論文まとめ167回目 SCIENCE 2023/11/24~
科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。
さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。
一口コメント
Morphogens enable interacting supracellular phases that generate organ architecture
モルフォゲンによる相互作用する上細胞レベルの相が臓器の構造を生成
「鳥の皮膚におけるモルフォゲンの研究から、細胞の集合体がどのようにして臓器の形状を形成するかが明らかになりました。」
A rugged yet easily navigable fitness landscape
険しいながらも容易に航行可能なフィットネスのランドスケープ
「遺伝的な変異がどのように生物の適応能力に影響を与えるかを理解するため、研究者たちは大規模な遺伝子変異の実験を行いました。」
Uncovering the functional diversity of rare CRISPR-Cas systems with deep terascale clustering
深層テラスケールクラスタリングによる稀なCRISPR-Casシステムの機能的多様性の解明
「新しいCRISPR-Casシステムを見つけるための先進的なアルゴリズムを使用し、遺伝子編集技術の新たな可能性を発掘しました。」
Shot noise in a strange metal
不思議な金属におけるショットノイズ
「通常の金属とは違い、「不思議な金属」では電流を運ぶ疑粒子」
Deconvolving microbial and environmental controls on marine sedimentary pyrite sulfur isotope ratios
海底堆積物中の硫化鉄の硫黄同位体比率における微生物および環境要因の影響の解析
「硫黄同位体の分析から、海洋の環境変化と生物活動の歴史を明らかにする新しいアプローチを提案しました。」
Sedimentary parameters control the sulfur isotope composition of marine pyrite
海洋堆積物中の硫化鉄における硫黄同位体組成を制御する堆積パラメータ
「海底の堆積物中の硫化鉄が持つ硫黄同位体の特徴は、微生物の影響よりも無機反応や輸送過程によって大きく左右されます。」
要約
モルフォゲンが細胞を超えた相互作用により、臓器の形成を促進
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg5579
モルフォゲンは、鳥の皮膚において、細胞集団の自己組織化を促進し、上細胞レベルでの物質的特性の違いを生み出すことで、臓器形成に重要な役割を果たします。
事前情報
モルフォゲンは組織の形態生成に重要な役割を果たしますが、その細胞レベルの影響がどのように上細胞構造にスケールアップするかは不明でした。
行ったこと
鳥の皮膚に焦点を当て、モルフォゲンが上細胞構造をどのように形成するかを調査しました。
検証方法
物理的測定を行い、モルフォゲンが細胞集団における物質的特性の違いをどのように生み出すかを調べました。
分かったこと
モルフォゲンは、組織の「固化」や「流動性」の増加を促し、皮膚の突起形成を促進する上細胞レベルの異なる物質的特性を生み出します。
この研究の面白く独創的なところ
モルフォゲンの効果が個々の細胞レベルではなく、上細胞レベルでの形態変化に関連する点に新しい光を当てています。
この研究のアプリケーション
この研究は臓器形成の新しい理解を提供し、再生医療や組織工学の分野に応用される可能性があります。
進化の複雑な道筋を理解するため、遺伝的フィットネスのランドスケープが詳細に調査
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adi1910
この研究では、遺伝的フィットネスのランドスケープにおける多数の変異型を調査し、高い適応能力を持つピークへの移行が意外と少ない変異で可能であることを明らかにしました。
事前情報
遺伝的フィットネスのランドスケープは、進化生物学の基本的な概念であり、多くのピークを持つが、それらの多くが低い適応能力を示す可能性があると考えられていました。
行ったこと
大腸菌の重要な代謝酵素であるジヒドロ葉酸還元酵素の遺伝子を編集し、26万を超える変異型のフィットネスをマッピングしました。
検証方法
CRISPR-Cas9遺伝子編集技術を使用し、抗生物質トリメトプリムに対する耐性を与えるアミノ酸の変異を広範囲に調査しました。
分かったこと
このフィットネスのランドスケープは極めて険しいものの、高い適応能力を持つピークは、進化する集団によって短いパスを通じて容易に到達可能でした。
この研究の面白く独創的なところ
高い適応能力を持つピークへの到達可能性という点で、従来の考えとは異なる進化の複雑さを示しました。
この研究のアプリケーション
進化の予測不可能性と最適化問題の理解に新たな視点を提供し、進化生物学や遺伝学の研究に新しい理論的枠組みをもたらす可能性があります。
CRISPR-Casシステムの多様な新機能を発見し、生物技術の発展に新たな可能性
https://www.science.org/doi/full/10.1126/science.adi9601
この研究では、FLSHclustアルゴリズムを用いて大規模なデータセット上で深層クラスタリングを行い、CRISPR-Casシステムに関連する新しい188の遺伝子モジュールを発見しました。
事前情報
CRISPR-Casシステムは微生物のRNAガイド型適応免疫システムであり、プログラマブルな遺伝子編集技術の基盤として注目されています。
行ったこと
全ての公開されている配列データからCRISPR関連の遺伝子モジュールを包括的に列挙しました。
検証方法
FLSHclustアルゴリズムを使用して、CRISPR発見パイプラインに組み込み、多様なCRISPR関連システムを同定しました。
分かったこと
CRISPR-Casシステムに関連する新しい188の遺伝子モジュールを同定し、これらのシステムの多くが低頻度でデータベースに存在することを発見しました。
この研究の面白く独創的なところ
新しいクラスタリングアルゴリズムを用いて、CRISPR-Casシステムの未知の機能的多様性を発見し、これらのシステムがRNA誘導型メカニズムに結びついた多様な生化学的機能を持つことを明らかにしました。
この研究のアプリケーション
CRISPR-Casシステムのさらなる活用や、微生物タンパク質の機能的多様性の広範な探索に新たな道を開くことが期待されます。
不思議な金属におけるショットノイズ
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abq6100
研究チームは、不思議な金属フェーズの重いフェルミオン材料YbRh2Si2のナノワイヤーでショットノイズを測定し、従来の金属や理論予想と比較して、この現象が減少していることを確認しました。
事前情報
ショットノイズは、固体中での電荷電流が個別の粒子によって運ばれる現象に関連していますが、不思議な金属フェーズではこの粒子シナリオが崩れると予測されていました。
行ったこと
重いフェルミオン材料YbRh2Si2のナノワイヤーを使用して、不思議な金属フェーズでのショットノイズを測定しました。
検証方法
ナノワイヤーのショットノイズを測定し、通常の金属との比較を行いました。
分かったこと
YbRh2Si2のナノワイヤーにおいて、通常の金属や理論的な予想と比較してショットノイズが著しく減少していることが確認されました。
この研究の面白く独創的なところ
不思議な金属フェーズでのショットノイズの減少は、従来の金属の理解を越えた新たな現象を示しており、物質の電子的特性に関する新たな理解をもたらしました。
この研究のアプリケーション
この発見は、不思議な金属フェーズの理解を深め、新しい電子材料や技術の開発に影響を与える可能性があります。
海底堆積物中の硫化鉄の硫黄同位体比率における微生物および環境要因の影響の解析
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg6103
硫黄同位体の組成が環境や微生物活動に影響されることを示し、これによって過去の海洋・大気の酸化状態や微生物代謝経路の進化を追跡する新たな方法を提示しました。
事前情報
海底の硫化鉄中の硫黄同位体比は、炭素、酸素、硫黄の循環を再構築するためにしばしば使用されていますが、生物学的・物理的プロセスの競合により解釈が複雑化していました。
行ったこと
堆積物中の硫化鉄の硫黄同位体比率に影響を与える微生物および環境要因を新しいマイクロアナリティカル手法を用いて解析しました。
検証方法
硫化鉄中の硫黄同位体の組成を、微生物由来の影響と堆積条件による非生物的分別を区別して測定しました。
分かったこと
気候変動による堆積の変化が、硫黄同位体比率に大きな変動をもたらし、微生物の影響は一定であることが分かりました。
この研究の面白く独創的なところ
この研究は、硫黄同位体記録の解釈に対する新しい視点を提供し、過去の環境変化と生物活動のより正確な再構築に寄与します。
この研究のアプリケーション
地球の過去の環境や生物活動を理解するための硫黄同位体分析における新たなアプローチとして、古環境学や地質学の分野での応用が期待されます。
海洋堆積物の硫化鉄中の硫黄同位体組成は堆積環境の物理的な過程に大きく影響
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh1215
硫化鉄の硫黄同位体組成に影響を及ぼす主な要因は、微生物活動ではなく、堆積環境における無機反応と物質輸送プロセスであることが明らかになりました。
事前情報
海底の硫化鉄の硫黄同位体比は通常、炭素、酸素、硫黄の循環を研究するために用いられますが、生物学的・物理的プロセスの相互作用により解釈が複雑です。
行ったこと
堆積物中の硫化鉄の硫黄同位体組成を制御する要因として、微生物の影響ではなく、物理的な過程を調査しました。
検証方法
地球化学モデルと全世界の堆積物データを組み合わせて分析を行いました。
分かったこと
硫化鉄の硫黄同位体組成において、微生物由来の分別作用は大きく一定であり、観測される変動は主に海水中の硫酸塩濃度の増加や堆積環境の変化によるものであることが分かりました。
この研究の面白く独創的なところ
硫黄同位体比率の解釈に新たな視点を提供し、海洋環境や生物活動の過去の状況をより正確に理解するための新しいアプローチを提示しました。
この研究のアプリケーション
地球の過去の環境や生物活動を解明するための新たな手法として、地球科学や古環境学の分野での応用が期待されます。
最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。