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論文まとめ197回目 SCIENCE 2023/12/22~

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Learning skillful medium-range global weather forecasting
熟練した中期グローバル気象予報の学習
「「GraphCast」は機械学習ベースの天気予報方法で、過去の気象データから直接学習し、高解像度で10日先までの世界的な天気を予測します。」

Time-reversal symmetry breaking superconductivity between twisted cuprate superconductors
ねじれた銅酸化物超伝導体間での時間反転対称性破壊超伝導
「銅酸化物超伝導体の層をねじって重ね合わせ、45°の角度で時間反転対称性が破れる新しい超伝導状態を作り出しました。」

Light-gated channelrhodopsin sparks proton-induced calcium release in guard cells
光ゲート式チャネルロドプシンによるガード細胞内でのプロトン誘導カルシウム放出
「植物のガード細胞において、光によって活性化されるチャネルロドプシンを利用し、プロトンの移動がカルシウム放出を誘発することを発見した研究。」

Divergent molecular networks program functionally distinct CD8+ skin-resident memory T cells
異なる分子ネットワークが機能的に異なるCD8+皮膚常在記憶T細胞をプログラムする
「人間の皮膚には、抗ウイルスや抗がん作用を持つTRM1細胞と、抗細菌作用や創傷治癒反応に関与するTRM17細胞の2種類の記憶T細胞が存在し、それぞれ異なる経路でその機能を発揮します。」

Histone removal in sperm protects paternal chromosomes from premature division at fertilization
精子のヒストン除去が受精時に父親の染色体を早期分裂から守る
「精子のDNAの特殊な構造が、受精後の父親側の染色体を適切に保護し、早期分裂を防ぐことが判明」

From nature to industry: Harnessing enzymes for biocatalysis
自然から産業へ:バイオ触媒のための酵素の活用
「自然界の酵素を工業生産に利用することで、よりグリーンケミストリーを実現し、複雑な分子の合成が可能になります。」


要約

人工知能を用いたグローバルな天気予報システム「GraphCast」が伝統的な予報モデルを上回る精度で天気を予測

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adi2336

GraphCastは、過去の大気状態の再解析データから直接学習した機械学習ベースの手法で、1分未満で10日先までの天気を予測でき、伝統的な天気モデルより90%のケースで精度が高い。

事前情報
伝統的な数値天気予報は複雑で計算コストが高く、過去の天候パターンから学習しません。

行ったこと
過去の気象データに基づいて機械学習モデル「GraphCast」を開発し、天気予報の精度を検証しました。

検証方法
GraphCastの予測精度を伝統的な予報モデルと比較しました。

分かったこと
GraphCastは、伝統的な予報モデルよりも優れた精度で天気を予測し、熱帯低気圧の追跡など重要な気象イベントの予測もサポートします。

この研究の面白く独創的なところ
機械学習を用いることで、天気予報の精度向上と効率化を実現し、複雑な動的システムのモデリングにおける機械学習の可能性を示しました。

この研究のアプリケーション
GraphCastは、より正確でアクセス可能な安価な予測を提供し、個人や産業による天候依存の意思決定を強化する新しい道を開きます。


銅酸化物超伝導体を使って時間反転対称性を破る超伝導現象を観測

https://www.science.org/doi/10.1126/science.abl8371

研究者たちは、銅酸化物超伝導体の層を45°の角度でねじって重ね合わせ、時間反転対称性を破る超伝導状態を発見しました。

事前情報
これまでの2次元構造物研究ではグラフェンや遷移金属カルコゲナイドが主に用いられていましたが、銅酸化物超伝導体も2次元材料として考えられます。

行ったこと
ビスマス系銅酸化物の結晶を剥がし、異なる角度で重ねて超伝導状態を作り出しました。

検証方法
ジョセフソン接合を用いて超伝導状態を分析しました。

分かったこと
45°のねじれ角でジョセフソン接合が抑制され、時間反転対称性が破れる超伝導状態が現れました。

この研究の面白く独創的なところ
外部磁場なしで可逆的なジョセフソンダイオード効果を実現し、新たなトポロジカルデバイスの開発に道を開いた点です。

この研究のアプリケーション
この発見は、高温でのトポロジカルデバイスの設計に応用が期待されます。


光ゲート式チャネルロドプシンを使った植物細胞でのプロトン誘導カルシウム放出の実証

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj9696

光ゲート式の原生生物由来のイオンチャネルを植物細胞に導入し、光によるプロトンの輸送がカルシウム放出を引き起こすことを実験で確認した。

事前情報
プロトン(H+)とカルシウムイオン(Ca2+)は細胞内外でシグナルとして働くが、これらの相互作用は十分に理解されていなかった。

行ったこと
植物細胞のガード細胞に光ゲート式チャネルロドプシンを導入し、その活性化によるプロトンの動きとカルシウム放出の関係を調べた。

検証方法
実験室での光刺激によるプロトンの動きとカルシウム放出の観察と分析。

分かったこと
光によって活性化されたチャネルロドプシンが細胞内のプロトンを増加させ、それがカルシウム放出を誘発することを確認した。

この研究の面白く独創的なところ
光に反応してプロトンを選択的に輸送するイオンチャネルを使用し、細胞内のpHとカルシウムシグナリングの因果関係を確立した点。

この研究のアプリケーション
植物細胞内のイオン動きを操作する新しい手法の提供と、植物の内部pHとカルシウムシグナリングの分子基盤の解明。


皮膚に存在する異なるタイプのT細胞は、それぞれ独自の分子ネットワークを通じて特定の免疫応答を行います

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adi8885

人間の皮膚には、抗ウイルスや抗がん作用を持つTRM1細胞と、抗細菌作用や創傷治癒反応に関与するTRM17細胞の2種類の記憶T細胞が存在し、それぞれ異なる経路でその機能を発揮します。

事前情報
これまで、TRM1とTRM17細胞が同様のメカニズムを使用して皮膚に定着するのかは不明でした。

行ったこと
マウスを用いて、皮膚に定着するTRM1とTRM17細胞の発達過程を調査しました。

検証方法
異なるシグナル経路に依存するTRM1とTRM17細胞の分化過程を解析しました。

分かったこと
TRM1細胞はT-bet-Hobit-IL-15軸に依存し、TRM17細胞はこれらの因子には依存せず、c-MafがTRM17細胞の発達を指揮しています。

この研究の面白く独創的なところ
皮膚に存在する記憶T細胞の異なる機能が、完全に異なる分子ネットワークによって制御されていることが明らかになった点です。

この研究のアプリケーション
この発見は、皮膚の免疫応答を戦略的に調節するための新たなアプローチを提供し、皮膚病理学における治療の可能性を広げます。


精子のヒストン除去が受精時に父親の染色体を早期分裂から守る

https://www.science.org/doi/full/10.1126/science.adh0037

この研究では、ヒストンを除去した精子が、受精時の父親の染色体を早期分裂から守ることが明らかにされました。

事前情報
多くの動物種において、精子のDNAはプロタミンに置き換えられて超コンパクトになるが、この変化の実際の役割は不明だった。

行ったこと
研究チームは、ショウジョウバエの突然変異体「paternal loss (pal)」を調査し、精子のヒストン保持が受精後の影響を分析しました。

検証方法
精子のヒストン保持が受精後の父親の染色体にどのように影響するかを調べました。

分かったこと
pal精子の染色体は受精後、母親側の因子によって誤って認識され、女性の第二減数分裂と同期して早期分裂に陥ります。

この研究の面白く独創的なところ
精子のクロマチンからヒストンが除去されることが、父親の発生初期の染色体の完全性を保護する役割を持つことを明らかにした点です。

この研究のアプリケーション
受精と発生の初期段階における染色体の保護機構の理解を深め、生殖生物学や発生生物学の分野に貢献する可能性があります。


酵素を用いたバイオ触媒技術は、環境に優しく効率的な有機分子合成手段を提供

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh8615

バイオカタリシスは、酵素を用いて化学反応を行う合成化学の手法です。最近の進展により、複雑な分子や生物学的治療薬、プラスチック廃棄物の分解など、多様な用途に向けた酵素のカスタマイズが可能になっています。これにより、環境に優しい方法で複雑な有機分子の合成が行えるようになりました。

事前情報
従来、酵素は自然由来のものが洗剤や抗生物質の生産、薬品業界で使用されていました。

行ったこと
バイオカタリシスの最新の進展をレビューし、将来の展望を探りました。

検証方法
データ駆動型ツールを活用して、酵素の発見、工学化、導入の加速化を行いました。

分かったこと
酵素を利用することで、小分子からCO2まで様々な原料から複雑な分子を合成できることが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
酵素工学における機械学習の利用や、非生物学的触媒要素の統合により、酵素の新たな機能の創造が可能になりました。

この研究のアプリケーション
医薬品開発、廃棄物のリサイクル、クリーンエネルギーの提供など、環境問題や病気との戦いにおいて重要な役割を果たすことが期待されます。

最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。