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理系論文まとめ52回目 Lancet(医学) 2023/7/23

非侵襲的サンプルから子宮頸がんの早期発見!

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなLancetです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Evaluation of somatic mutations in cervicovaginal samples as a non-invasive method for the detection and molecular classification of endometrial cancer
子宮内膜癌の検出および分子分類のための非侵襲的方法としての子宮頸部膣検体における体細胞突然変異の評価
「非侵襲的サンプルからの子宮内膜がんの早期検出と分子分類を可能にする研究。」

Widespread dysregulation of mRNA splicing implicates RNA processing in the development and progression of Huntington's disease
mRNAスプライシングの広範な調節異常は、ハンチントン病の発症と進行にRNAプロセシングが関与していることを示唆している
「ハンチントン病の細胞モデルを用いて、早期の病態形成に関与する広範囲なスプライシング異常を明らかにしました。」

A celastrol-based nanodrug with reduced hepatotoxicity for primary and metastatic cancer treatment
肝毒性を低減したセラストロールベースのナノドラッグによる原発性および転移性癌の治療
「セラストロールを効率的に癌細胞に送達し、副作用を大幅に軽減する新しいナノドラッグを開発しました。」

Potential global loss of life expected due to COVID-19 disruptions to organised colorectal cancer screening
COVID-19による組織的大腸がん検診の中断により予想される世界的な潜在的生命損失
「COVID-19パンデミックによる大腸癌スクリーニングの中断がCRCの増加と死亡にどの程度影響を与え、追いつきスクリーニングがどれだけ有効かを推定しました。」

Interferon β-1a ring prophylaxis to reduce household transmission of SARS-CoV-2: a cluster randomised clinical trial
インターフェロンβ-1aリングによるSARS-CoV-2の家庭内伝播予防:クラスター無作為化臨床試験
「SARS-CoV-2の家庭内伝播に対するIFNβ-1aの予防的投与の効果は確認できませんでした。」

Clinical decision thresholds for surfactant administration in preterm infants: a systematic review and network meta-analysis
早産児における界面活性剤投与の臨床的判断基準値:系統的レビューとネットワークメタ解析
「RDSを持つ早産児に対するサーファクタント投与の最適な閾値を明らかにし、30週以下の新生児に対してはFiO2が40%以上の場合にサーファクタント投与を検討することを示唆しています。」


要約

子宮内膜がんの早期発見と分類のために、非侵襲的サンプルから47の遺伝子を標的とした次世代シーケンシング(NGS)による遺伝子変異の分析を試みた研究です。

Evaluation of somatic mutations in cervicovaginal samples as a non-invasive method for the detection and molecular classification of endometrial cancer - eBioMedicine (thelancet.com)

子宮内膜がんの早期発見と分類のために、非侵襲的サンプルから47の遺伝子を標的とした次世代シーケンシング(NGS)による遺伝子変異の分析を試みた研究です。

①事前情報 :
子宮内膜がんの発生率は世界中で増加しています。診断の遅れは生存率を下げますが、症例の分子的な誤分類は過剰治療や不十分な治療につながる可能性があります。

②行ったこと :
スペインのケースコントロール研究から、子宮内膜がんの患者139人と対照群107人を含む339の子宮頸部腟サンプルを分析し、47の遺伝子を対象とした次世代シーケンシング(NGS)テストを行いました。

③検証方法 :
全339の子宮頸部腟サンプル(医師が採取したもの228、自己採取したもの111)をNGSにより分析し、それぞれを訓練用159サンプル、検証用180サンプルに分けて検証しました。

④分かったこと :
子宮内膜がんの患者の73%(医師が採取したサンプル129中94、自己採取したサンプル90中66)で遺伝子変異が検出されました。また、子宮内膜がんの分子的分類は疾患無再発生存に有意な差を示し、POLE遺伝子に変異を持つ症例は極めて良好な予後を示し、一方TP53遺伝子に変異を持つ症例は最悪の臨床結果を示しました。

⑤この研究の面白く独創的なところ :
子宮頸部腟サンプル(非侵襲的サンプル)からの子宮内膜がんの分子的分類という新たなアプローチを採用したことが独創的であります。

応用先
この研究結果は、非侵襲的サンプルからの子宮内膜がんの早期検出と分子分類の可能性を示しており、病状に応じた早期の適切な治療介入を可能にするため、臨床的な応用が期待されます。



mRNAスプライシングの広範な調節異常は、ハンチントン病の発症と進行にRNAプロセシングが関与していることを示唆している

Widespread dysregulation of mRNA splicing implicates RNA processing in the development and progression of Huntington's disease - eBioMedicine (thelancet.com)

この研究は、ハンチントン病(HD)の早期の細胞モデルにおいて広範囲にわたるスプライシングの異常を調査し、早期のニューロン発達から病気の後期に至るまでのスプライシングの異常がハンチントン病の病態形成に関与していることを示しました。

①事前情報 :
ハンチントン病は、Huntingtin (HTT) 遺伝子におけるCAGリピートの拡大突然変異により引き起こされ、mRNAの処理が妨げられる疾患です。

②行ったこと :
ハンチントン病の早期の細胞モデルを使用して、スプライシングの異常を調査しました。

③検証方法 :
代替スプライシングの分析とプロテオゲノミクスの手法を組み合わせて、早期のハンチントン病細胞モデルでのCAG長に関連したスプライシングの変化を調査しました。

④分かったこと :
ニューロン分化ステージとCAG長に依存した広範なスプライシングの変化があり、変異を持つHTT関連のスプライシングでは、RNA処理、ニューロン機能、エピジェネティック修飾関連遺伝子が豊富に見られました。

⑤独創的なところ :
プロテオミクスのデータセットと統合することにより、これらのスプライシングの差異をプロテインレベルで識別しました。また、ヒトの死後脳組織とマウスモデルのデータと比較することで、胚性幹細胞から死後の線条体組織に至るまでのスプライシングの変化の共通パターンを識別しました。

応用
この研究は、ハンチントン病の早期診断や治療戦略の改善に寄与する可能性があります。また、スプライシング異常が神経機能の障害と神経病理につながる可能性を示しており、新たな治療ターゲットの特定にもつながる可能性があります。


肝毒性を低減したセラストロールベースのナノドラッグによる原発性および転移性癌の治療

A celastrol-based nanodrug with reduced hepatotoxicity for primary and metastatic cancer treatment - eBioMedicine (thelancet.com)

この研究では、セラストロール(抗腫瘍活性を持つ化合物)をナノドラッグとして癌細胞に対する特異的なデリバリーを実現し、その副作用を大幅に軽減する新しい戦略を開発しました。

事前情報
セラストロールは、トリプテリウム・ウィルフォーディイから抽出される生物活性化合物で、優れた抗腫瘍活性を示しますが、その溶解性の悪さと重篤な臓器毒性副作用が臨床応用を妨げています。

行ったこと
セラストロールをLMWHとP-セレクチン標的ペプチド(PSN)と結合させ、ナノドラッグ(PLC-NP)を設計し、これを用いて腫瘍部位にセラストロールを送達し、副作用を効果的に軽減する方法を試みました。

検証方法
多数の試験管内実験と動物実験を行い、治療効果と副作用を評価しました。さらに、抗腫瘍活性の特異的なメカニズムも探求しました。

分かったこと
PLC-NPナノドラッグは球形で、平均粒子径は115.83 ± 6.93 nmでした。これらのナノドラッグは血液循環中で安定しており、P-セレクチンを高く発現している腫瘍細胞に対して特異的にターゲットを絞り、その後、細胞内の酸性環境と高いエステラーゼレベルの下でセラストロールを放出します。細胞内外の両方の結果から、ナノドラッグに形成された後のセラストロールの抗腫瘍能力と抗転移能力は衰えることなく、実際には強化されました。更に重要なことに、修飾されたセラストロールのナノドラッグの臓器毒性は大幅に減少しました。

この研究の面白く独創的なところ
PI3K/Akt/mTORシグナル伝達経路の不活性化とROS介在のミトコンドリア機能不全が、セラストロールによる自己飲食作用とアポトーシス(細胞死)に重要な役割を果たすことが示されました。

応用
この研究は、毒性化合物を臨床的な治療ナノ医薬に変換する可能性を示しており、実際の癌治療における新たな戦略として活用できます。


COVID-19による組織的大腸がん検診の中断により予想される世界的な潜在的生命損失

Potential global loss of life expected due to COVID-19 disruptions to organised colorectal cancer screening - eClinicalMedicine (thelancet.com)

この研究では、COVID-19パンデミックにより大幅に影響を受けた大腸癌(CRC)スクリーニングプログラムの中断が、CRCの発生と死亡にどの程度影響を及ぼすか、そして追いつきスクリーニングがどの程度効果を持つかを推定しました。

①事前情報:
COVID-19パンデミックは全世界の大腸癌スクリーニングプログラムに深刻な影響を与え、いくつかのプログラムは完全にスクリーニングを停止し、他のプログラムでは参加者数と診断フォローアップが大幅に減少しました。

②行ったこと:
29の国で組織化されたスクリーニングプログラムを調査し、2020年の参加率とCOVID関連のスクリーニングの変化のデータを抽出しました。4つの独立したマイクロシミュレーションモデル(ASCCA、MISCAN-Colon、OncoSim、Policy1-Bowel)を使用して、2020年のスクリーニング参加率の減少に基づいたCRCの症例と死亡の長期的な影響を推定しました。

③検証方法:
2020年の参加データが利用できない国では、過剰死亡率に基づいてスクリーニングの変化を推定しました。また、2021年に追加スクリーニングを行うという追いつき戦略もシミュレーションしました。

④分かったこと:
直接的なデータが利用できる国では、2020年に国レベルで組織化されたCRCスクリーニングの量が約1.3-40.5%減少しました。この結果、2020年に740万回の便検査が行われなかったと推定されています。追いつきスクリーニングが全く行われなければ、2020年から2050年までに約13,000件のCRC追加症例と約7,900人の追加死亡者が発生すると推定されます。この内、追加症例の79%、追加死亡者の85%が追いつきスクリーニングにより防止可能でした。

⑤この研究の面白く独創的なところ:
COVID-19によるスクリーニングの中断がCRCの発生と死亡にどのように影響を与えるかを、マイクロシミュレーションモデルを用いて定量的に評価した点です。

応用
この研究は、パンデミックや他の大規模な公衆衛生危機が癌スクリーニングプログラムに与える影響を理解し、効果的な追いつきスクリーニング戦略を計画する際の有用な情報を提供します。


インターフェロンβ-1aリングによるSARS-CoV-2の家庭内伝播予防:クラスター無作為化臨床試験

Interferon β-1a ring prophylaxis to reduce household transmission of SARS-CoV-2: a cluster randomised clinical trial - eClinicalMedicine (thelancet.com)

IFNβ-1aの投与がSARS-CoV-2の家庭内伝播に影響を与えるかどうかを評価するためのクラスターランダム化オープンラベル臨床試験が行われた。結果として、IFNβ-1aの投与はウイルスの排出期間やウイルスの家庭内伝播に影響を与えなかった。

①事前情報:
SARS-CoV-2に対する早期で強力なタイプ1インターフェロン(IFN)応答は、COVID-19の結果を決定する上で重要であるとの証拠が増えてきています。不十分なIFN応答は疾患の重症度と関連しています。

②行ったこと:
2020年12月3日から2021年6月29日までの間に、ペグ化IFNβ-1a投与の効果を調査するためのクラスターランダム化オープンラベル臨床試験が行われました。

③検証方法:
サンティアゴのSARS-CoV-2陽性者データベースからインデックスケースが識別され、ペグ化IFNβ-1a投与群(172世帯、607参加者)と通常ケア群(169世帯、565参加者)にクラスターランダム化されました。ウイルスの排出と伝播の影響を調査しました。

④分かったこと:
結果として、IFNβ-1a治療はインデックスケースのウイルス排出期間(絶対リスク低減= -0.2%、95% CI = -8.46%から8.06%)や家庭内でのSARS-CoV-2の伝播(絶対リスク低減= 3.87%、95% CI = -3.6%から11.3%)に影響を与えませんでした。

⑤この研究の面白さと独創的なところ:
本研究では、IFNβ-1aの予防的な使用がSARS-CoV-2の伝播にどのように影響するかを調査するための大規模なクラスターランダム化試験が行われました。これは新型コロナウイルスの予防策を探るための新たな試みでした。

応用
本研究の結果は、SARS-CoV-2の家庭内伝播を防ぐためのインターフェロンの使用に対する期待を調整するものであり、今後の予防戦略の設計に役立つ可能性があります。


早産児における界面活性剤投与の臨床的判断基準値:系統的レビューとネットワークメタ解析

Clinical decision thresholds for surfactant administration in preterm infants: a systematic review and network meta-analysis - eClinicalMedicine (thelancet.com)

この系統的レビューは、呼吸窮迫症候群(RDS)に苦しむ早産児にサーファクタントを投与するための最も有益な基準を決定するために行われました。

事前情報
RDSを持つ早産児に対するサーファクタントの投与の最適なタイミングは議論の的でした。

行ったこと
ランダム化比較試験(RCT)の系統的なレビューを行い、33の介入のネットワークメタ分析を行いました。主なアウトカムとして、生後7日以内の侵襲的機械換気(IMV)の必要性を考慮しました。

検証方法
Medline、Embase、CENTRAL、およびCINAHLデータベースで検索を行いました。介入を評価するためにベイジアンランダム効果ネットワークメタ分析を使用しました。

分かったこと
30週以下の早産児に対して、FiO2が40%以上必要な場合にはサーファクタントを検討することが分かりました。しかし、FiO2の閾値:30%対40%の比較についての証拠は不十分でした。30週以上の新生児に対しては、特定のサーファクタント投与方法がIMVのリスクを可能性として高めることが分かりました。

この研究の面白く独創的なところ
ベイジアンランダム効果ネットワークメタ分析の使用により、多数の介入間での頑健な比較が可能となり、異なる早産期の新生児に対する最適なサーファクタント投与基準についての洞察を提供しました。

応用
研究結果は、臨床医がRDSを持つ早産児に対していつサーファクタント投与を検討するべきかについてのガイダンスを提供し、これらの患者のアウトカムを改善する可能性があります。


最後に
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