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論文まとめ305回目 SCIENCE 大規模フォトニックチップレットTaichiが160TOPS/Wの人工汎用知能を実現!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Large-scale photonic chiplet Taichi empowers 160-TOPS/W artificial general intelligence
大規模フォトニックチップレットTaichiが160TOPS/Wの人工汎用知能を実現
「人工知能の急速な進歩に伴い、次世代コンピューティングには高性能かつ高エネルギー効率が求められています。フォトニックコンピューティングはこれらの目標を達成する可能性を秘めていますが、現在のフォトニック集積回路、特に光ニューラルネットワーク(ONN)は規模と計算能力が限られており、最新の人工汎用知能(AGI)タスクをサポートするのは困難です。そこでXuらは、ONNの規模を効果的に100万ニューロンレベルまで拡大するために、分散型回折干渉ハイブリッドフォトニックコンピューティングアーキテクチャを探求しました。そして、複雑な1000カテゴリーレベルの分類やAI生成コンテンツタスクに対応する、1396万ニューロンのONNをチップ上に実験的に実現しました。この研究は、フォトニックコンピューティングの実用化に向けた有望な一歩であり、AIにおける様々なアプリケーションをサポートするものです。」

Thin adhesive oil films lead to anomalously stable mixtures of water in oil
薄い接着性のある油膜が水と油の異常に安定な混合物を生む
「油と水は混ざり合わないのが常識ですが、ある種の油の薄い膜が水滴の表面に吸着すると、水滴同士が弱く引き合って安定的に混ざり合うことがわかりました。この現象は数週間も持続し、しかも界面活性剤を一切使っていません。油と水の常識を覆す驚きの発見です。混ざりにくい物質を混ぜる新技術につながるかもしれません。」

A magnetic massive star has experienced a stellar merger
磁場を持つ大質量星が恒星合体を経験した
「大質量星のHD 148937を観測したところ、バイナリー系の片方の星だけが磁場を持ち、もう一方の星よりも若く見えることがわかりました。この結果は、3つ以上の星を含む元の系で2つの星が合体し、磁場を持つ大質量星が生まれたというモデルで再現できます。これは、少なくとも一部の大質量星では、恒星合体によって磁場が形成されるという観測的証拠を提供しています。」

Nitrogen-fixing organelle in a marine alga
海洋性藻類における窒素固定オルガネラ
「窒素固定は大気中の窒素を生物が利用できる形に変換する重要なプロセスですが、これまで原核生物でしか見つかっていませんでした。この研究では、海洋性の単細胞藻類の中に、窒素固定を行うシアノバクテリアが共生していることを発見しました。このシアノバクテリアは、藻類の細胞分裂に合わせて分裂し、藻類からタンパク質を輸入するなど、オルガネラとしての特徴を備えていました。これは、「ニトロプラスト」と呼ばれる新しい窒素固定オルガネラの発見につながりました。」

Realization of an atomic quantum Hall system in four dimensions
4次元原子量子ホール系の実現
「量子ホール効果は通常2次元の導体で起こりますが、この研究では、2つの空間次元と、ディスプロシウム原子の内部状態で表現される2つの合成次元を用いて、4次元の量子ホール系を実現しました。理論予測通り、このシステムは非自明なトポロジカル性質を示し、3次元以下とは対照的な非平面サイクロトロン運動を特徴としています。この成果は、4次元における強く相関したトポロジカル液体の研究を可能にし、分数量子ホール状態を一般化する可能性を秘めています。」

Structural basis of DNA crossover capture by Escherichia coli DNA gyrase 大腸菌DNAジャイレースによるDNAクロスオーバー捕捉の構造基盤
「DNAの絡まりを防ぐためには、トポイソメラーゼによるDNAのほどき具合(超らせん構造)の正確な調節が不可欠です。しかし、IIA型トポイソメラーゼがどのようにDNA基質を認識するのかは、長年の研究にもかかわらず不明でした。Vayssièresらは、ほぼ40年前に予測されたモデルを決定的に裏付ける構造的証拠を提示しました。大腸菌ジャイレースは、切断するDNA鎖と通過させるDNA鎖の両方を同時に結合するために、負の超らせんDNAミニサークルのねじれ応力に逆らって、DNAを正のノードに巻き付けます。クライオ電子顕微鏡構造から、IIA型トポイソメラーゼ間で保存された新しい酵素の溝が明らかになりました。この構造は、ジャイレースによるDNAのほどきと超らせん導入の結合ステップを単一の構造で調和させるものです。」

Size, distribution, and vulnerability of the global soil inorganic carbon 全球の土壌無機炭素の規模、分布、脆弱性
「土の中の炭素と言えば有機物由来のものが注目されがちですが、実は無機物由来の炭素も大量に存在します。研究チームは世界中の土壌データを機械学習で解析し、全球の土壌無機炭素量を初めて定量的に示しました。さらに今後30年で最大230億トンもの無機炭素が失われる可能性を指摘。土壌が大気中の二酸化炭素を吸収する重要な役割を担っていることが明らかになりました。」




要約

大規模フォトニックチップレットTaichiが160TOPS/Wの人工汎用知能を実現

https://doi.org/10.1126/science.adl1203

人工汎用知能(AGI)の追求には、より高い計算性能が常に求められています。フォトニック集積回路は優れた処理速度とエネルギー効率を持っているものの、回避不可能なエラーによってその容量とスケーラビリティが制限され、シンプルなタスクと浅いモデルしか実現できていませんでした。現代のAGIをサポートするために、著者らは統合型回折干渉ハイブリッド設計と一般的な分散コンピューティングアーキテクチャに基づく大規模フォトニックチップレットTaichiを設計しました。Taichiは100万ニューロン以上の能力と160TOPS/Wのエネルギー効率を実験的に達成し、1000カテゴリーレベルの分類や高忠実度のAI生成コンテンツを最大2桁の効率改善で実現しました。この研究は、大規模フォトニックコンピューティングと高度なタスクへの道を開き、現代のAGIにおけるフォトニクスの柔軟性と可能性をさらに引き出すものです。

事前情報
・人工汎用知能(AGI)の追求には、より高い計算性能が求められている。
・フォトニック集積回路は優れた処理速度とエネルギー効率を持っているが、容量とスケーラビリティが制限されている。
・現在の光ニューラルネットワーク(ONN)はシンプルなタスクと浅いモデルしか実現できていない。

行ったこと
・統合型回折干渉ハイブリッド設計と一般的な分散コンピューティングアーキテクチャに基づく大規模フォトニックチップレットTaichiを設計した。
・1396万ニューロンのONNをチップ上に実験的に実現した。
・1000カテゴリーレベルの分類やAI生成コンテンツタスクを行った。

検証方法
・チップ上のONNの性能評価
・1623カテゴリのOmniglotデータセットを用いた分類精度の測定
・AI生成コンテンツの忠実度の評価

分かったこと
・Taichiは100万ニューロン以上の能力と160TOPS/Wのエネルギー効率を達成した。
・1000カテゴリーレベルの分類で91.89%の精度を実現した。
・高忠実度のAI生成コンテンツを最大2桁の効率改善で実現した。

この研究の面白く独創的なところ
・分散型回折干渉ハイブリッドフォトニックコンピューティングアーキテクチャを用いてONNの規模を大幅に拡大した点。
・1396万ニューロンのONNをチップ上に実験的に実現し、複雑なタスクをこなせるようにした点。
・フォトニクスの柔軟性と可能性を現代のAGIにおいて引き出した点。

この研究のアプリケーション
・高性能かつ高エネルギー効率が求められる次世代コンピューティングへの応用。
・画像分類やAI生成コンテンツなどの高度なAIタスクへの適用。

著者と所属
Zhihao Xu, Tiankuang Zhou, Muzhou Ma, Chenchen Deng, Qionghai Dai, Lu Fang (Department of Automation, Tsinghua University, Beijing, China)

大規模フォトニックチップレットTaichiが160TOPS/Wの人工汎用知能を詳しく解説 人工汎用知能(AGI)の実現には、より高い計算性能が求められています。フォトニックコンピューティングは優れた処理速度とエネルギー効率を持っていますが、現在の光ニューラルネットワーク(ONN)は規模と計算能力が限られており、最新のAGIタスクをサポートするのは困難でした。
そこでXuらは、ONNの規模を効果的に拡大するために、分散型回折干渉ハイブリッドフォトニックコンピューティングアーキテクチャを採用した大規模フォトニックチップレットTaichiを設計しました。Taichiは100万ニューロン以上の能力と160TOPS/Wのエネルギー効率を実験的に達成し、1396万ニューロンのONNをチップ上に実現しました。
このONNは、1623カテゴリのOmniglotデータセットを用いた1000カテゴリーレベルの分類で91.89%の精度を実現し、高忠実度のAI生成コンテンツを最大2桁の効率改善で生成することができました。
この研究は、分散型回折干渉ハイブリッドアーキテクチャによるONNの大規模化、複雑なタスクへの対応、フォトニクスの可能性の引き出しという点で独創的です。そして、次世代コンピューティングや高度なAIタスクへの応用が期待されます。


油と水が界面活性剤なしで安定的に混ざり合う新しい現象の発見。

https://science.sciencemag.org/content/384/6692/209

ある種のポリマー油の薄膜が水滴表面に吸着すると、水滴間に弱い引力が生じ、界面活性剤なしで油と水が数週間も安定的に混ざり合うことを発見した。

事前情報
油と水を混ぜるには、通常、界面活性剤などの第三成分を加えて水滴を安定化させる必要がある。

行ったこと
ポリマー油中の水滴の挙動を観察した。

検証方法
水滴間の薄い油膜の安定性と水滴間相互作用を評価した。

分かったこと
水滴を隔てる薄い油膜が水滴間に接着性の相互作用を生み出し、それが水滴の合一を妨げて油と水の混合物を長期間安定化させる。界面活性剤や溶媒は不要。

この研究の面白く独創的なところ
界面活性剤なしで油と水を混ぜる新しい方法を見出した点。油と水の常識に反する現象を発見した点。

この研究のアプリケーション
混ざりにくい物質を混ぜる新技術の開発につながる可能性がある。

著者と所属
Claire Nannette, Jean Baudry, Anqi Chen, Yiqiao Song, Abdulwahed Shglabow, Nicolas Bremond, Damien Démoulin, Jamie Walters, David A. Weitz, and Jérôme Bibette ESPCI Paris, Magendi Institute for Healthcare Technologies, Harvard University など

詳しい解説
この研究では、油と水という混ざり合わない物質を混ぜる新しい方法を発見しました。通常、油と水を混ぜるには、界面活性剤などの第三成分を加えて、水滴を油中に安定的に分散させる必要があります。ところが研究チームは、ある種のポリマー油の薄い膜が水滴の表面に吸着すると、界面活性剤なしで油と水が安定的に混ざり合うことを見出したのです。
この現象のメカニズムを詳しく調べたところ、水滴を隔てる薄い油膜が水滴間に弱い接着性の相互作用を生み出していることがわかりました。この相互作用が水滴同士の合一を妨げ、油と水の混合物を数週間もの長期間にわたって安定化させているのです。驚くべきことに、この現象には界面活性剤や溶媒は一切必要ありません。
油と水は混ざらないというのが常識ですが、この研究はその常識を覆す画期的な発見と言えます。混ざりにくい物質を混ぜる新しい技術の開発につながる可能性もあり、大変興味深い研究成果だと言えるでしょう。


恒星合体により磁場を持つ大質量星が誕生

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg7700

大質量星(形成時に8太陽質量以上)は、放射性の外層を持つため、低質量星で磁場を生成するダイナモを維持できません。それにもかかわらず、約7%の大質量星で磁場が観測されており、その起源は議論の的となっています。研究チームは、2つの大質量星からなるバイナリー系HD 148937を多波長干渉計と分光観測を用いて調べました。その結果、片方の星だけが磁場を持ち、もう一方の星よりも若く見えることがわかりました。このシステムの特性と周囲の双極性星雲は、以前の3重星系で2つの星が合体して磁場を持つ大質量星が生まれたというモデルで再現できます。この結果は、少なくとも一部の大質量星では、恒星合体によって磁場が形成されるという観測的証拠を提供しています。

事前情報
大質量星(形成時に8太陽質量以上)は、放射性の外層を持つため、低質量星で磁場を生成するダイナモを維持できません。それにもかかわらず、約7%の大質量星で磁場が観測されており、その起源は議論の的となっています。

行ったこと
研究チームは、2つの大質量星からなるバイナリー系HD 148937を多波長干渉計と分光観測を用いて特徴づけました。

検証方法
研究チームは、HD 148937システムの多波長干渉計と分光観測を複数の時期に行いました。

分かったこと
観測の結果、HD 148937のバイナリー系の片方の星だけが磁場を持ち、もう一方の星よりも若く見えることがわかりました。このシステムの特性と周囲の双極性星雲は、以前の3重星系で2つの星が合体して磁場を持つ大質量星が生まれたというモデルで再現できます。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、大質量星の磁場の起源について、恒星合体という新しい説明を提供しています。これまで大質量星の磁場の起源は謎でしたが、この研究では観測evidence を基に、少なくとも一部の大質量星では恒星合体によって磁場が形成されることを示唆しています。

この研究のアプリケーション
この研究は、大質量星の進化と磁場の起源について新しい洞察を与えます。大質量星は、重力波イベントやガンマ線バーストなど、宇宙で最も激しい現象に関与しています。大質量星の磁場は、これらの現象に影響を与える可能性があるため、その起源を理解することは重要です。

著者と所属
A. J. Frost, H. Sana, L. Mahy, G. Wade, J. Barron, J.-B. Le Bouquin, A. Mérand, F. R. N. Schneider, T. Shenar, J. V. Smoker (KU Leuven, ロイヤル・オブザーバトリー・オブ・ベルギー, ストラスクライド大学, アムステルダム大学, ESO)

詳しい解説
大質量星は、その大きな質量と高い光度により、宇宙の化学的進化や銀河の形成に重要な役割を果たしています。しかし、大質量星の進化には、まだ多くの謎が残されています。特に、約7%の大質量星で観測される磁場の起源は、長年の議論の的となっています。
この研究では、2つの大質量星からなるバイナリー系HD 148937に注目しました。研究チームは、多波長干渉計と分光観測を用いて、このシステムを詳細に調べました。その結果、驚くべきことに、片方の星だけが磁場を持ち、もう一方の星よりも若く見えることがわかりました。
通常、同じ年頃に生まれた星は同じ年齢に見えるはずです。しかし、HD 148937では、磁場を持つ星の方が若く見えました。この矛盾は、恒星合体というシナリオで説明できます。
研究チームは、HD 148937が以前は3つ以上の星を含む多重星系であり、その中の2つの星が合体して磁場を持つ大質量星が生まれたというモデルを提案しました。合体によって星が若返ったように見え、また、合体の過程で磁場が生成されたと考えられます。このモデルは、HD 148937の特性と、周囲に観測された双極性星雲をうまく説明できます。
この研究は、大質量星の磁場の起源について、恒星合体という新しい説明を提供しました。これは、大質量星の進化を理解する上で重要な一歩です。大質量星は、超新星爆発や連星中性子星の合体など、宇宙で最も激しい現象に関与しています。これらの現象は、重力波やガンマ線バーストとして観測されます。大質量星の磁場は、これらの現象に影響を与える可能性があるため、その起源を理解することは重要な課題です。
今後、より多くの大質量星の観測を通じて、恒星合体が大質量星の磁場の形成にどの程度寄与しているのかを明らかにしていく必要があります。この研究は、そのための重要な手がかりを提供したと言えるでしょう。


海洋藻類に窒素固定を行う新しいオルガネラ「ニトロプラスト」を発見

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk1075

この研究では、海洋性の単細胞藻類に共生する窒素固定シアノバクテリアUCYN-Aが、藻類の細胞構造とオルガネラ分裂に緊密に統合されており、藻類のゲノムにコードされたタンパク質を輸入していることを示しました。これらはオルガネラの特徴であり、UCYN-Aが共生を超えて進化し、「ニトロプラスト」と呼ばれる初期進化段階の窒素固定オルガネラとして機能していることを示しています。

事前情報

  • 窒素固定は原核生物のみが行うことができる重要な代謝プロセス

  • UCYN-Aは海洋性単細胞藻類の共生体であると以前に報告されていた

行ったこと

  • 軟X線トモグラフィーを使用して、藻類の細胞形態と分裂を可視化

  • プロテオミクスにより、UCYN-Aにおける藻類由来のタンパク質の存在を確認

  • UCYN-Aと藻類の細胞周期の同調を観察

検証方法

  • 軟X線トモグラフィーによる細胞形態と分裂の可視化

  • プロテオミクスによるUCYN-Aにおける藻類由来タンパク質の同定

  • 顕微鏡観察によるUCYN-Aと藻類の細胞周期の解析

分かったこと

  • UCYN-Aは藻類の細胞分裂に合わせて分裂し、均等に分配される

  • UCYN-Aには、藻類のゲノムにコードされ輸入された多くのタンパク質が存在する

  • UCYN-Aは共生を超えて進化し、オルガネラとしての特徴を備えている

この研究の面白く独創的なところ

  • 真核生物における窒素固定オルガネラの存在を初めて示した点

  • 共生体からオルガネラへの進化の過渡期を捉えた点

  • 新しいオルガネラ「ニトロプラスト」の発見につながった点

この研究のアプリケーション

  • 窒素固定能力を持つ作物の開発への応用

  • 共生体からオルガネラへの進化メカニズムの解明

  • 海洋生態系における窒素循環の理解の深化

著者と所属
Tyler H. Coale, Valentina Loconte, Kendra A. Turk-Kubo, Bieke Vanslembrouck, Wing Kwan Esther Mak, Shunyan Cheung, Axel Ekman, Jian-Hua Chen, Kyoko Hagino, John A. Burns, Liti Haramaty, Aleš Horák, Steven J. Biller, Daniel J. Repeta, Paul Blainey, Naomi M. Ward, Alexandra Z. Worden, Toby Tyrell, Julie LaRoche, Jonathan P. Zehr
所属: カリフォルニア大学サンタクルーズ校、ゲント大学、兵庫県立大学、マサチューセッツ工科大学、ブルームバーグ・フィランソロピー・パブリック・ヘルス、ウッズホール海洋研究所、デルフト工科大学、サザンプトン大学、ダルハウジー大学

詳しい解説
この研究は、海洋性の単細胞藻類に共生する窒素固定シアノバクテリアUCYN-Aが、藻類の細胞内でオルガネラとしての特徴を備えていることを明らかにしました。これは、真核生物における窒素固定オルガネラの存在を示した初めての発見であり、共生体からオルガネラへの進化の過渡期を捉えた興味深い成果です。
研究グループは、軟X線トモグラフィーを用いて、UCYN-Aを含む藻類の細胞形態と分裂の様子を可視化しました。その結果、UCYN-Aは藻類の細胞分裂に合わせて分裂し、娘細胞に均等に分配されることが分かりました。これは、葉緑体やミトコンドリアといった他のオルガネラと同様の振る舞いです。
さらに、プロテオミクス解析により、UCYN-Aには藻類のゲノムにコードされ輸入された多くのタンパク質が存在することが明らかになりました。これらのタンパク質の中には、生合成や細胞の成長・分裂に不可欠なものが含まれていました。
これらの結果は、UCYN-Aが藻類の細胞内で共生を超えて進化し、オルガネラとしての特徴を備えていることを示しています。研究グループは、このUCYN-Aを「ニトロプラスト」と名付け、初期進化段階の窒素固定オルガネラであると結論付けました。
今回の発見は、窒素固定能力を持つ作物の開発や、共生体からオルガネラへの進化メカニズムの解明、海洋生態系における窒素循環の理解など、様々な分野への応用が期待されます。また、この研究は、生命進化における共生の重要性を再認識させるとともに、真核生物の多様性と適応能力の高さを示す興味深い例でもあります。



4次元の原子量子ホール系を実現し、非平面サイクロトロン運動と非自明なトポロジカル性質を観測した。

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adf8459

この研究では、2つの空間次元と2つの合成次元を用いて、4次元の原子量子ホール系を実現しました。基底バンドの非自明なトポロジカル指数を測定し、非平面サイクロトロン運動を観測しました。

事前情報
現代の凝縮物質物理学では、量子ホール系からトポロジカル絶縁体まで、物質を分類するためにトポロジーの概念が用いられている。合成次元の恩恵を受けた人工システムは、3次元を超える次元で予測されるトポロジカル状態へのアクセスを与える可能性がある。

行ったこと
ディスプロシウム原子の大きなスピンに符号化された2つの空間次元と2つの合成次元を持つ4次元(4D)で展開する原子量子ホール系を実現した。

検証方法
非線形電磁応答の完全な特性評価を通じて基底バンドの非自明なトポロジカル指数を測定し、関連する異方性ハイパーエッジモードを観測した。また、3次元以下の平面軌道とは対照的に、非平面サイクロトロン運動を励起した。

分かったこと
理論予測通り、このシステムは非自明なトポロジカル性質を示し、3次元以下とは対照的な非平面サイクロトロン運動を特徴としている。この成果は、4次元における強く相関したトポロジカル液体の研究を可能にし、分数量子ホール状態を一般化する可能性を秘めている。

この研究の面白く独創的なところ
4次元の量子ホール系を原子を用いて実現し、非平面サイクロトロン運動と非自明なトポロジカル性質を観測した点が独創的です。また、この成果が4次元における強く相関したトポロジカル液体の研究につながる可能性を示したところが興味深いです。

この研究のアプリケーション
この研究は、4次元における新奇なトポロジカル状態の探索や、分数量子ホール状態の一般化につながる可能性があります。また、高次元トポロジカル物質の設計や実現に向けた重要な一歩となるでしょう。

著者
Jean-Baptiste Bouhiron, Aurélien Fabre, Qi Liu, Quentin Redon, Nehal Mittal, Tanish Satoor, Raphael Lopes, and Sylvain Nascimbene

詳しい解説
この研究では、2つの空間次元と2つの合成次元を用いて、4次元の原子量子ホール系を実現しました。合成次元とは、ディスプロシウム原子の内部状態で表現される追加の次元のことです。
まず、基底バンドの非自明なトポロジカル指数を、非線形電磁応答の完全な特性評価を通じて測定しました。また、関連する異方性ハイパーエッジモードも観測しています。
さらに、3次元以下の量子ホール系で見られる平面軌道とは対照的に、この4次元系では非平面サイクロトロン運動を励起することに成功しました。
これらの結果は、理論予測通り、このシステムが非自明なトポロジカル性質を示し、3次元以下とは異なる特徴を持つことを明らかにしています。
この成果は、4次元における強く相関したトポロジカル液体の研究を可能にし、分数量子ホール状態を一般化する可能性を秘めています。また、高次元トポロジカル物質の設計や実現に向けた重要な一歩となるでしょう。
この研究は、トポロジカル物質科学の新たな地平を切り開くものであり、将来の応用にも大きな期待が持たれます。



大腸菌DNAジャイレースによるDNAクロスオーバー捕捉の構造基盤が明らかに

https://doi.org/10.1126/science.adl5899

DNAの絡まりを防ぐには、トポイソメラーゼによる超らせん構造の正確な調節が不可欠である。IIA型DNAトポイソメラーゼが2つのDNA分子と相互作用し、一方の二本鎖切断を介してもう一方の二重らせんを輸送するメカニズムは、位相幾何学的制約のない単一の線状二重らせんDNAのみから得られた構造のため、不明のままであった。Vayssièresらは、大腸菌DNAジャイレースと負の超らせんミニサークルDNAの複合体のクライオ電子顕微鏡構造を解明し、DNAジャイレースがDNAクロスオーバーを捕捉する様子を明らかにした。DNA二重らせんを収容する保存された分子の溝が両方とも明らかになった。分子ピンセット実験と合わせて、この構造は、DNAクロスオーバーが正のキラリティを持つことを示し、ジャイレース媒介のDNAのほどきと超らせん導入の結合ステップを単一の構造で調和させた。

事前情報
・DNAの超らせん構造は、トポイソメラーゼによって正確に調節される必要がある。
・IIA型トポイソメラーゼがDNA基質をどのように認識するかは不明だった。
・これまでの構造は、位相幾何学的制約のない単一の線状二重らせんDNAのみから得られていた。

行ったこと
・大腸菌DNAジャイレースと負の超らせんミニサークルDNAの複合体のクライオ電子顕微鏡構造を解明した。
・分子ピンセット実験を行った。

検証方法
・クライオ電子顕微鏡による構造解析
・分子ピンセット実験

分かったこと
・DNAジャイレースは、DNAを正のノードに巻き付けてDNAクロスオーバーを捕捉する。
・DNA二重らせんを収容する保存された分子の溝が両方とも明らかになった。
・DNAクロスオーバーは正のキラリティを持つ。
・この構造は、ジャイレース媒介のDNAのほどきと超らせん導入の結合ステップを単一の構造で調和させる。

この研究の面白く独創的なところ
・ほぼ40年前に予測されたモデルを決定的に裏付ける構造的証拠を提示した点。
・負の超らせんDNAミニサークルを用いて、生理学的に関連する位相幾何学的制約下でのDNAジャイレースの構造を解明した点。
・DNAのほどきと超らせん導入の結合ステップを単一の構造で調和させた点。

この研究のアプリケーション
・DNAの超らせん構造の調節メカニズムの理解に基づく、新たな抗菌剤のデザイン。
・DNAトポロジーの操作技術への応用。

著者と所属
Marlène Vayssières, Nils Marechal, Long Yun, Brian Lopez Duran, Naveen Kumar Murugasamy, Jonathan M. Fogg, Lynn Zechiedrich, Marc Nadal, Valérie Lamour (Université de Strasbourg, CNRS, INSERM, France; Baylor College of Medicine, USA)

大腸菌DNAジャイレースによるDNAクロスオーバー捕捉の構造基盤を詳しく解説 DNAの超らせん構造は、DNAの複製や転写、組み換えなどの重要な生物学的過程に不可欠ですが、DNAの絡まりを引き起こす可能性もあります。この超らせん構造は、DNAトポイソメラーゼによって正確に調節される必要があります。IIA型DNAトポイソメラーゼは、2つのDNA分子と相互作用し、一方の二本鎖切断を介してもう一方の二重らせんを輸送することで、DNAトポロジーを変化させます。しかし、その詳細なメカニズムは長年の研究にもかかわらず不明でした。
Vayssièresらは、大腸菌DNAジャイレースと負の超らせんミニサークルDNAの複合体のクライオ電子顕微鏡構造を解明し、DNAジャイレースがDNAクロスオーバーを捕捉する様子を明らかにしました。この構造から、DNAジャイレースは負の超らせんDNAのねじれ応力に逆らって、DNAを正のノードに巻き付けることで、切断するDNA鎖と通過させるDNA鎖の両方を同時に結合することがわかりました。また、DNA二重らせんを収容する保存された分子の溝が両方とも明らかになりました。
分子ピンセット実験と合わせて、この構造は、DNAクロスオーバーが正のキラリティを持つことを示し、ジャイレース媒介のDNAのほどきと超らせん導入の結合ステップを単一の構造で調和させました。この研究は、ほぼ40年前に予測されたモデルを決定的に裏付ける構造的証拠を提示し、DNAトポロジーの調節メカニズムの理解を大きく前進させるものです。この知見は、新たな抗菌剤のデザインやDNAトポロジーの操作技術への応用が期待されます。




全球の土壌無機炭素量を初めて定量化し、将来の損失リスクを警鐘。

https://science.sciencemag.org/content/384/6692/233

223,593点の現地測定データとAI解析により、全球の土壌無機炭素量を2305±636億トンと算出。今後30年で最大230億トンが失われる恐れ。土壌から内陸水への無機炭素流出量も年間11.3億トンに上ると判明。

事前情報
土壌無機炭素の全球的な量や分布、将来の損失リスクは十分に解明されていなかった。

行ったこと
223,593点の土壌無機炭素の現地測定データを収集し、機械学習モデルを開発して解析した。

検証方法
現地測定データと機械学習モデルを用いて、土壌無機炭素の全球的な量と分布を推定。将来シナリオ下での損失量も予測した。土壌-内陸水の炭素収支も解析。

分かったこと
全球の土壌には地表から2m深までで2305±636億トンの無機炭素が蓄積。今後30年で最大230億トンが失われる恐れ。土壌から内陸水へ年間11.3±3.3億トンの無機炭素が流出。

この研究の面白く独創的なところ
世界初の土壌無機炭素の全球定量評価を実施。機械学習を駆使して大量のデータを解析。土壌無機炭素の重要性と脆弱性を浮き彫りにした。

この研究のアプリケーション
土壌が気候変動を緩和する上で果たす役割の理解に貢献。土壌管理の改善や内陸水の炭酸塩化学への影響評価に応用可能。

著者と所属
Yuanyuan Huang, Xiaodong Song, Ying-Ping Wang, Josep G. Canadell, Yiqi Luo, Philippe Ciais, Anping Chen, Songbai Hong, Yugang Wang, [...], and Gan-Lin Zhang 中国科学院、西オーストラリア大学、オーストラリア連邦科学産業研究機構、北アリゾナ大学、フランス気候・環境科学研究所など

詳しい解説
この研究は、これまであまり注目されてこなかった土壌中の無機炭素に着目し、その全球的な量と分布を世界で初めて定量的に明らかにしました。研究チームは、世界各地で測定された223,593点もの膨大な土壌無機炭素のデータを収集。機械学習モデルを駆使してこれらのデータを解析した結果、全球の土壌には地表から2m深までの層に2305±636億トンもの無機炭素が蓄積されていることが判明しました。
さらに、将来の土地利用や気候変動のシナリオ下では、今後30年間で最大230億トンもの土壌無機炭素が失われる可能性があると予測されました。特にインドと中国での損失が大きいと見込まれています。加えて、土壌から河川や湖沼などの内陸水系へ流出する無機炭素量を解析したところ、年間11.3±3.3億トンにも上ることが明らかになりました。
この研究は、土壌無機炭素が地球規模の炭素循環に果たす重要な役割を浮き彫りにするとともに、それが決して安定的ではなく、将来的に大きく失われる恐れがあることを示唆しています。土壌は大気中の二酸化炭素を吸収することで気候変動を緩和する働きがあると考えられてきましたが、無機炭素の損失はその機能を脅かしかねません。
この画期的な研究成果は、気候変動対策における土壌管理の重要性を再認識させるとともに、土壌から内陸水への炭素流出が水圏の炭酸塩化学に及ぼす影響の評価にも役立つでしょう。土壌無機炭素をめぐる新たな知見は、地球環境変動の理解を大きく前進させるものと期待されます。


最後に
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