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論文まとめ145回目 Nature 2023/11/1~

  1. 神経伝達物質の輸送メカニズムと薬物の阻害

  2. パンクリアスがんの炎症を引き起こす要因を特定

  3. ヒトデの体は、もともと二側性の生物から進化したが、その形は「頭」に最も近い

  4. 心臓からの信号が気絶の原因を特定

  5. 地球の内部の巨大な不均一性は月を形成した衝突の名残かもしれない

  6. C. elegansの神経信号伝達の新しい地図作成

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Mechanisms of neurotransmitter transport and drug inhibition in human VMAT2
ヒトVMAT2における神経伝達物質の輸送と薬物の阻害のメカニズム
「神経伝達物質の「パッケージング」の秘密が明らかに!」

IL-1β+ macrophages fuel pathogenic inflammation in pancreatic cancerIL-1β+
マクロファージが膵臓がんの病的な炎症を引き起こす
「膵臓がんの炎症を増悪させる「悪者」細胞を発見!」

Molecular evidence of anteroposterior patterning in adult echinoderms
大人の棘皮動物における前後軸パターン化の分子的証拠
「ヒトデが五つの腕を持つ理由は長い間謎でした。この研究によれば、ヒトデは実際には「頭」が主な部分で、その特性は遺伝子のパターンで確認できることが判明しました!」

Vagal sensory neurons mediate the Bezold–Jarisch reflex and induce syncope
迷走神経感覚ニューロンがベゾルド-ヤリッシュ反射を媒介し、失神を引き起こす
「心臓と脳の信号のミスマッチが気絶を引き起こす。」

Moon-forming impactor as a source of Earth’s basal mantle anomalies
月を形成した衝突体が地球のマントルの異常の原因として
「地球がまだ形成途中だった頃に巨大な衝突があり、その衝突で地球の中に残った物質が今でも地球の内部に存在している可能性があるという研究。」

Neural signal propagation atlas of Caenorhabditis elegans
カエノラブディティス・エレガンスの神経信号伝播のアトラス
「解剖学だけでは語れない、神経の奥深い通信を明らかに」


要約

ヒトVMAT2における神経伝達物質の輸送と薬物の阻害のメカニズム

ヒトのVMAT2構造を解明し、神経伝達物質の輸送と薬物の阻害の詳細なメカニズムを明らかにした研究。

事前情報
モノアミン神経伝達物質は、運動、睡眠、報酬、気分などの重要な脳の経路を制御します。これらの回路の機能不全は、様々な神経変性および神経精神疾患と関連しています。VMATは、シナプスでの放出のためにモノアミンを小胞に詰めるために重要です。

行ったこと
ヒトのVMAT2のクライオ電子顕微鏡構造を、3つの異なる物質(テトラベンザジン、レセルピン、セロトニン)との複合体として報告しました。

検証方法
クライオ電子顕微鏡を使用して、VMAT2の構造と、それがどのように物質と相互作用するかを詳細に観察しました。

分かったこと
2つの薬物、テトラベンザジンとレセルピンは、完全に異なる阻害メカニズムを使用してVMAT2に結合します。これにより、輸送サイクルや物質へのアクセスが変わります。これは、神経伝達物質がどのように小胞に「詰め込まれる」かを理解するための重要なフレームワークを提供します。

この研究の面白く独創的なところ
2つの薬物が完全に異なる方法でVMAT2に結合し、それぞれの方法がVMAT2の動作にどのように影響するかを詳細に示しています。

この研究のアプリケーション
この研究は、新しい神経疾患の治療法や薬物の開発に向けた基盤として、神経伝達物質の輸送メカニズムの理解を進める可能性があります。


マクロファージが膵臓がんの病的な炎症を引き起こす


膵臓がんにおける炎症と免疫応答の役割を理解するために、研究者たちは膵臓がん組織内のマクロファージを詳しく調べました。その結果、特定のサブセットのマクロファージが炎症を引き起こし、がんの進行を助長することが明らかになりました。

事前情報
膵管腺癌は治療に対する抵抗性が高い致命的な疾患です。このがんの微小環境には、炎症と免疫調節の信号が共存しており、これが治療の困難さの原因となっています。

行ったこと
膵臓がんにおけるマクロファージの役割とその多様性を解明するために、単一細胞と空間ゲノミクスを組み合わせた実験を行いました。

検証方法
単一細胞ゲノミクス、空間ゲノミクス、および機能的実験を組み合わせて、膵臓がん組織内のマクロファージの役割と相互作用を調査しました。

分かったこと
IL-1βを発現するマクロファージと膵臓がん細胞との間に炎症を引き起こすループが存在すること、およびこのループががんの進行と患者の予後に関連していることが明らかになりました。また、この炎症を抑制する治療戦略も特定されました。

この研究の面白く独創的なところ
膵臓がんの炎症を増悪させる具体的な細胞相互作用を特定し、その治療の可能性を明らかにした点。

この研究のアプリケーション
この研究の結果から、新しい膵臓がん治療法の開発や、炎症を抑制する治療法の標的として、PGE2-IL-1β軸をターゲットにすることが提案されています。


大人の棘皮動物における前後軸パターン化の分子的証拠

棘皮動物、特にヒトデの体計画の起源を明らかにするため、その遺伝子の表現を調査。結果、ヒトデの体が「頭」の特性に最も近いことが分かった。

事前情報
棘皮動物の五放射体型は、二側性の先祖からどのように進化したのかが長い間の謎であった。

行ったこと
ヒトデの遺伝子の表現を調べ、他の生物との比較を行いました。

検証方法
RNAトモグラフィーとin situハイブリダイゼーションを使用して、ヒトデPatiria miniataの遺伝子の表現を調査。

分かったこと
ヒトデの皮膚の領域は、他の二側性動物との類似性を持ちながらも、特定の二側性の遺伝子パターンを持たないことが判明。ヒトデは「頭」の特性に最も近いことが示唆された。

この研究の面白く独創的なところ
ヒトデの体が「頭」の特性に最も近いことを、遺伝子のパターン化を用いて明らかにした点。

この研究のアプリケーション
この発見は、棘皮動物や他の生物の進化の理解を深めるための基盤として利用される可能性がある。


迷走神経感覚ニューロンがベゾルド-ヤリッシュ反射を媒介し、失神を引き起こす

心臓の信号を脳に伝達する迷走神経感覚ニューロンの役割とそのニューロンがどのように気絶を引き起こすかを調査した研究。

事前情報
ベゾルド-ヤリッシュ反射は、心臓からの信号によって気絶を引き起こす反射とされてきましたが、これを引き起こす具体的なメカニズムや関与するニューロンの種類は詳しく知られていませんでした。

行ったこと
迷走神経感覚ニューロン(VSNs)の分子的な特性、解剖学的な構造、生理学的な特性、および行動に対する影響を調査しました。

検証方法
単一細胞RNAシーケンスデータとHYBRiD組織クリアリングを使用して、NPY2Rを発現するVSNsが心室の壁とpostrema領域を主に接続していることを示しました。さらに、NPY2R VSNsの光遺伝学的な活性化により、動物が気絶するとともに、ベゾルド-ヤリッシュ反射の典型的な三徴候が現れることを確認しました。

分かったこと
NPY2Rを発現するVSNsは、心室の壁とpostrema領域を主に接続しており、これらのニューロンの活性化によって気絶やベゾルド-ヤリッシュ反射が引き起こされることが確認されました。この反射は、心拍数の低下、血圧の低下、呼吸の抑制などの典型的な三徴候を引き起こします。

この研究の面白く独創的なところ
従来の知見と最先端の技術を組み合わせて、気絶やベゾルド-ヤリッシュ反射の原因となる具体的なニューロンとその働きを初めて特定した点。

この研究のアプリケーション
この発見は、気絶の原因や治療方法の研究、さらには心臓や脳の疾患の治療や診断の方法を改善するための新しいアプローチを提供する可能性があります。


月を形成した衝突体が地球のマントルの異常の原因として

地球の内部の画像から、低速度の巨大な不均一性が明らかにされた。これは、月を形成した巨大な衝突の結果、地球のマントルに残されたTheiaのマントル物質の名残である可能性が示唆された。

事前情報
地球の内部には低速度の巨大な不均一性が存在し、これはマントルの組成が周囲と異なる可能性が考えられていた。

行ったこと
Theiaのマントル物質が月形成の巨大衝突後に地球の固体の下部マントルにどのように残されたかをシミュレーションを通して調査した。

検証方法
Theiaのマントルのモデルと月の高いFeO含有量に基づき、Theiaのマントル物質と地球のマントルの密度を比較。また、マントル対流モデルを使用して衝突後の物質の動きを解析した。

分かったこと
Theiaのマントル物質は地球のマントルよりも2.0-3.5%密度が高い。衝突後に形成された密な物質の塊は、地球の中心の上に集まり、現在まで存在し続ける可能性がある。

この研究の面白く独創的なところ
月を形成したとされる巨大衝突が、現在の地球の内部構造にどのような影響を与えたかを明らかにした点。

この研究のアプリケーション
他の惑星体の内部にも衝突による異常な構造が存在するかもしれないという示唆を提供し、惑星形成の理解を深めるための手がかりとなる。


カエノラブディティス・エレガンスの神経信号伝播のアトラス

この研究では、C. elegansの頭部にある神経のペアを対象に、神経信号の伝達を詳細に測定し、それに基づいた機能の地図を作成しました。

事前情報
神経の機能はその入力と出力によって定義され、これを明らかにするためには接続図(コネクトーム)が重要である。しかし、解剖学だけでは完全には神経の機能や接続を理解することはできない。

行ったこと
C. elegansの頭部の23,433ペアの神経に対して、オプトジェネティクスを使用して直接的な活性化と、全脳のカルシウムイメージングを同時に行い、神経間の信号伝達をシステマティックに測定した。

検証方法
神経のペア間の信号伝播の符号(興奮性または抑制性)、強度、時間的特性、因果関係を測定し、これに基づいて機能の地図を作成した。

分かったこと
神経信号の伝達は解剖学に基づくモデルの予測とは異なること、エクストラシナプスの信号伝達がその違いに寄与していること、そしてエクストラシナプスで放出される神経ペプチドが古典的な神経伝達物質のような機能を果たしていることが明らかとなった。

この研究の面白く独創的なところ
解剖学だけでなく、神経の機能的な測定を組み合わせることで、未知の神経信号伝達の機構やエクストラシナプスの役割を明らかにした点が独創的である。

この研究のアプリケーション
神経の動態や通信機構の理解を深めることで、神経系の障害や疾患の原因の解明や治療への応用が期待される。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。