイを開発し、超高速かつ高解像度のイメージングを可能に

この研究は、約30万個のプラズモニック光導電性ナノアンテナを備えたテラヘルツ焦点面アレイを使用して、テラヘルツ波によるイメージング技術を大幅に進化させました。このアレイは、対象物の空間的な振幅と位相分布、超高速の時間的およびスペクトル情報を直接提供できます。これにより、従来のテラヘルツイメージングシステムよりも1,000倍速いイメージングスピードを実現し、工業検査、セキュリティスクリーニング、医療診断などの広範な用途に適しています。

事前情報
テラヘルツ波は多くの不透明な材料を透過し、化学物質のユニークなスペクトルシグネチャを提供できるため、イメージングシステムにおいて魅力的です。しかし、従来のテラヘルツイメージングシステムは、スピード、サイズ、コスト、複雑さに制限がありました。

行ったこと
研究チームは、プラズモニック光導電性ナノアンテナを利用したテラヘルツ焦点面アレイを開発しました。このアレイは高い信号対雑音比で広帯域のテラヘルツ放射を迅速に検出するために最適化されています。

検証方法
アレイの性能は、シリコン基板にエッチングされたパターンやバッテリー電極の欠陥など、異なる物体のイメージングによってテストされました。

分かったこと
このテラヘルツ焦点面アレイは、光の局在化が発生するために必要な光学的に誘発されたポテンシャルの深さを減少させ、異なる回転対称性を持つ準結晶の光の伝播パターンが異なることを示しました。

この研究の面白く独創的なところ
このテラヘルツ焦点面アレイは、レスタースキャニングやテラヘルツ波の空間的変調を必要とせず、1,000倍のイメージングスピードを実現しました。

この研究のアプリケーション
産業検査、セキュリティスクリーニング、医療診断など、さまざまな分野での応用が可能です。

著者
Xurong Li, Deniz Mengu, Nezih T. Yardimci, Deniz Turan, Ali Charkhesht, Aydogan Ozcan & Mona Jarrahi

更に詳しく
この研究により開発されたテラヘルツ焦点面アレイは、約30万個のプラズモニック光導電性ナノアンテナを用いることで、テラヘルツ波を利用した画像技術の大きな進歩を遂げました。このアレイの特徴は、対象物からの情報を非常に高速で取得し、その空間的な振幅と位相分布、さらには時間的およびスペクトル情報を直接、かつ詳細に捉える能力にあります。従来のテラヘルツイメージングシステムに比べて、この新しいアレイは1,000倍の高速イメージングを実現し、それにより、従来は時間がかかっていたイメージング作業を大幅に速めることができます。
この技術の応用可能性は広範囲にわたり、工業製品の検査からセキュリティチェック、医療診断に至るまで多岐にわたります。たとえば、工業製品の内部構造を非破壊で検査したり、セキュリティ分野では荷物の中身を素早くかつ正確にチェックしたり、医療分野では体内の画像をより高速に取得するなど、その用途は多岐にわたります。また、テラヘルツ波の特性を活かし、多くの不透明な物質を透過して内部を観察することができるため、従来見えにくかった対象物の観察も可能になります。
このアレイの開発によって、テラヘルツ波を用いたイメージング技術の可能性がさらに広がり、従来にないスピードと精度での画像取得が現実のものとなりました。この技術の進歩は、今後さまざまな分野でのイノベーションを促進することが期待されます。


金属ハライドペロブスカイトを使用し、透明なペロブスカイト発光ダイオード(PeLED)を開発し、低温下での光と電気による共同ポンプを通じて増幅自発放射(ASE)を達成

ペロブスカイト発光ダイオード(PeLED)における電気的に補助された増幅自発放射(ASE)を実現した。低温での光パルスと電気パルスの両方を用いて、高い電流密度と明るい放射を達成し、ASEの閾値を下げることに成功した。

事前情報
金属ハライドペロブスカイトは、薄膜レーザーダイオード用の有望な利得材料として登場したが、高い導電率と高い正味のモーダル利得を同時に達成するのは困難であった。

行ったこと
2.3ナノ秒の光パルスを使用し、77K(ケルビン)でASEを達成。同じデバイスを電気的に励起し、3kA/cm²以上の電流密度を達成した。

検証方法
光学的および電気的な励起を用いてペロブスカイト発光ダイオードの性能を検証し、ASE閾値の減少と連続波ASEを観測した。

分かったこと
電気的に注入されたキャリアが光学的利得に貢献することを示し、ペロブスカイト半導体光増幅器と注入レーザーの実現が可能であることを示した。

この研究の面白く独創的なところ
ペロブスカイト素材を使用して、低温での電気的な励起による光の放出を増幅するという新しい手法を開発した点が革新的です。

この研究のアプリケーション
ペロブスカイトベースの光増幅器やレーザーダイオードの開発に向けた重要な一歩であり、高効率で高輝度の光源の実現に寄与する可能性があります。

著者
Karim Elkhouly, Iakov Goldberg, Xin Zhang, Nirav Annavarapu, Sarah Hamdad, Guillaume Croes, Cedric Rolin, Jan Genoe, Weiming Qiu, Robert Gehlhaar, Paul Heremans

更に詳しく
この研究では、ペロブスカイト発光ダイオード(PeLED)を使用して、増幅自発放射(ASE)を達成する新しい手法が開発されました。具体的には、77ケルビンという低温条件下で、光パルスと電気パルスを組み合わせて励起する手法が採用されました。この方法により、非常に高い電流密度、具体的には3kA/cm²以上を達成し、同時に40W/cm²を超える明るさの放射を実現しました。
この手法の特徴的な点は、光パルスが電気パルスの先端と同期されることにあります。この同期により、電気的に注入されたキャリアが光学的利得に貢献し、ASEの閾値を1.2±0.2μJ/cm²まで低下させることが可能になりました。さらに、1マイクロ秒長の光学的励起により、連続波ASEも3.8kW/cm²の閾値で観測されました。
この研究の重要な成果は、電気的なパルスが強力な放射を生じることを示した点にあります。実際に、これらの電気パルスによって生成される発光の明るさは、ASEの閾値における連続波光ポンピングによって生じる放射の約半分に相当しました。この成果は、ペロブスカイト半導体光増幅器や注入レーザーの実現が近づいていることを示唆しています。


量子ドットを使用したLEDの性能向上

この研究は、量子ドットを活用した高効率の発光ダイオード(LED)の開発に関するものです。研究チームは、ウルツァイト相と亜鉛ブレンド相の混合結晶構造を持つ量子ドットを開発しました。この構造により、量子ドットの方向性を調整し、内部量子効率を損なうことなく光子の外部出力を向上させることができます。この技術を用いて製造されたLEDは、35.6%の外部量子効率を達成し、1,000カンデラ/m²の初期輝度で約4.5年間連続運用でき、性能低下はわずか約5%に留まります。

事前情報
従来の量子ドットLEDは光子の外部出力効率が低いという問題があった

行ったこと
ウルツァイト相と亜鉛ブレンド相を持つ量子ドットを開発し、その方向性と光出力を最適化

検証方法
光学パルスと電気パルスを使用して量子ドットLEDの性能を試験
分かったこと 量子ドットの新しい構造により、高い外部量子効率と長期間の安定した性能が実現

この研究の面白く独創的なところ
量子ドットの構造を工夫することで、これまでの課題を克服し、LEDの性能を大幅に向上させたこと

この研究のアプリケーション
高効率で長寿命のLEDの実用化に向けた一歩

著者
Huaiyu Xu, Jiaojiao Song, Penghao Zhou 等

最後に
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