見出し画像

理系論文まとめ23回目 Nature 2023/7/19 ~ 2023/7/19

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのか~と認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。

Covid19が効かない人の遺伝子が分かってきた!


一口コメント

Carbonaceous dust grains seen in the first billion years of cosmic time
宇宙時間の最初の10億年に見られた炭素質ダスト粒
「初期銀河における宇宙塵の難問に対する潜在的な解決策を明らかにするものであ り、おそらくはウルフ・レイエットの星や超新星放出物における急速な形成過程を示唆。」

A spatially resolved timeline of the human maternal–fetal interface
ヒトの母体-胎児界面の空間分解タイムライン
「妊娠初期の子宮の細胞群の時間と場所による変化を詳細に調査し、螺旋動脈のリモデリングがどのように進行するのかを明らかにしました。」

p53 governs an AT1 differentiation programme in lung cancer suppression
p53は肺がん抑制におけるAT1分化プログラムを支配する
「p53遺伝子が肺の細胞の「状態」を制御し、肺がんの発症と進行を抑制する新たなメカニズムを発見しました。」

KRAS(G12D) drives lepidic adenocarcinoma through stem-cell reprogramming
KRAS(G12D)は幹細胞の初期化を介してレピド腺がんを促進する
「肺腺がんの新たな発生源であるAT1細胞が、特定の遺伝子変異により元の「親」であるAT2細胞に戻ることでゆっくりとがんを発生させるという新たながん発生のシナリオを発見しました。」

Extreme dynamics in a biomolecular condensate
生体分子凝縮体における極端なダイナミクス
「見た目上は固体のように見える生物分子の凝集体でも、分子レベルでは高速な動きと構造の変化が起こっていることを明らかにしました。」

A common allele of HLA is associated with asymptomatic SARS-CoV-2 infection
HLAの共通対立遺伝子が無症候性SARS-CoV-2感染と関連している
「特定の遺伝子バリアント、HLA-B*15:01が、一部の人々が病気にならずにCOVID-19を撃退する手助けをしているようです。」


要約

宇宙時間の最初の10億年に見られた炭素質ダスト粒

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06413-w

宇宙がまだ赤ちゃんだったとき、つまり約6億年前に形成された銀河で大量の塵が見つかったと想像してみてください。問題は、そんなに短時間でそんなに多くの塵が形成されたとは誰も予想していなかったということです。この研究では、若い銀河に見つかった特定の塵の特性を見ることで、この謎を解くことを試みています。

①事前情報 :
非常に若い銀河には大量の塵が存在していることがわかっていますが、これは謎です。なぜなら、塵の形成の理論では、そんなに短い時間でそんなに多くの塵が形成されることを説明するのは難しいからです。

②行ったこと :
約10億年までの銀河で塵の特定の特性、つまり2175 Åの塵の減光特性を観察しました。

③検証方法 :
近赤外分光法を用いて、これらの若い銀河の塵特性を観察しました。

④分かったこと :
これらの若い銀河に2175 Åの塵の減光特性が存在することから、塵はかなり迅速に形成された可能性があり、その原因はウォルフ・ライエ星(WR星)や超新星の放出物であった可能性が示唆されました。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
この研究は、非常に若い銀河に存在する大量の塵の謎を解明する可能性があります。2175 Åの塵特性の検出は、宇宙初期の塵の形成の新しい、より速いメカニズムを示唆しています。

応用先
この研究は、銀河と宇宙の形成と進化に関する洞察を提供し、銀河形成と宇宙塵の生成に関 わる物理過程の理解を深めるのに役立つと思われる。



ヒトの母体-胎児界面の空間分解タイムライン

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06298-9

妊娠初期、胎児由来の細胞が母体の子宮を侵略し、子宮内螺旋動脈を大きく広げるリモデリングを行います。これにより、成長する胎児が必要とする栄養を安全に供給します。しかし、どのようにこれが進行し、どの細胞が関与するかについては、長らく不明な点が多かった。今回の研究では、これらのプロセスを詳細に調査し、どの細胞がどの時点で関与し、どのような変化が起こるのかを明らかにしました。

①事前情報 :
妊娠初期には、胎児由来の細胞(EVTs)が子宮を侵略し、子宮の螺旋動脈を大きく広げるというリモデリングが行われます。このプロセスは正常な妊娠に必要であり、螺旋動脈のリモデリングが不十分な場合、妊娠中毒症や胎児の成長制限、早産などの問題が起こることが知られています。

②行ったこと :
妊娠初期の子宮の細胞群の詳細な研究を行い、どの細胞がどの時点で関与し、どのような変化が起こるのかを明らかにしました。

③検証方法 :
妊娠6週から20週までの66人の女性から得られた子宮の組織を分析しました。これにより、妊娠の各段階での子宮の状態を詳細に把握しました。

④分かったこと :
妊娠の進行に伴い、子宮の免疫細胞や間質細胞の頻度が大きく変化することがわかりました。また、螺旋動脈のリモデリングは、胎児由来の細胞の侵入と強く関連していました。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
この研究では、時間と場所による子宮の細胞組成の詳細な変化を明らかにしました。これにより、螺旋動脈のリモデリングがどのように進行し、どの細胞がどのタイミングで関与するのかを理解することが可能になりました。

応用
この研究の結果は、妊娠中毒症や胎児の成長制限、早産などの妊娠関連の合併症の理解と予防に役立つ可能性があります。


p53は肺がん抑制におけるAT1分化プログラムを支配する

https://journals.sagepub.com/doi/10.1177/00031224231173070

この研究では、肺がんの発症と進行に大きく関わる遺伝子であるp53が、肺の細胞を特定の「状態」へと導くことで肺がんを抑制しているという事が示されています。p53が作動すると、肺のある種の細胞(肺胞型2細胞)が別の種類(肺胞型1細胞)へと変わり、結果として肺がんの発症を防ぐようです。この発見は、肺がんの治療法の開発に役立つかもしれません。

事前情報
肺がんは世界中で最も死亡率の高いがんであり、その半数以上でp53という遺伝子が変異しています。しかし、p53が具体的にどのように肺がんの発症を抑制しているかはまだ明らかになっていませんでした。

行ったこと
研究者たちは、肺がんを引き起こすKras遺伝子を持つマウスを使い、p53がどのように肺がんの発症と進行に影響を与えるかを調査しました。

検証方法
遺伝子改変マウスを用いて、p53の量や機能が異なる場合で肺がんの発症や進行がどのように影響を受けるかを比較しました。また、RNAシーケンシングやATACシーケンシングを用いて、肺がん細胞の遺伝子発現パターンを調査し、シングルセルトランスクリプトミクスを用いて、肺がんの進化の過程で細胞状態がどのように変化するかを調べました。

分かったこと
p53が作動すると、肺胞型2細胞が肺胞型1細胞へと変化し、この過程が肺がんの抑制に貢献していることが明らかになりました。さらに、p53が不活性化されると、これらの遷移細胞が不適切に存在し続け、成長信号が上昇し肺の系統から逸脱する特性が見られ、これが肺がんの進行と関連していることがわかりました。

この研究の面白く独創的なところ
これまでの研究で明らかになっていたp53の役割とは別に、この研究ではp53が細胞の「状態」を制御することで肺がんを抑制する新たなメカニズムを見つけました。特に、p53が肺胞型2細胞を肺胞型1細胞へと変化させる過程が肺がんの抑制に重要であるという結果は、細胞の状態の制御ががんの発症と進行にどのように影響を与えるかを理解する上で新たな視点を提供します。

応用
この研究は、肺がんの治療法の開発に役立つ可能性があります。具体的には、p53の作動を促進することで肺がんの発症を防ぐ新たな治療法や、p53の機能を利用して肺がん細胞を肺胞型1細胞へと変化させることで肺がんの進行を防ぐ方法が開発できるかもしれません。


KRAS(G12D)は幹細胞の初期化を介してレピド腺がんを促進する

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06324-w

がんは通常、特定の細胞が異常な遺伝子変化により増殖を始めることで発生します。しかし、この研究では、違ったシナリオが示されています。特定の遺伝子変異(KRAS(G12D))がある成熟した肺の細胞(AT1細胞)に影響を与えると、これらの細胞は時間をかけて元の「親」である別の種類の細胞(AT2細胞)に戻り、その結果としてゆっくりとがんが発生します。つまり、がんの発生元となる細胞は、それがどんな遺伝子変異を持っているかだけでなく、どんな「状態」の細胞かによっても影響を受けるということです。

①事前情報:
肺腺がんの多くは、肺胞上皮型II(AT2)細胞が異常な遺伝子変化により増殖を始めることで発生するとされてきました。

②行ったこと:
本研究では、新たな結果、理論、方法といった異なる種類の新規性と、それらが既存の科学的知識を整理するか、あるいは破壊するかどうかを調査しました。

③検証方法:
KRAS(G12D)という遺伝子変異が成熟した肺胞上皮型I(AT1)細胞にどのような影響を与えるかを調査しました。

④分かったこと:
KRAS(G12D)を発現させたAT1細胞はゆっくりとAT2細胞に逆戻りし、その結果としてゆっくりとがんを発生させることが明らかになりました。このことから、AT1細胞が肺腺がんの新たな発生源となること、そしてKRAS遺伝子が成熟した細胞を親の幹細胞に再プログラムする能力を持つことがわかりました。

⑤この研究の面白く独創的なところ:
これまでの認識である「がんは特定の細胞が異常に増殖することで発生する」という認識を新たな視点から補完する結果を示しています。つまり、特定の遺伝子変異がある成熟した細胞が時間をかけて元の「親」の細胞に戻ることでゆっくりとがんが発生するという新しいがん発生のシナリオを明らかにしました。

応用
この研究の発見は、がんの起源となる細胞の特定や、その後のがんの振る舞いに影響を与える要素の理解に役立つ可能性があります。これにより、新たな治療法や予防策の開発が期待できます。



生体分子凝縮体における極端なダイナミクス

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06329-5

細胞内ではタンパク質や核酸が特殊な形を作ることがあり、それらは物質が濃縮した"凝集体"と呼ばれます。それらの凝集体は、分子レベルから細胞の部門化まで、様々なスケールで機能します。今回の研究では、人間のタンパク質が形成する凝集体を例にとり、その分子レベルでの挙動を調査しました。その結果、見た目上は固体のように見える凝集体の中でも、各タンパク質分子は非常に高速で動き回っており、それぞれの形状を超微小秒レベルで変化させていることがわかりました。

①事前情報:

生物分子の凝集体は細胞内でさまざまな役割を果たしていますが、その分子レベルでの挙動はまだよく理解されていませんでした。

②行ったこと:
強く反対に帯電した人間のタンパク質が形成する凝集体の分子レベルでの動きを調査しました。

③検証方法:
単一分子分光法と大規模な全原子分子動力学シミュレーションを用いて、凝集体内のタンパク質の動きを追いました。

④分かったこと:
タンパク質は、凝集体内で非常に動的に挙動し、その構造を超微小秒レベルで変えていることがわかりました。つまり、凝集体の宏視的な粘性にもかかわらず、分子レベルでの反応に必要な局所的な再配置は速やかに行われています。

⑤この研究の面白さと独創的なところ:
この研究の独創性は、視覚的には固体のように見える凝集体でも、各タンパク質分子は非常に高速で動き回るという、直感に反する結果を明らかにしました。これは、生物分子の凝集体のダイナミクスについての新たな洞察を提供します。

応用
この研究の結果は、生物分子の凝集体が果たす細胞内での役割の理解に役立ちます。例えば、遺伝子発現の調節や、エネルギー生成、物質輸送といった生命維持に必要なプロセスの理解につながるかもしれません。


HLAの共通対立遺伝子が無症候性SARS-CoV-2感染と関連している

https://www.nature.com/articles/s41586-023-06331-x

COVID-19に対する人々の反応に関連している特殊な遺伝子を見つけました。彼らはこの遺伝子が特定の人々がウイルスを撃退し、症状を示さずに済む手助けをしていると考えています。

事前情報
COVID-19に感染しながらも症状を示さない人々が多くいます。科学者たちはこれには遺伝的な理由があると考えており、特に免疫応答に関与するヒト白血球抗原(HLA)に関連していると考えています。

行ったこと
研究者たちは約3万人のボランティアを募り、スマートフォンを使った調査で彼らのCOVID-19の症状と結果を追跡しました。また、ボランティアのHLAの遺伝子型データも調査しました。

検証方法
研究者たちは5つのHLAの部位と疾患の進行との関連性を検証し、HLA-B*15:01というバリアントと無症状感染との間に強い関連性があることを発見しました。さらに、観察されたHLAの関連性についてT細胞の反応性、T細胞受容体のレパートリー、親和性、構造的な影響も調査しました。

分かったこと
HLA-B*15:01のバリアントを持つ人々は、COVID-19に感染した場合、無症状である可能性が高いことがわかりました。さらに、これらの人々のT細胞は類似のウイルスに対する「記憶」を持っており、COVID-19に対して迅速かつ効率的に反応することができるようです。

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、我々の遺伝的な構成がCOVID-19への反応にどれほど大きな役割を果たしているかを示唆しています。また、この情報をどのように使用してより良いワクチンや治療法を開発することができるかを示しています。

応用
この研究の結果は、誰がCOVID-19に罹患する可能性が高く、誰が罹患しないかを予測するのに使用できます。また、新たな治療法やワクチンの開発にも役立つ可能性があります。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。