「ダーリン（仮）闇堕ち防止計画」第３話

　とはいえダーリン（仮）は、父親にとって愛する女性との息子には間違いなかったんでしょうね。最初の頃の目に見えた虐待は厳しく注意され、表向きは無くなったわ。

　反動で夫人や異母兄達の燻った憎悪を向けられる事になるのも、ある意味セオリーじゃないかしら。

　ほんと、クズなのは父親。もっとやり方あったでしょうって、襟首掴まえてガクンガクンさせるぞってレベルよ。まったく。

　もちろんダーリン(仮)からしたら夫人と異母兄達が夫や父親に愛されなかった八つ当たりに感じていたわ。私と初めて対面した時なんて、負のオーラにどっぷり浸って……まあそれはそれでヤンデレとかいう違う扉を開きそうな……いえ、痛々しかったのよ。

　ちなみに私のダーリン（仮）の父親は、従兄弟同士。ダーリン（仮）が十四歳の時、たまたま私が見かけてね。あれ、闇堕ち兄さんじゃないかってピンときたの。

　速攻でうちの父親に、アンタの従弟の子供ヤバ過ぎよって伝えて、一時的避難をダーリン（仮）の父親にもちかけさせたわ。

　当時九歳の私、グッジョブ。

　結果、うちが引き取ったようなもの。結果的にダーリン（仮）は、ドス黒い時代から抜ける転機となった。

　ただ公爵家の面々はダーリン（仮）が公爵家の籍を抜いて貰えなかったのもあって、間違いなく延々と憎悪を募らせ続けちゃったみたい。人の業の深さって、本当に根深い。

　もちろん悪いのはダーリン（仮）の父親よ。中途半端な愛情表現も、大概にしてほしいものね。

　というわけで、まず私はそこのところをダーリン（仮）に滾々と説いたわ。

　夫、または父親からの愛情はなく、その立場から常に完璧を求められる環境で生きてきた人達。当主の身勝手な命令でダーリン（仮）を受け入れろと強要されたら……そりゃ何年経っても憎くもなるってものよって。

　あの夢のように半分血が繋がった兄であっても、将来的に刺客を送るくらい憎悪されるかもしれないと現実的な話も混じえて。

『カインからすれば、もちろん理不尽。けれど夫人達からしても、庶子の存在は理不尽よ。カインがいっそ世界ごとムカつくのは当然だし、自由だし、権利でもある。けれどそれは彼らも同じだといい加減認めたら？』

『つまらない縁故を生む前に、せめて気持ちの上だけでも父親共々縁を切れないの？　公爵家の人達と関係改善なんて希望を抱くなんて、馬鹿なの？　気を抜いたら殺られるくらい、これからカインは憎まれちゃうわよ？』

　この直後ね。掴み合いの喧嘩になっちゃった。うん、私の全く容赦のない言葉にダーリン（仮）の心はズタズタにされて、とっても痛かったと思うのよ。

　ちなみにカインがダーリン（仮）の名前。

　思春期ど真ん中だった少年の心は、現実を素直に受け止めきれなかったみたい。

　しかもダーリン（仮）には、私が何不自由なく生きてきたようにしか見えない美幼女ですもの。ちょっと特殊な家系だったんだけれど十四歳の少年からしたら、そんなの関係ねえってやつ。

「ふざけんな！　何も知らねえ、甘やかされて育った根っから貴族のクソガキが！　こっちは被害者なんだ！　加害者の事なんか知るかよ！」

　うん、そう言っちゃうよね。わかる。わかるのよ。

　とはいえ、その後私にボコボコにされて、魔獣蔓延る辺境奥地の森に捨てられちゃって、返り討ちにあったのも仕方ないわよ？　私の胸ぐら掴んで、殴りかかったんだもの。不可抗力よね。ね？

　辺境領主私達家族は魔獣とか暴力とか、そういうのありきで領地を治める一族なの。私もぶっちゃけ、五歳くらいから魔獣やら盗賊やらの討伐に領地開拓、隣国との小競り合いにって色々駆り出されてきちゃった。
　甘やかされる？　何それ、私を殺したいの？　な、サイコ的環境よ。

　甘やかされた瞬間、命の危機。甘えた考えを持っていたら、何かしらの理由で殺られちゃう。被害者とか加害者とか言ってられない。向かって来る奴はひとまず敵認定。愛は拳で語ってナンボ。加害者にも被害者にもなっちゃう脳筋生活ですもの。

　まあそんなわけで、わが家からの最初の洗礼は私の両親でも二人いる私の実兄でもない。末子で唯一の娘である、私の手によって行われてしまったわ。

　今思えば恋する女子として、完全なる悪手。その頃は、まだ恋を知らない子供だった自分が憎いわ。

　もう少し……そうね。顔だけは数発のグーパンチくらいで止めておけば良かったかもしれない。

　あ、もちろん森にポイ捨てはしなかったわ。まだダーリン(仮)への愛を感じていなかった私、グッジョブ。気配を消して、傍に付いて守ってあげていたもの。

　でもまあ、それから数年後。ダーリン（仮）への恋心が芽生えて何度か告白しても、余裕のお断り。つれなかったわぁ。

　でも……そうよね、女として見られるわけないのよね。ダーリン（仮）が私に戦闘で勝てた事なんて一度もなかったし。