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【制作過程】夏目漱石「坊っちゃん」の装画

イラストレーションのコンペティション、「ギャラリーハウスMAYA装画コンペVol.20」用に作品を制作しました。このコンペでは、4作品まで出品が可能で、そのうち1作品は課題図書の装画を描くことになっていたので、私は、夏目漱石の「坊っちゃん」の装画を描くことにしました。

初めに「長く多くの人に読まれてきた夏目漱石の『坊っちゃん』の新しい装画とは?私だからこそ描けるものはなんだろう?」と考えました。今までの坊ちゃんの装画を書店やネットで確認してみると、明治の書生風の恰好をした主人公とその当時の文明の象徴だった蒸気機関車がレイアウトされ、明治の時代感や主人公の破天荒さ、真っすぐで痛快な様子をコミカルに伝えているものが多いように感じました。
私は「おそらく、このような主人公の姿が「坊ちゃん」という小説の一般的なイメージだが、もっと、主人公の違う一面を伝えられないだろうか」と考えていました。

本文を読んでいく中で、主人公が、教師として赴任した四国で、何かにつけて、「清はどうしているか」「清だったらこうしてくれたのに」とつぶやく描写が繰り返しでてきます。清とは、主人公の家に仕えていた下女の老婆で、なにかと彼の世話を焼いてくれた女性です。清が坊ちゃんの心の支えになっていたのだなと強く感じるようになっていきました。

清は、無鉄砲な坊ちゃんを周囲が叱ったり、非難する中で、幼い頃から常に「坊ちゃんはいいご気性です。」と言って、肯定し、認めてくれていました。その経験が、彼の真っすぐな性格、生き方につながっているのだろうなと思いました。また、読者としては、彼が、何かと周囲とぶつかるシーンが多い中で、清との穏やかなやり取りは、読んでいて一息つかせてくれる安心感がありました。そのような点から、清と主人公(坊っちゃん)の親密な、人情味あふれる関係を描きたいと思いました。それが、破天荒なイメージとは違ったおだやかさ、愛情深さを持った「坊っちゃん」の新しいイメージにつながるのではないかと考えました。

アイデアのラフスケッチ

このような理由から、坊っちゃんと清の二人の関係を描くことに決めました。下記が初期アイデアのラフです。

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当初は直接的に坊っちゃんと清の二人を描き、どのような関係にあるのかを伝えようとしていました。赴任前の出発のシーンや出発前に何かと世話を焼く清の愛らしい姿などを描いています。

ラフを描いていくにつれ、二人を直接的に描くより、主人公ひとりを描きながらも、清の存在も暗示する方法はないかと考えるようになりました。

本文を読み込む中で、清からの、長文でひらがなばかりの手紙を、せっかちな坊っちゃんが懸命に読もうとするシーンがありました。これは探していたシーンにぴったりだったので、このシーンから具体的な構図を検討していくことにしました。見た人が、「主人公が読んでいる手紙はいったい誰からだったのだろう」と考えながら読んでもらえたら、いっそうこの本を楽しんでもらえるのではないかとも考えていました。

手紙検討ラフ

構図は下段中央の案で行くことにしました。

カラーラフ

何かと周囲とぶつかりがちな坊ちゃんが清からの手紙を穏やかに読みふける様子に合うカラー案をめざしました。左端が最も現実の色合いに近く、中央、右端は色相差や明度差を変えて検討。

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破天荒な「坊っちゃん」像とは違った自然で穏やかな一面をあらわせるのはどれかと考え、左端の案をベースにしつつ、床や窓枠の色を優しい光の感じを出すため調整し、仕上げました。下記が完成作品です。

2020713 結合 75

以下には、他の出品作品も掲載していますので、よろしければ、ご覧ください。ナボコフの「ロリータ」の装画です。

LOLITA | ロリータ https://scrapbox.io/arataizumitaki/LOLITA_%7C_%E3%83%AD%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%BF

お読みいただきありがとうございました。





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