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論文まとめ302回目 Nature がん治療に光明!?FOXO1の過剰発現がCAR-T細胞の幹細胞性、代謝適合性、治療効果を高める!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Distal colonocytes targeted by C. rodentium recruit T-cell help for barrier defence
C. rodentiumに標的化された遠位結腸細胞は、バリア防御のためにT細胞のヘルプを動員する
「Citrobacter rodentiumという腸管病原菌は、遠位結腸の特殊な腸管上皮細胞(遠位結腸細胞)を標的とします。感染時、遠位結腸細胞はMHCクラスII分子を発現し、病原体特異的なT細胞からIL-22などの防御因子の分泌を促進します。この機構が、腸管バリア防御に重要であることが明らかになりました。」

Phononic switching of magnetization by the ultrafast Barnett effect
超高速バーネット効果によるフォノニックな磁化スイッチング
「常磁性基板中の円偏光光学フォノンを共鳴励起することで、一時的にバーネット効果により自発磁化が生じ、その上に載せたヘテロ構造の磁性状態を永続的に反転させることに成功しました。フォノンの回転方向により磁化反転の方向を制御できるため、超高速バーネット効果は磁気秩序を非局所的かつ超高速に制御する選択的かつ汎用的な方法となる可能性があります。サファイア基板上のGdFeCoヘテロ構造では、サファイアの赤外活性フォノンモードの共鳴励起により、波長と円偏光の向きに依存した磁化スイッチングが観測されました。一方、シリコン基板上のヘテロ構造では、シリコンの赤外不活性フォノンでは磁化スイッチングは起こりませんでした。この結果は、超高速バーネット効果による磁化制御が、基板材料の赤外活性フォノンモードに強く依存することを示しています。」

Cell-type-resolved mosaicism reveals clonal dynamics of the human forebrain
細胞タイプ別に解析したモザイク変異がヒト前脳のクローン動態を明らかにする
「ヒトの脳を構成する興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの起源と関係性は長年の謎でした。本研究では、ヒト脳のモザイク変異を細胞系譜のバーコードとして利用し、大脳皮質や海馬、基底核の細胞クローン動態を解き明かしました。その結果、大脳皮質の興奮性ニューロンと抑制性ニューロンの一部は共通の起源を持つこと、前後軸方向のクローン分散が背腹軸方向に先行することなどが明らかになりました。ヒト脳の発生の謎に一歩迫る画期的な研究です。」

Metabolic rewiring promotes anti-inflammatory effects of glucocorticoids
代謝の再プログラミングが糖質コルチコイドの抗炎症効果を促進する
「糖質コルチコイドは、炎症性疾患の治療に広く使用されていますが、その抗炎症メカニズムは十分に解明されていませんでした。本研究では、糖質コルチコイドがマクロファージのミトコンドリア代謝を再プログラミングし、抗炎症性代謝物であるイタコン酸の産生を増加させることで、炎症反応を抑制することを明らかにしました。この発見は、新しい抗炎症薬の開発につながる可能性があります。」

Mid-ocean ridge unfaulting revealed by magmatic intrusions
マグマ貫入によって明らかになった中央海嶺の逆断層運動
「中央海嶺の軸から約15kmの海嶺フランク部で最近起きた一連の逆断層型地震は、海嶺軸で形成された正断層が海嶺フランクの浅部で圧縮応力を受け、脆性破壊点に達することで逆断層として再活動したことを示しています。マグマ貫入に伴う海嶺軸に沿った広がりの地震活動は、逆断層型地震を引き起こす圧縮応力のわずかな増加をもたらします。海底地形の解析から、中央海嶺の正断層の逆断層化は広く起きており、海嶺軸で形成された直後の海底山地の振幅を最大50%減少させることがわかりました。この「逆断層化」のメカニズムは、世界の海底の地形形成に大きな影響を与え、拡大環境における逆断層型地震の物理的説明を提供します。」

FOXO1 enhances CAR T cell stemness, metabolic fitness and efficacy FOXO1はCAR-T細胞の幹細胞性、代謝適合性、治療効果を高める
「難治性の固形がんに対するCAR-T細胞療法の効果向上は喫緊の課題です。本研究では、転写因子FOXO1の過剰発現が、健常人やがん患者由来のCAR-T細胞においてより未分化な表現型と代謝機能の向上をもたらし、それが生体内での持続性と抗腫瘍効果の増強につながることを明らかにしました。IL-15で培養したCAR-T細胞の特性を遺伝学的に固定化できる画期的なアプローチであり、固形がんに対するCAR-T細胞療法の効果改善に向けた新たな戦略になり得ると期待されます。」


要約

腸管上皮細胞のMHCクラスII分子を介したT細胞との相互作用が、腸管バリア防御に重要である

本研究では、Citrobacter rodentium感染における腸管上皮細胞のIL-22応答の多様性と、T細胞との相互作用の重要性を明らかにした。単一細胞RNA-seqにより、遠位結腸に特異的な腸管上皮細胞(遠位結腸細胞)を同定し、この細胞がC. rodentiumの主要な標的であることを示した。感染時、遠位結腸細胞はMHCクラスII分子を発現し、病原体特異的なT細胞からのIL-22分泌を促進した。遠位結腸細胞特異的なMHCクラスII欠損マウスでは、T細胞からのIL-22産生が減少し、腸管のC. rodentium感染に対する防御能が低下した。以上より、腸管上皮細胞とT細胞の相互作用が、腸管バリア防御に重要であることが明らかになった。

事前情報

  • IL-22は腸管バリア防御に重要な役割を果たす。

  • C. rodentium感染の後期では、T細胞由来のIL-22が感染防御に不可欠である。

  • C. rodentium感染が中部〜遠位結腸に限局する理由は不明であった。

行ったこと

  • 単一細胞RNA-seqにより、遠位結腸特異的な腸管上皮細胞(遠位結腸細胞)を同定した。

  • 遠位結腸細胞がC. rodentiumの主要な感染標的であることを示した。

  • 遠位結腸細胞のMHCクラスII発現がT細胞由来のIL-22産生に重要であることを明らかにした。

検証方法

  • 単一細胞RNA-seqによる腸管上皮細胞の遺伝子発現解析

  • 蛍光顕微鏡による腸管上皮細胞へのC. rodentium付着の観察

  • 遠位結腸細胞特異的MHCクラスII欠損マウスを用いた感染実験

  • 抗原特異的T細胞の養子移入実験

分かったこと

  • 遠位結腸には、近位結腸や小腸とは異なる特殊な腸管上皮細胞(遠位結腸細胞)が存在する。

  • 遠位結腸細胞はC. rodentiumの主要な感染標的である。

  • 感染時、遠位結腸細胞はMHCクラスII分子を発現し、病原体特異的なT細胞からのIL-22分泌を促進する。

  • 遠位結腸細胞特異的なMHCクラスII欠損マウスでは、T細胞からのIL-22産生が減少し、腸管のC. rodentium感染に対する防御能が低下する。

  • 腸管上皮細胞とT細胞の相互作用が、腸管バリア防御に重要である。

この研究の面白く独創的なところ
本研究は、単一細胞RNA-seqを用いて遠位結腸特異的な腸管上皮細胞を同定し、この細胞がC. rodentiumの主要な感染標的であることを明らかにした点が独創的です。さらに、遠位結腸細胞がMHCクラスII分子を発現し、T細胞由来のIL-22産生を促進するという新しい知見を得たところが面白いです。腸管上皮細胞とT細胞の相互作用が腸管バリア防御に重要であることを示した点も、新しい概念を提唱するものとして評価できます。

この研究のアプリケーション
本研究の成果は、腸管感染症の病態解明と治療法開発に役立つと期待されます。遠位結腸細胞とT細胞の相互作用を標的とした新しい治療戦略の開発につながる可能性があります。また、IL-22を介した腸管バリア防御機構の理解は、炎症性腸疾患などの慢性腸疾患の病態解明にも貢献すると考えられます。さらに、本研究で確立された単一細胞RNA-seq解析の手法は、他の腸管疾患研究にも応用可能です。

著者と所属
Carlene L. Zindl, C. Garrett Wilson, Awalpreet S. Chadha, Lennard W. Duck, Baiyi Cai, Stacey N. Harbour, Yoshiko Nagaoka-Kamata, Robin D. Hatton, Min Gao, David A. Figge, Casey T. Weaver (University of Alabama at Birmingham)

詳しい解説
本研究は、Citrobacter rodentium感染における腸管上皮細胞のIL-22応答の多様性と、T細胞との相互作用の重要性を明らかにしたものです。
まず、研究グループは単一細胞RNA-seqを用いて、マウス遠位結腸に特異的な腸管上皮細胞(遠位結腸細胞)を同定しました。遠位結腸細胞は、近位結腸や小腸の腸管上皮細胞とは異なる遺伝子発現プロファイルを示し、特に抗菌ペプチドや好中球遊走因子の発現が高いことが明らかになりました。
次に、蛍光顕微鏡観察により、C. rodentiumが主に遠位結腸細胞に付着・感染することを見出しました。これにより、C. rodentium感染が中部〜遠位結腸に限局する理由が、病原体の遠位結腸細胞への特異的な感染性に起因することが示唆されました。
さらに、C. rodentium感染マウスの解析から、感染後期に遠位結腸細胞がMHCクラスII分子を発現し、病原体特異的なT細胞からのIL-22分泌を促進することが明らかになりました。実際、遠位結腸細胞特異的なMHCクラスII欠損マウスでは、T細胞からのIL-22産生が減少し、腸管のC. rodentium感染に対する防御能が低下しました。
以上の結果から、研究グループは、腸管上皮細胞とT細胞の直接的な相互作用が、腸管バリア防御に重要であるという新しい概念を提唱しました。特に、遠位結腸細胞がMHCクラスII分子を介してT細胞からのIL-22産生を促進するという知見は、腸管感染症の病態解明と治療法開発に役立つと期待されます。
本研究の成果は、腸管上皮細胞の多様性と、T細胞との相互作用の重要性を示した点で意義深いものです。今後、遠位結腸細胞とT細胞の相互作用を標的とした新しい治療戦略の開発や、IL-22を介した腸管バリア防御機構の解明が進むことが期待されます。また、本研究で確立された単一細胞RNA-seq解析の手法は、他の腸管疾患研究にも応用可能であり、腸管バリア機構の理解をさらに深める上で重要なツールになると考えられます。


超高速バーネット効果によるフォノニックな磁化スイッチング

常磁性基板中の円偏光光学フォノンを共鳴励起することで、超高速バーネット効果により生じた一時的な自発磁化を利用して、その上のヘテロ構造の磁性状態を永続的に反転させることに成功した。

事前情報

  • 機械的に回転する物体は、バーネット効果により自発磁化を獲得する。

  • 超短パルスレーザーによる超高速アインシュタイン-ド・ハース効果では、円偏光光学フォノンにスピン角運動量が移行し、磁性体の磁化が消失する。

  • このような高周波格子振動を利用して、近接する磁性体の磁化を反転させる可能性はまだ実験的に探索されていない。

行ったこと

  • 常磁性基板上のヘテロ構造の磁化スイッチングを、円偏光中赤外パルスを用いて実験的に調べた。

  • サファイア、ガラスセラミック、シリコンの3種類の基板材料を用いて、基板のフォノンモードの影響を調べた。

  • 磁気光学イメージングにより、磁化スイッチングの波長依存性と円偏光依存性を調べた。

検証方法

  • 自由電子レーザーを用いた中赤外パルスによる磁化スイッチング実験

  • 磁気光学カー効果を用いた磁化イメージング

  • 4×4 伝達行列法による理論計算

分かったこと

  • サファイア基板上のGdFeCoヘテロ構造では、サファイアの赤外活性フォノンモードの共鳴励起により、波長と円偏光の向きに依存した磁化スイッチングが観測された。

  • ガラスセラミック基板でも同様の結果が得られたが、スイッチング効率はサファイアよりも低かった。

  • シリコン基板上のヘテロ構造では、シリコンの赤外不活性フォノンでは磁化スイッチングは起こらなかった。

  • 超高速バーネット効果による磁化制御は、基板材料の赤外活性フォノンモードに強く依存する。

この研究の面白く独創的なところ

  • バーネット効果を光学的に誘起し、超高速の磁化制御を実現した点。

  • 基板材料のフォノンモードを利用して、非局所的に磁性体の磁化を制御できることを示した点。

  • 基板のフォノンモードの選択により、磁化スイッチングの波長選択性と円偏光選択性を実現した点。

この研究のアプリケーション

  • 超高速・非接触の磁気メモリやスピントロニクスデバイスへの応用

  • フォノニックメタマテリアルを用いた新しい磁気光学デバイスの開発

  • 基板材料のフォノン工学による磁性体の機能制御

著者と所属
C. S. Davies, F. G. N. Fennema, A. Tsukamoto, I. Razdolski, A. V. Kimel, A. Kirilyuk (ラドバウド大学, 日本大学, ビアウィストク大学)

詳しい解説
本研究では、常磁性基板中の円偏光光学フォノンを共鳴励起することで、超高速バーネット効果により生じた一時的な自発磁化を利用して、その上に載せたヘテロ構造の磁性状態を永続的に反転させることに成功しました。
バーネット効果とは、機械的に回転する物体が自発磁化を獲得する現象です。一方、超短パルスレーザーを磁性体に照射すると、円偏光光学フォノンにスピン角運動量が移行し、磁化が消失する超高速アインシュタイン-ド・ハース効果が知られています。しかし、このような高周波格子振動を利用して、近接する磁性体の磁化を反転させる可能性はこれまで実験的に探索されていませんでした。
研究チームは、サファイア、ガラスセラミック、シリコンの3種類の基板上にGdFeCoヘテロ構造を作製し、自由電子レーザーを用いた円偏光中赤外パルスによる磁化スイッチング実験を行いました。その結果、サファイアとガラスセラミック基板上のヘテロ構造では、基板の赤外活性フォノンモードの共鳴励起により、波長と円偏光の向きに依存した磁化スイッチングが観測されました。一方、シリコン基板上のヘテロ構造では、シリコンの赤外不活性フォノンでは磁化スイッチングは起こりませんでした。
この結果は、超高速バーネット効果による磁化制御が、基板材料の赤外活性フォノンモードに強く依存することを示しています。フォノンの回転方向により磁化反転の方向を制御できるため、超高速バーネット効果は磁気秩序を非局所的かつ超高速に制御する選択的かつ汎用的な方法となる可能性があります。
本研究は、バーネット効果を光学的に誘起し、超高速の磁化制御を実現した点で独創的です。また、基板材料のフォノンモードを利用して、非局所的に磁性体の磁化を制御できることを示した点でも画期的といえます。さらに、基板のフォノンモードの選択により、磁化スイッチングの波長選択性と円偏光選択性を実現したことは、新しい磁気光学デバイスの開発につながる可能性を秘めています。
今後、この超高速バーネット効果を利用した超高速・非接触の磁気メモリやスピントロニクスデバイスへの応用が期待されます。また、フォノニックメタマテリアルを用いた新しい磁気光学デバイスの開発や、基板材料のフォノン工学による磁性体の機能制御など、幅広い分野への波及効果が予想されます。


ヒト前脳の細胞クローン動態を細胞タイプ別モザイク解析で解明

ヒト脳内の特定の細胞タイプに存在するモザイク変異を指標として、大脳皮質や海馬、基底核におけるクローン動態を明らかにした。その結果、海馬の興奮性ニューロンは大脳皮質や基底核のニューロンよりも系統が限定されていること、大脳皮質の興奮性ニューロンと一部の抑制性ニューロンが共通の背側起源を持つこと、クローン分散は前後軸方向が背腹軸方向に先行することなどが示された。

事前情報
・ヒト前脳の特定の細胞サブタイプの解剖学的起源と系譜関係については議論が残る
・ヒト成熟脳において直接観察することが、脳の構造的組織と細胞起源の完全な理解に不可欠

行ったこと
・4つの脳半球と2人の神経定型ドナーから287個と780個のモザイク変異をそれぞれ同定
・モザイク変異をクローン動態解明のための細胞タイプ特異的バーコードとして利用

検証方法
・全ゲノムシーケンシング、多重PCR増幅シーケンシング法、1細胞ゲノム
・トランスクリプトーム同時解析
・細胞タイプ特異的および1細胞レベルでのモザイク変異の分布解析

分かったこと
・海馬の興奮性ニューロンは大脳皮質や基底核のニューロンよりも系統が限定されている
・DLX1陽性抑制性ニューロンの一部は、興奮性ニューロンと共通の背側大脳皮質起源を持つ
・クローンの分散は、興奮性・抑制性ニューロンともに前後軸方向が背腹軸方向に先行する

この研究の面白く独創的なところ
・特定の細胞タイプのモザイク変異を指標として、ヒト前脳のクローン動態を解明した点
・大脳皮質の興奮性ニューロンと一部の抑制性ニューロンの共通起源を示した点 ・クローンの分散様式の時間的な違いを明らかにした点

この研究のアプリケーション
・ヒト前脳の発生や構造形成の理解に貢献 ・脳の発生異常や神経発達障害の病態解明につながる可能性
・脳オルガノイドなどの in vitro モデル構築への応用

著者
Changuk Chung, Xiaoxu Yang, Robert F. Hevner, Katie Kennedy, Keng Ioi Vong, Yang Liu, Arzoo Patel, Rahul Nedunuri, Scott T. Barton, Geoffroy Noel, Chelsea Barrows, Valentina Stanley, Swapnil Mittal, Martin W. Breuss, Johannes C. M. Schlachetzki, Stephen F. Kingsmore & Joseph G. Gleeson

本研究は、ヒト脳内の特定の細胞タイプに存在するモザイク変異を、細胞系譜のバーコードとして利用することで、ヒト前脳のクローン動態を明らかにしました。4つの脳半球と2人のドナーから同定された多数のモザイク変異を解析した結果、海馬の興奮性ニューロンは大脳皮質や基底核のニューロンよりも系統が限定されていること、大脳皮質の興奮性ニューロンと一部の抑制性ニューロンが共通の背側起源を持つこと、クローンの分散は前後軸方向が背腹軸方向に先行することなどが示されました。
この研究の新規性は、特定の細胞タイプのモザイク変異を指標としてヒト前脳のクローン動態を解明した点にあります。また、大脳皮質の興奮性ニューロンと一部の抑制性ニューロンの共通起源を示したこと、クローンの分散様式の時間的な違いを明らかにしたことも注目に値します。
これらの知見は、ヒト前脳の発生や構造形成の理解に大きく貢献するものです。また、脳の発生異常や神経発達障害の病態解明につながる可能性もあります。さらに、脳オルガノイドなどの in vitro モデル構築にも応用できるでしょう。
本研究は、ヒト脳の発生の謎に一歩迫る画期的な成果であり、今後の脳科学研究に大きなインパクトを与えるものと期待されます。


糖質コルチコイドの抗炎症作用は、マクロファージのミトコンドリア代謝の再プログラミングによって促進される。


本研究は、糖質コルチコイドの抗炎症作用のメカニズムを解明した。糖質コルチコイドは、マクロファージのミトコンドリア代謝を再プログラミングし、抗炎症性代謝物であるイタコン酸の産生を持続的に増加させることで、炎症反応を抑制する。糖質コルチコイド受容体はピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の一部と相互作用し、TCAサイクルの加速を可能にする。イタコン酸の産生を阻害すると、糖質コルチコイドの抗炎症効果が減弱する。この発見は、免疫介在性炎症性疾患の新しい治療戦略の開発に重要な示唆を与える。

事前情報

  • 糖質コルチコイドは、免疫介在性炎症性疾患の治療に広く使用されている。

  • 糖質コルチコイドの抗炎症メカニズムは十分に解明されていない。

行ったこと

  • マクロファージにおける糖質コルチコイドの代謝およびトランスクリプトームへの影響を解析した。

  • 糖質コルチコイド受容体とピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の相互作用を検討した。

  • イタコン酸の役割を、Acod1欠損マウスや阻害剤を用いて検証した。

  • 多様な免疫介在性炎症性疾患モデルにおける糖質コルチコイドの効果を評価した。

検証方法

  • マクロファージのRNA-seqおよび代謝物の質量分析

  • 免疫蛍光染色および近接ライゲーション

  • Acod1欠損マウスおよび阻害剤を用いた実験

  • 関節炎、喘息、肺傷害などの疾患モデルマウスを用いた解析

分かったこと

  • 糖質コルチコイドは、マクロファージのミトコンドリア代謝を再プログラミングし、イタコン酸の産生を増加させる。

  • 糖質コルチコイド受容体は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体と相互作用し、TCAサイクルの加速を可能にする。

  • イタコン酸の産生阻害は、糖質コルチコイドの抗炎症効果を減弱させる。

  • 糖質コルチコイドの抗炎症効果は、多様な免疫介在性炎症性疾患モデルで確認された。

この研究の面白く独創的なところ
本研究は、糖質コルチコイドの抗炎症作用が、マクロファージのミトコンドリア代謝の再プログラミングによって媒介されることを明らかにした点が独創的です。特に、糖質コルチコイド受容体がピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体と相互作用し、TCAサイクルの加速を可能にするという発見は、代謝と炎症の関連性を示す新しい知見として興味深いです。また、イタコン酸という抗炎症性代謝物の役割に着目し、その産生阻害が糖質コルチコイドの効果を減弱させることを示した点も面白いところです。

この研究のアプリケーション
本研究の成果は、糖質コルチコイドの作用メカニズムの理解を深めるだけでなく、新しい抗炎症薬の開発にも重要な示唆を与えます。イタコン酸の産生を標的とした治療戦略や、糖質コルチコイド受容体とピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の相互作用を模倣する化合物の開発など、新しいアプローチの可能性が期待されます。また、本研究で確立された解析手法は、他の抗炎症薬の作用メカニズムの解明にも応用できると考えられます。

著者と所属
Jean-Philippe Auger, Max Zimmermann, Maria Faas, Ulrich Stifel, David Chambers, Brenda Krishnacoumar, R. Verena Taudte, Charlotte Grund, Gitta Erdmann, Carina Scholtysek, Stefan Uderhardt, Oumaima Ben Brahim, Mónica Pascual Maté, Cornelia Stoll, Martin Böttcher, Katrin Palumbo-Zerr, Matthew S. J. Mangan, Maria Dzamukova, Markus Kieler, Melanie Hofmann, Stephan Blüml, Gernot Schabbauer, Dimitrios Mougiakakos, Uwe Sonnewald, …Gerhard Krönke (University of Erlangen-Nuremberg and Universitätsklinikum Erlangen; Deutsches Zentrum für Immuntherapie (DZI); Ulm University; Leibniz-Institut für Analytische Wissenschaften; University Hospital Essen; German Cancer Research Centre (DKFZ); Otto-von-Guericke University Magdeburg; University of Bonn; Charité - Universitätsmedizin Berlin; Medical University Vienna)

詳しい解説
この研究は、糖質コルチコイドの抗炎症作用のメカニズムに新しい洞察を与えるものです。糖質コルチコイドは、免疫介在性炎症性疾患の治療に広く使用されていますが、その正確な作用機序は十分に解明されていませんでした。
研究グループは、マクロファージを用いた一連の実験により、糖質コルチコイドがミトコンドリア代謝を再プログラミングし、TCAサイクルの加速を引き起こすことを発見しました。この代謝の変化は、抗炎症性代謝物であるイタコン酸の産生を増加させ、炎症性サイトカインの産生を抑制することにつながります。
興味深いことに、糖質コルチコイド受容体はピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の一部と直接相互作用することが明らかになりました。この相互作用が、TCAサイクルの加速を可能にしていると考えられます。
さらに、イタコン酸の産生を阻害すると、糖質コルチコイドの抗炎症効果が減弱することが示されました。Acod1欠損マウスや阻害剤を用いた実験から、イタコン酸が糖質コルチコイドの作用において重要な役割を果たしていることが確認されました。
本研究の成果は、関節炎、喘息、肺傷害など、多様な免疫介在性炎症性疾患モデルでも検証されました。糖質コルチコイドの投与は、これらのモデルにおいて炎症を有意に抑制し、その効果はイタコン酸の産生に依存していました。
以上の結果から、研究グループは、糖質コルチコイドの抗炎症作用が、マクロファージのミトコンドリア代謝の再プログラミングによって媒介されるという新しいメカニズムを提唱しました。この発見は、炎症性疾患の病態理解を深めるとともに、新しい治療戦略の開発に重要な示唆を与えるものです。
今後、イタコン酸の産生を標的とした治療アプローチや、糖質コルチコイド受容体とピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体の相互作用を模倣する化合物の開発など、新しい抗炎症薬の開発が期待されます。また、本研究で確立された解析手法は、他の抗炎症薬の作用メカニズムの解明にも応用できると考えられます。


マグマ貫入によって明らかになった中央海嶺の逆断層運動

中央海嶺の軸から約15kmの海嶺フランク部で最近起きた一連の逆断層型地震と海底地形の解析から、海嶺軸で形成された正断層が海嶺フランクの浅部で圧縮応力を受け、逆断層として再活動する「逆断層化」のプロセスが明らかになった。

事前情報

  • 中央海嶺は地球表面の約3分の2を覆う海底山地を形成する典型的な構造拡大の場である。

  • 中央海嶺軸での構造拡大は、海嶺フランクでの構造短縮によって部分的に打ち消される可能性がある。

行ったこと

  • 中央海嶺と中央インド洋海嶺における最近の逆断層型地震の解析

  • 海嶺フランクの浅部が脆性破壊点に達するまで圧縮されることを示す力学モデルの構築

  • 中央海嶺の正断層の逆断層化が広く起きていることを示す海底地形解析

検証方法

  • 中央海嶺と中央インド洋海嶺における地震データの解析

  • 海嶺フランクの曲げ解放に伴う浅部圧縮応力の力学モデリング

  • 高解像度の海底地形データを用いた断層変位の定量的解析

分かったこと

  • 中央海嶺の軸から約15kmの海嶺フランク部で逆断層型地震が発生している。

  • 海嶺軸から離れるにつれて、海嶺フランクの浅部が脆性破壊点に達するまで圧縮される。

  • マグマ貫入に伴う海嶺軸に沿った地震活動が、逆断層型地震を引き起こす圧縮応力のわずかな増加をもたらす。

  • 中央海嶺の正断層の逆断層化は広く起きており、海嶺軸で形成された直後の海底山地の振幅を最大50%減少させる。

この研究の面白く独創的なところ

  • 拡大環境である中央海嶺で逆断層型地震が発生するメカニズムを解明した点。

  • 海嶺軸での正断層形成と海嶺フランクでの逆断層化という、一見矛盾する現象を統一的に説明した点。

  • マグマ貫入が逆断層型地震の引き金になることを示した点。

この研究のアプリケーション

  • 中央海嶺における地震発生メカニズムの理解の向上

  • 海洋リソスフェアの進化過程の解明

  • 海底地形形成プロセスの解明

著者と所属
Jean-Arthur Olive, Göran Ekström, W. Roger Buck, Zhonglan Liu, Javier Escartín, Manon Bickert (パリ地質学研究所、コロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所、吉林大学、ブレスト大学)

詳しい解説
この研究は、中央海嶺における地震活動と海底地形の詳細な解析を通して、海洋リソスフェアの進化過程に新たな知見をもたらしました。
中央海嶺は、海洋プレートの発散運動によって特徴づけられる典型的な構造拡大の場であり、地球表面の約3分の2を覆う海底山地を形成しています。しかし、この研究では、中央海嶺軸での構造拡大が海嶺フランクでの構造短縮によって部分的に打ち消される可能性があることを示しました。
研究チームは、中央海嶺と中央インド洋海嶺で最近発生した一連の逆断層型地震に着目しました。これらの地震は、海嶺軸から約15kmの海嶺フランク部で発生しており、海嶺軸で形成された正断層が海嶺フランクの浅部で圧縮応力を受け、逆断層として再活動したことを示唆しています。
力学モデルを用いた解析から、海嶺軸の地形から離れるにつれて海洋リソスフェアが曲げ解放される際に、海嶺フランクの浅部が脆性破壊点に達するまで圧縮されることが明らかになりました。さらに、マグマ貫入に伴う海嶺軸に沿った広がりの地震活動が、逆断層型地震を引き起こす圧縮応力のわずかな増加をもたらすことがわかりました。
高解像度の海底地形データを用いた解析から、中央海嶺の正断層の逆断層化は広く起きている現象であり、海嶺軸で形成された直後の海底山地の振幅を最大50%減少させることが明らかになりました。この「逆断層化」のメカニズムは、世界の海底の地形形成に大きな影響を与えており、拡大環境における逆断層型地震の物理的説明を提供しています。
この研究は、中央海嶺における地震発生メカニズムの理解を深め、海洋リソスフェアの進化過程と海底地形形成プロセスの解明に貢献するものです。また、拡大環境である中央海嶺で逆断層型地震が発生するメカニズムを解明し、海嶺軸での正断層形成と海嶺フランクでの逆断層化という一見矛盾する現象を統一的に説明した点で、独創性の高い研究といえます。


FOXO1の過剰発現がCAR-T細胞の幹細胞性、代謝適合性、治療効果を高める

FOXO1の過剰発現が、健常人およびがん患者由来のCAR-T細胞において、より未分化な表現型と改善したミトコンドリア機能に関連し、それが生体内での持続性と治療効果の向上につながることを示した。この結果は、固形がんに対するCAR-T細胞療法の効果を高めるための遺伝学的アプローチの有用性を示唆している。

事前情報
・CAR-T細胞療法は血液がんでは効果を示すが、固形がんでは限定的である
・臨床で用いられるCAR-T細胞の解析から、幹細胞様の表現型とミトコンドリア量の増加が良好な治療成績と関連することが示されている
・IL-15で培養したCAR-T細胞は持続性と代謝機能に優れるが、その特性は一過性である

行ったこと
・IL-15で誘導される転写因子の中からFOXO1に着目し、その過剰発現の効果を検証した
・健常人およびがん患者由来のCAR-T細胞にFOXO1を過剰発現させ、表現型と機能を評価した
・FOXO1過剰発現CAR-T細胞の固形がんモデルマウスにおける治療効果を検討した

検証方法
・フローサイトメトリーによるCAR-T細胞の表現型解析
・シーホースアッセイによるCAR-T細胞の代謝機能評価
・RNA-seqおよびATAC-seqによるCAR-T細胞の遺伝子発現および エピゲノム解析
・同種移植固形がんモデルマウスを用いた治療実験

分かったこと
・FOXO1過剰発現は、CAR-T細胞のCD45RA+CD62L+の幹細胞様表現型を増加させた
・FOXO1過剰発現CAR-T細胞は、代謝機能が改善し、抗原刺激後も疲弊関連遺伝子の発現が抑制された
・FOXO1過剰発現CAR-T細胞は、固形がんモデルマウスにおいて腫瘍内への集積と持続性が向上し、強力な治療効果を示した
・FOXO1の効果は、活性化型変異体よりも野生型で顕著であり、CAR-T細胞の効果細胞への分化を妨げずに幹細胞性を維持できることが重要と考えられた

この研究の面白く独創的なところ
・IL-15の効果を模倣し、かつ遺伝学的に固定化できるFOXO1の同定
・FOXO1による幹細胞性と代謝機能の向上が、実際の抗腫瘍効果の増強につながることを実証
・FOXO1の過剰発現が、がん患者由来のCAR-T細胞の機能改善にも有効であることを示した点

この研究のアプリケーション
・固形がんに対するCAR-T細胞療法の効果改善
・より有効なCAR-T細胞を製造するための基盤技術
・FOXO1の機能を利用した他の免疫細胞療法への応用

著者
Jack D. Chan, Christina M. Scheffler, Isabelle Munoz, Kevin Sek, Joel N. Lee, Yu-Kuan Huang, Kah Min Yap, Nicole Y. L. Saw, Jasmine Li, Amanda X. Y. Chen, Cheok Weng Chan, Emily B. Derrick, Kirsten L. Todd, Junming Tong, Phoebe A. Dunbar, Jiawen Li, Thang X. Hoang, Maria N. de Menezes, Emma V. Petley, Joelle S. Kim, Dat Nguyen, Patrick S. K. Leung, Joan So, Christian Deguit, Joe Zhu, Imran G. House, Lev M. Kats, Andrew M. Scott, Benjamin J. Solomon, Simon J. Harrison, Kylie M. Quinn, Jane Oliaro, Ian A. Parish, Paul J. Neeson, Clare Y. Slaney, Junyun Lai, Paul A. Beavis, Phillip K. Darcy

本研究は、固形がんに対するCAR-T細胞療法の効果向上を目指し、転写因子FOXO1に着目しました。健常人およびがん患者由来のCAR-T細胞にFOXO1を過剰発現させたところ、より未分化な表現型の増加と代謝機能の改善が見られ、これらの変化が生体内での持続性と抗腫瘍効果の増強につながることが明らかになりました。
注目すべきは、FOXO1の効果がIL-15で誘導される変化を遺伝学的に固定化できる点です。IL-15で培養したCAR-T細胞は優れた特性を示すものの、その効果は一過性であるのに対し、FOXO1の過剰発現はより安定的な機能改善をもたらします。また、FOXO1の過剰発現は、がん患者由来のCAR-T細胞に対しても同様の効果を示しました。これは、実際の臨床応用に向けた重要な知見といえます。
本研究の成果は、固形がんに対するCAR-T細胞療法の効果改善に向けた新たな戦略を提示するものです。FOXO1の機能を利用することで、より強力で持続性の高いCAR-T細胞を製造できる可能性が示されました。さらに、この知見はCAR-T細胞以外の免疫細胞療法の改良にも応用できるかもしれません。
難治性の固形がんを克服するための切り札となり得る本研究の進展から目が離せません。




最後に
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